マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

アホウドリ

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てんまさんは、マメチュー先生にこんな風に言われたことがありました。

「マメチュー先生?」

 

「患者さんの言うことを、信じてはいけないのです」

「信じては…いけない?」

「そうです。決して信じないでください」

 

 

 

「マンマー、ママママー。まだかなぁ?マンマー♪」

 

「てんまちゃん?ぼくねー。美容院に行ってるママを待ってるんだー。大人しく待ってるのー」

「そうなんだ、いい子だね」

 

「ねーえっ。なにか、お話して。おはなしー」

「お話?」

「うん」

 

「ええと、じゃあね。アホウドリって知ってる?」

「うん」

 

「英語でアルバトロスとも言うんだけどね。これはゴルフ用語でもあってホールインワンを出すよりも、難しい終了のさせ方なんだって」

「どうしてアルバトロスってお名前をつけたの?」

「飛翔力…ええとね、お空を飛ぶのがすっごく上手だからみたいだよ」

 

「ねぇねぇ。すごいのにどうしてアホウって言うの?飛ぶのが上手なんてさー、ぼくだったら、みんなにジマンしちゃうのに」

「そうだよね。自慢しちゃうくらいすごい事だよね。あのね、アホウって言われているのはね、あの子たちが人を疑わないからなんだって」

疑うことを知らない子

「なに?どこいくのー?たのしいとこ?」

「…」

「ねぇ、たのしいとこ?」

 

 

簡単に捕らえられてしまうアホウドリ。

彼らは人間に対する警戒心が弱いのです。

 

「?それってアホなの?へんなの。ちがうよね」

「みんないい人ならよかったんだけど、ね」

 

トビーくんには難しいかもしれませんが、野生の世界では”アホウ”と呼ばれてしまうのかもしれません。

でもいい人ばかりの世界じゃ、人はこんなに知能が発達する事はなかったかもしれない。

 

滅びる事もないけれど、成長する事もなかったのかもしれない。

 

 

どちらがいいのか…

それはやっぱり難しいお話です。

 

アホウドリにとってはきっと、みんながおともだち。

だからつい全ての人を信用してしまう。

 

てんまさんはかつて、マメチュー先生に言われたことがありました。

 

「患者さんの言うことをそのまま信じてはいけません。言われるがままお薬を渡すだけではいけないのです。”信じるな”というのは患者さんが伝える言葉だけで、全てを判断してはいけないということ。患者さんにはそれぞれ事情があって、本当のことを言い出せない時もあります」

ちょっとモゴモゴ

「副作用を恐れて薬を飲んでいないこと。飲み始めてから、体調に変化があったけど、先生には遠慮があって言えなかったこと。それから、しゃべるのが億劫で適当に応対している人。
声のトーン、表情や仕草、言葉以外のシグナルに目を向けてください。想像してください。
患者さんが黙っていることに、隠していることに気付かずにいた結果、症状を悪化させたり、不利益が出るようなことはあってはいけないのです」

 

 

マメチュー先生は、目の前の患者さんが心から元気になってもらえるように、自分が出来ることは何か?を常に考えている。

野生の世界だけではなく、人間の世界でも他人のことを簡単に信用してはいけないようです。

 

それはもちろん悪い意味だけではなく、相手のことをきちんと考え思いやった結果、こちらから気づいてあげなければいけないこともある、そういうことなのだと思います。

 

 

「ごめんね、トビーくんには面白くないお話だったかな」

「そんなことないよ。お話もちゃんと分かったよ」

 

「え?」

 

「幼稚園のとき、よくてんまちゃんと鬼ごっこしたじゃん?あん時さ、ぼくがなかなか捕まえられなくて、てんまちゃん…わざと手を抜いて捕まってたでしょ?アレみたいなものだよね?」

当時園児だったトビーくんですが、アホウドリのように全てを無邪気に信じているわけではなかったようです。

 

「う…」

「パパや、ママもいつも同じことするから、そういうの気づくよ」

 

「なるほど」

てんまさんはちょっと困った顔をしています。

 

「確かにわたしも子供のころ、そういう大人の気遣いに気付いていた。でも大人になった今、同じことしちゃってたんだな」

「…」

 

「もっと色々なことを気付けるようになって、見抜く力をつけないと」

「じゃあ、今度は本気の鬼ごっこしよ」

 

「うう、今ですか?」

「ちゃんと、本気出してよね」

「トビーくんはちゃんと手を抜いてよね」