マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

町の洋食屋さん その1

うちの父親は薬の研究に夢中で、あまり家に帰って来ることは無かった。



その上、あまり喋らないので、どういう人間なのか把握出来ていない。



ただ、女にモテる事だけは理解していた。


娘からしたらよく分からないが、母性本能をくすぐるらしい。




確かに仕事以外は、何も出来ない人間のようだった。

まるで野山に捨てられ、自分ではどうすることも出来ない、血統書付きのぬいぐるみのような犬みたいではある。




そんなよく分からない人間と家族として同居している事が、何やら不思議な感じがしていた。




そしてその父とすぐに離婚した母も、だいぶ自由でなにより仕事優先人間。



離婚した直接の原因は父の浮気ではないが父のことは“浮気相手にくれてやる”という母。



何故かそのタイミングで私も、浮気相手の家で暮らすことになってしまった。



そもそも父は私の母のことを“奥さん”だという認識をしていなさそうだったので、奥さんが途中で変わったことも最悪気付いていないかもしれない。



父は仕事以外、興味がないのだ。




父の新しい奥さんは美しくて…
随分と嫉妬深い人だった。



おそらく父のことが、好きだったのだろう。




父のことを本気で好きだった、唯一の人。




そしてそこには一つ年下の、異母妹のしょうまがいた。



彼女に初めて会った5~6歳の時。

可憐なお姫様のようだと思った。

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“もう私は主役じゃないんだ”



魔法使いのおばあさんは、この娘の前に現れる。


森の動物たちに守って貰えるのは、私じゃ無い…



太陽も花も丘も小人も全部、この愛らしい少女のもの。



なのになぜかこのしょうまは、私からの愛情だけを欲していた。


いつも私の気を引こうとした。

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私がしょうまの母から嫉妬の対象になってしまうので、家では隠そうとしていたが常に意識されている気がした。




妹は全ての出来事を記憶しているのではと思うほど、驚異的な記憶力を持ち、私とのやりとりを忘れられると、とても悲しそうにした。



その顔を見てからはなるべく忘れないよう、その日の出来事を絵にして覚えた。



薬剤師になった今は、患者さんの顔の特徴をスケッチしている。

そのため患者さんの顔を、すぐに覚えることが出来た。



でも…


“なんでも記憶をしてしまう”



それはとてもツラいことではないのか?



ツラい記憶も、永遠に忘れることが出来ないのだから…



時は決してしょうまには、手を差し伸べてはくれない…




そんな微妙に血の繋がった妹のしょうまとは、どう対応したらいいのか…

未だによく分からない。


当時も私は、家族以外の所に居場所をもとめた。






「あっ!グラターンっ!」



「てんま?グラタンじゃなくてケシ君な。

それより見てみろ、こんな水たまりにおたまじゃくしだ」



「ほんとだ、かわいー」



グラタンことケシは、老舗洋食店の店主だった。




ちょこまかとよく動く早口の母親、フサオさんと共に働いていた。

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いつも私が喜ぶことをしてくれる人たち。



物心がついた頃から“おやつ食いに来い”やと言って、お店の休憩時間にグラタンやドリア、クリームコロッケを食べさせてくれた。



ここにいると、とても落ち着いた。



家族がいる、あの家にいるよりは…




「てんまちゃん、今日も来てくれたのね?今日も可愛いわね。今日も天気がいいわね!

そして今日は何食べる?」



「グラタンがいい」



「クリーム系好きだな」




「あら、いいじゃない。クリーム!

あたしも好きよ。
あっつあつのクリームを、ほおばると幸せな気分になるじゃない。
ねぇ、てんまちゃん」



「うん、ひひ」



まろやかなクリームのものを食べると、ホントに心がほっこりした。



グラタンの作るグラタンは、いつも心をほっこりさせてくれた。

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ここの洋食店には、グラタンの人格や料理にひかれた客たちが集っていた。



「今日もチーズのびる~」



「遊びながら食ってると、ヤケドするぞ」



「いひひ、おいしー」



「てんまちゃん、オムライスもオススメよっ!
タバスコいっぱいかけると美味しいのよ。

おばさんはね、いっつも20滴くらいかけちゃう」



「オムライスも食べたい」



「じゃあ作っちゃう!
量はどのくらいがいい?

