前回のお話
ビビりで悩む小学六年生のヨモギくん。
ポ村小で開催される肝試しが嫌でたまらない。
でも女子に馬鹿にされたくないため、まずはビビり克服にチャレンジ。
トビーくんに特訓に付き合ってもらっていた途中、てんまさんに遭遇。
彼女は大好きなまゆさんには、もう少し怖がりで会ってほしいと願います。
「まゆちゃんには、恐いものなしで立ち向かってほしくない。命がけの挑戦とかもしてほしくない。命をかけて人を助けてたしりしてほしくないの。
命ならわたしがかけるから、安全な所で大人しくしていてって思っちゃう。わたしはね。守ってほしいんじゃなくて、守ってあげたいの。命を懸けてまゆちゃんを守ってあげたい。そんなこと言ったらね」
「なんて言ってさ、怒ってた」
「ほんとに気が強いんですね」
「よし!」
「え?」
「出来た」
“頑張り屋さん、そんけー…”
「ねぇ、ヨモギくん。ポ村で肝試しがあるじゃない?一緒に行かない?わたし、ちょっと行きたかったんだ」
「え、え?まだ、やっていないはずですけど。」
「プレオープンっていうか、内々の人向けにおためしでやっているみたいだよ。マメチュー先生が村長から聞いたって。ほら、それ用のチケット」
「え?ええええ!」
心の準備もなく、ぼくはお化け屋敷に連れていかれてしまった。
真っ暗。それはきっと目をつぶっているから。
やだなぁ。こわい…。
てんまさん。
僕がお化け屋敷苦手なの、分かってると思うんだけど。
こわいこわいこわい!
こわいこわいこわいこわいこわいこわい…
ずっとてんまさんの裾を握りしめていた僕。
そのせいかお化け屋敷の中で、てんまさんが立ち止まったのが分かった。
何か怖いものがあって、前に進めないのだろうか?
「…」
「…れい…」
「ぎひいいいぃっ」
僕は変な叫び声をあげる。
ん?今、なんか言った?
何?
「きれい」
「!!え?」
きれい?
お化け屋敷という場所には、そぐわない感想がきこえる。
「見て!ヨモギくん」
僕はその声に反応し、思わず目を開けてしまう。
「ほんときれい。ねぇ、このひと美人じゃない?」
てんまさんはうっとりした顔で何かを見つめていた。
「この幽霊ね、有名な画家のトウキさんって人が描いてるんだって。どんな人なんだろう。わたしこの人の絵好きなんだ」
そう言われて、僕もその絵をおそるおそる見てみる。
「じつはこの絵を見るのが、すっごく楽しみだったの」
「たのしみ?」
怖い絵のはずなのに、そう言われると芸術的な絵画のように見えてきた。
もう一度ちらっとてんまさんを見ると、まだ熱心に幽霊画を見ている。
「はぁ、きれいだなぁ」
”まだ言ってる。ここで立ち止まる人って普通いないよね”
でもこうして暗闇で絵画を見ていると、不思議と恐怖が消えていくようだった。何しろ一人で怖がっていること自体、馬鹿みたいに思えた。
「幽霊っていう存在になるには、物憂げで線が細い人しかだめなのかなぁ。わたしの主観だけど、幽霊って色白で美しい人が多い気がする」
“確かに色黒イケイケの幽霊とか、お喋り幽霊、マッチョ幽霊、怒りっぽい幽霊とかのイメージは無いかも…”
「あ、明るくなった。もう出口だね」
「え?」
初めてのおばけ屋敷、あっという間に終わってしまった。
「やっぱり怖かった?」
「ああ、ええと…思ったよりは怖くなかったです」
「よかった。わたしさぁ、子どもの頃に比べて、恐怖心が無くなってきている気がするんだ」
「大人になったからですかね」
「あのね」
てんまさんは少し声をひそめながら言った。
続きます