トッピングは?
ハンバーグのっけちゃう?」



「母ちゃん、それは食わせすぎ」


「なによ、あんたはすぐ口出すんだから」

羨ましいな…


グラタンが羨ましい。

こんなにも人を癒すチカラを持つグラタンが…




「ねえグラタン。
新メニューはどうなった?
開発中だって言ってたけど」



「新メニューは…」



「新メニューは?」



「クリームシチューを作る」



「クリームシチュー?」    




「家庭の定番メニューだけど、うちの店には無かったメニューなんだ」



「この子ったらまた、クリーム系のメニュー作るんだって」




「クリームシチューかぁ。
グラタンあたしね。

豚肉好き。ブロック肉入れて」



「ポーククリームシチュー?」



「うん」



「やだ、てんまちゃん。

やっぱりクリームシチューはチキンじゃない?
芽キャベツ入れてさ」



「芽キャベツより、ブロッコリーがいい。
ヤングコーンも入れて?

あとエリンギもね」



「なんか、てんま用の賄い作らされるみたいだな」



「クリームシチュー専門店とか珍しくていいんじゃない?」


「クリームシチュー専門店?

カボチャとかコーンとかきのことか鮭とか?
当たるかな?
カレーよりクリームシチューって、好き嫌いあるだろ?

でも卵かけご飯の店とか、味噌汁の店とかあるしな…」



いつものことですが、グラタンはいつもいつも、意見を取り入れ色々試してくれます。



「ふふ、だけど新メニュー楽しみ」

続きます

薬学生だった頃 その2

前回のお話

大学の一年先輩で、おなじ生物サークルだった、てんまさんは当時とても人見知りでした。




でも誰よりも早く警戒心の強いねこを懐かせ、てんまさん自身もねこに懐いていました。



一方まゆさんは…


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そのねこさんに、ガッツリ引っ掻かれてしまいます。


でもねこさんの対応に慣れているのか、全く動じません。

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「なにさ、オナモミとってやろうと思っただけなのに…」


(ねこさんを盗撮しようとは、していました)



「別にあんたの気を引こうとなんて、してないからね。

ご飯でつったりもしないしねっ」



“シャー”


何やらブツブツ言われ、ねこさんもお怒り。


居眠りしていたてんまさんも異変に気付き、目を覚ましました。



そしてケンカするねこさんとまゆさんを、眺めています。


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「子供の頃は、ねこにご飯をあげたこともあったけどさ」



“人間様のご飯を、ねこになんてあげないでよっ”


昔、ねこ嫌いの母親に言われた言葉。



“ああ?てめぇは何様だってんだよっ!?”



即座に言い返した記憶はある…




オナモミをイジイジしながらぼんやりしているまゆさんを、人見知りねこは逃げずに何やら観察していました。



引っ掻いてしまった部分を、見ているようでもありました。




「やだなにっ!?
まさかまゆもそのねこちゃんと、仲良くなったの?」



まゆさんの友人が驚いたように、声をかけてきました。



しかしその友人の大きな声にねこさんの方が驚いて、近くにあった木の上に逃げていってしまいました。

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ねこさんは大きな声が苦手です。


「あっ…ごめん…

でもなんか、まゆの前で寛いでたよね。
あのねこちゃん」


普段はすぐに逃げていくねこさんが、さっきまではまゆさんの前で少し寛いでいるようでした。



「でもそろそろ、午後の授業始まるよ」



「動物好きなら、大きな声出すのやめ!」



「ごめんって…」



午後の授業が始まるー。


なのにてんまさんは、木の上に逃げて行ったねこさんのことを見つめていました。



午後の授業終了後ー。



「あ~あたし、サーバルキャット飼いたい」



「?なにそれ?
餌にでもなんの?」



「ちがいますー。あれ?」



てんまさんが先ほどと全く同じ場所で、心配そうに木の上を見つめていました。


「にゃー…にゃー…」




そして助けを求めるような、か細いねこさんのなきごえも聞こえます。



(さっきのねこ…)



午後の授業が始まる前、まゆさんの友人の大きな声に驚いたねこさんが木の上に逃げていったのを思い出しました。



~♪~♪~♪



ねこさんの怯える声に、混ざるように小さく聴こえる歌声。



草木が揺れるリズムに合わせて…

雲が流れるスピードに合わせて…


こわがるねこさんを落ち着かせるように、歌を歌っています。



語りかけるような歌声。

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ねこさんの方は高所恐怖症の人が、バンジーでもやるような顔で震えていましたが、少しずつ落ち着いてきたようです。



ねこさんは高いところは好きなのですが、そこから降りるのは苦手なのです。



「大丈夫だよ。
ずっと待ってるから、落ち着いたらおりておいで」





直感が働いたまゆさんは、嫌な予感がして振り向きました。



「まゆー!あのねこちゃん助けてあげなよっ」


「…!」


先ほど大声に関して注意したばかりの友人が、再び大声を出しながらねこさんを見上げています。


まるで木の上にいるねこさんに、話しかけているかのような大きな声です。



ガサガサガサッ…



「えっなに?ねこちゃん
どしたの?」



やはり大声に驚いてしまったねこさんが、木の上から飛び出してきました。




ねこさんをずっと見守っていたてんまさんは、飛び出してきたねこさんを慌てて抱きとめようとします…が…


「あっ」



体勢を崩して、よろけてしまいました。



「あっぶなっ!」



それを見ていたまゆさんは、急いで支えにいきます。

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まゆさんは自分が下敷きになるように倒れ込んだので、てんまさんとねこさんは怪我もなく無事でした。



ねこさんの方は“にゃー”となきながら元気に逃げていく。



「良かった、元気そうじゃん」



下敷きになりながら呟くまゆさん、今度はてんまさんの方に話しかけます。


「あんたは?」


「あっ」


てんまさんは、下敷きにしてしまったまゆさんの上から転がるように飛び退いて行きました。



「もっ、もしかしてしっ…死…死…死…」



何やらまゆさんを圧死させてしまったのではと、パニクっています。



「死んでねーよっ!
喋ってんじゃん。

まぁ、捻挫はしたけどね」



てんまさんは勢い良く起き上がってきたまゆさんを見て、目を丸くして驚いています。




「えっえ…」




「あんたにつぶされたくらいで死ぬかよ。

アリじゃねえんだから」



「死なない…?
生きてる?」



「まだ生きなきゃな!
一応、これから薬剤師になるんだよ、あたしは!」 



「……。

!!捻挫!冷やさなきゃ!」



捻挫には炎症を抑える、鎮痛消炎成分が入っている外用薬を使用します。



「皮膚弱くないですよね。
安静にして下さいね」



「あたし、あんたの最初の患者?

分かったよ、安静にする」



「ごめんなさい。
ありがとうでした」


「いいよ別に、薬剤師さん」



翌日



「えええ?」


全く安静にしていないまゆさんを見かけ、固まるてんまさん。



まゆさんは捻挫をしていない方の足でケンケンをしながら、猛スピードでねこさんを追い掛けて行きます。

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「まてぇ。けが人に引っ掻きやがったな」



どうやらねこさんとまゆさんは、仲良くなったようです。


 
「…ホントに死ななそう」



てんまさんはクスクス笑いながら、嬉しそうにその様子を見つめていました。



まゆさんはあまり覚えていないようですが、おそらくこの一件が仲良くなったきっかけ。






「まゆちゃん抱っこにゃ~」



「あたしも~」



てんまさんとにゃこさんが、まゆさんを押し潰していました。

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「圧死させる気か?
仕事だって言ってんのに」



「だってまゆちゃん、アリンコじゃ無いから死なないんでしょ?」



「……太ったろ、お前」



「………」


「いてっ、つねんな」


「また二人して仲良くしてるにゃっ」


「仲良くなんかないしっ」



「にゃ?
それよか、てんまちゃんは太ったにゃ?」



「……にゃこちゃんもきらいっ」





これからも末永く安定して、仲が良さそうなお三方です。

薬学生だった頃 その1

まゆさん、今日は朝からお仕事。



山に生薬を採取しに行きます。


「あ~眠い。
何時間寝ても朝は眠い」



「きゃ~まゆちゃんだぁ~~!!」



「!!?」


「にゃ~~~!!」


ぼんやり歩いていたまゆさんを、目覚めさせるくらい元気な声で近付いて来る人が…

そしてその後を小さき者が同じように、競うようにこちらに近付いて来る…





てんまさんとにゃこさんでした。



「あー!またにゃこちゃん出たっ」



「なんにゃよっ!」

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朝から遊びに出ていたにゃこさんと、てんまさんがまたケンカごっこをしています。


「やめろっ。
朝からそのくだり…」



「へへへ。おはよう、まゆちゃん」



相変わらず笑顔だけは、知り合った当時から変わらないてんまさん。


昔は、すごい人見知りだったけど…



「ほんとにポ村に来て良かったなぁ。

あたしの喘息、ここにいると治った気になっちゃう」




嬉しそうにこちらを見つめるてんまさんは、ようやく懐いた可愛らしいねこのようです。





まゆさんが薬科大生だった頃ー。



「あ、あのねこ…」

(なんでねこって“こちらを振り向いて欲しい”と思う何かがあるんだろう)

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「もう、まゆはねこちゃんに近付かないの」



同じ生物サークルの友人が、忠告してきました。

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ねこちゃんとは大学に棲み着いている、警戒心の強いねこの事です。



「なんでだ?」


「ねこちゃんはね。
ガサツな人が苦手なの」



「……」



「あの子はさ。
アタシが、懐かせてみせるから」



まゆさんやてんまさんが入っていた生物サークルのメンバーは、生物が好きなだけあって、懐かないこのねこに興味津々。



誰もがいち早くそのねこさんと、仲良くなろうとしていました。




“生物が好き!だから生物の方からも好かれているはず。

そして好かれているって、皆にも思われたい”



そんな承認欲求を持つ人が、多いようです。



そのため大学に棲み着いている、懐かないねこさんの回りを、生物サークルのメンバーが入れ替わり立ち替わりあらわれる。

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しかしそのねこの心を…

しかも一瞬で開かせたのはてんまさんでした。



「小さな声でモソモソねこと喋っとる」

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てんまさんはねこさんだけでなく、虫とも植物とも気を許した感じで、遊んでいる…
そんな風に見えました。



「やば!蝶だ!粉かけてくんなっ」



まゆさんはねこさんではなく、チョウチョに懐かれてしまう。


「何してんの?まゆ」



「チョウチョに追われてるんだ!

知ってるか?
あの鱗粉が身体にかかると、溶けて死ぬんだぞ」



「なにそれ?
塩をかけられたナメクジ?

っていうか、まゆが走るから気流に乗って、くっついて来るんじゃない?」



「ぬ?」


ピタッと止まるまゆさん。



「所でまゆ、あの人って…」


あの人とは、てんまさんの事のようです。



「ん?」



「ねこには懐くんだね」



てんまさんが注目されたのは…

“懐かないねこさんの心を開いた”
という事だけで無く、てんまさんがねこに懐き、見たことのない顔で楽しそうにしていた所でした。



「まゆはあの人と話したことある?
どういう人?」



「話したことないよ。
同じ学年にいる“しょうま”ってのの姉だって話は聞いたけど。

ってかまず、お前がどういう人間かを分かってない」



「何でよ」




どういう人かは知らないけど、動植物が好きで人間と接するのは苦手なのは分かる。




そういうタイプは薬剤師に向かないと思うけど、何故か薬剤師には人が苦手なタイプが多い気がする。



薬剤師に向かないという点では、人のことは言えないけど…



ただあの“てんま”という人は愛想笑いが上手い。



人が苦手なのにその愛想笑いのせいで、逆に人を寄せ付けている。





そのてんまさんは、生物サークルの人々には懐かなかったねこさんをスケッチ。



警戒心が強いと思っていたねこさんは、てんまさんの前ではお腹を出して熟睡しているようです。



「めずらし…腹だして」


まゆさんは警戒心の強いねこさんの腹出し爆睡シーンを、気付かれないように写真におさめようとしました。


「こっそりこっそり…あ…」



(オナモミつけとる…)



ねこさんといえば、オナモミ。



(とってあげようかな?
起こしちゃうかな?
あ、“てんま”も居眠りしてる)





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「ぎゃっ!」


ちょっかい出されると思ったねこさんに気付かれ、引っ掻かれる。



ねこってホントこう…


続きます

まゆとてんま

「にゃこも行くー!」


ポテテテテテッ



「ん?何にゃこ」



にゃこさんはお出掛けしようとするまゆさんの後を、慌てて追い掛けていきます。




「絶対一緒に行くにゃ!
今行くにゃ。すぐ行くにゃ」




“まゆさんに、置いて行かれる…”



そんな予感でもしたのでしょうか。



にゃこさんは必死にまゆさんの所へ、走って行きます。




「なんだなんだ、急に…
別に遠くへ行くわけでも無いのに」



「分かってんにゃ!
にゃこさんはまゆちゃんのことは、分かってんにゃ。

にゃこさんをひとりぼっちにする気なんにゃ」




「なにそれ、ひとりぼっちって…
何を勘違いしてるんだい?きみは」




「分かってるにゃ!
にゃってまゆちゃんは、てんまちゃんに会うのにゃしょ?」



にゃこさんはまゆさんの前で仁王立ちをし、目をつり上げながらたずねてきました。




「ああ…
一緒にご飯食べるだけだよ?」




「にゃこも行くっ」




てんまさんとご飯を食べるだけだと言っているのに、まだ目を三角にしながら立ちはだかるにゃこさんを見て、まゆさんは思い出した事がありました。




(そういえばてんまと会う時は、たまにこうなるんだっけ)





“にゃこさんうっとうしいバージョン”

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【てんまさんとケンカごっこ】



前にもまゆさんとてんまさんの仲間に、入れて欲しそうにしていたにゃこさん。




にゃこさんはてんまさんを好きではありますが、まゆさんをとられてしまいそうで嫉妬してしまうことがあるのです。



“まゆちゃんはにゃこさんを置いて、てんまちゃんの元に行ってしまうかもしれないにゃ”



にゃこさんはまゆさんとてんまさんが、特別に仲が良いことに気が付いてるので、そんな心配をしてしまうことがあるようです。

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(無理やり割り込んできます)



「まゆちゃん!」


「なにさ?」




「まゆちゃんとてんまちゃんは…
にゃこが生まれる前から、知り合いにゃの?」




「そうだねー、知り合いだねー」



「にゃむ…

いやにゃあー!」



「どうした、どうした?」



まゆさんはぐずるにゃこさんを、仕方なく抱っこします。




「にゃこの方がてんまちゃんより先に、仲良しなのがいいにゃー!」



後とか先とか…

そんなの実際は何の関係もないのに、にゃこさんは悔しくてないています。





まゆさんとてんまさんが知り合ったのは、にゃこさんが生まれる少し前。



二人が大学生の頃でした。




同じ薬科大の二人は、てんまさんがまゆさんの一年先輩。



「あっねこ!」




大学にいた懐かないねこ。


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まゆさんが初めて大学で見たてんまさんの印象は、その懐かないねこに似ている…
というものでした。


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「にゃこ、てんまはさぁ」



「にゃむ?」



「出会った当時は、今以上に人見知りでさ」



「んにゃ?」



にゃこさんには、あまりよく分からないみたいです。




「それなのに…なんで仲良くなったんだっけ?

う~~~ん…」



“仲良くなった理由”

まゆさんは思い出せないようです。



(なにかきっかけが、あった気がするんだけど…)





「心理学でいうザイオンス効果(単純接触効果)が働いたのかな?」



【ザイオンス効果】
何度も会うことで、好感度や評価が高まり、警戒心も薄れていく。




調剤薬局等の患者さんは、再来局してくれる事が多いので、徐々に心を許し、本心を話してくれるようになる場合もあります。




「ただあの頃の事でよく覚えているのは、大学にいた懐かないねこが、てんまにはすぐに懐いたこと。

てんまの方も、ねこには懐いていたな」




(ねこには心、開くんだ)



ねこに対しては心を開けても、人に関しては苦手なんだろうとは思った。



人を好きになるのが怖いというか…



とりあえず一人でいる方が楽そうに見えた。




きっと過去に何かあったんだろう…




昔、女が苦手な女友だちがいた。



理由は聞かなかったけど“女子校”に通っていたと言っていたので、そこで女たちに何かされたのかもしれない…



そう、人にはそれぞれの人生があって、色々な事情がある。




てんまさんとは、大学で同じ生物サークルだったまゆさん。



その中でいつも一人、てんまさんは生き物たちのスケッチをしていました。




「ホントあいつ嬉しそうに生き物を観察して、採集して触れ合って…

だけどサークルの飲み会には、絶対参加しなかった」



“そのうちさ、飲み会やろうと思うんだけどあなたもくる?”



“すいません。その日は予定があるので”



(その日ってどの日?)


まだ日程はきまっていないのに…



「ぷっ、あいつらしい」



「まゆちゃーんっ」



てんまさんが前方から、まゆさんの元にやって来ました。



「あれ?まゆちゃん、何にやにやしてんの?

にゃこちゃんもいるー!」



てんまさんはにゃこさんと遊びながら、まゆさんに笑顔をむける。

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懐かなかったねこが、いつの間にやらすっごく懐いていた。



「なんで今日はにゃこちゃん、突っかかってくるかな?」



にゃこはてんまさんにプイッとしています。




「まゆちゃん、だっこしてにゃ」



「あっあたしもー」



「にゃ!!」



「懐くのもほどほどにしてくれ…」

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「いやにゃー」


「いやぁ」



「密、密!接近禁止!!」



“せめて自分自身は、感染症にかからないようにしなくては”


こんなに引っ付かれては、みんなにすぐにうつってしまうことでしょう…



言うことを聞いてくれない皆を見ていて、そんなふうに思うまゆさんでした。

姉の家を訪問

“はっくしょんっ!”



「目ぇかゆ~、顔もかゆいぃ」




ポいもは久々に、ねこアレルギー発症。



アレルギー薬も久し振りに使用。



なぜかというと、ポにゃちゃんに久し振りの再会をしたのです。

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「ポにゃちゃん、久し振り。
覚えてる?」



ポいもは、ポあね宅に遊びに行きました。



「ちょっと痩せたかなー」



「にゃ?」



病気療養中のため、ポにゃちゃんは少し痩せたようでしたが、それでも食欲はあるようです。



「ちゅ~る食べてんの?」



「…ところでさっきから、お前誰にゃ?」

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「むむ…
このくてぇ足のにおいは…

アイツにゃ!」

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こちらも久し振りに、ポにゃちゃんの匂いを感じます。



“クンクン”

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「この匂い…確かにポにゃちゃんだ。

ポにゃちゃんもくてぇや」



「にゃむっ!?」




「ポにゃちゃん、ご飯ばっかり食べてないで、お水も飲む?」

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ポあね宅にあったウォーターサーバー。



「あっ、お水あげる前にさ…

ちょっと、思い付いたことがあるんだけど」



「なんだね、ポあね」



「効き水してみない?」



「効き水?」



突然、ポあねの思い付きで、効き水テストを行う。


ウォーターサーバーの水と、水道水の違いが分かれば合格です。



「水なんて味の違いあるの?」



「言っときますけどねー。
ウォーターサーバーの水はとっても美味しくて、グビグビのめちゃうんだから」



「へぇ…」



「このまま出しちゃうと、冷たさで分かっちゃうから」



ポあねは一生懸命、効き水テストの準備をしています。



「こっち見ないでね」



「見ませんよ」



さすがにずるしてまで、正解しようとは思いません。



ゲームをやるなら楽しまねば…


「はい、こっちみていいよ。

右と左、どちらがウォーターサーバーのお水でしょうか?」

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「じゃあ、頂きます」


“ゴクゴク”


ポあねはポいもの様子を、じっと見つめています。

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「!!」



“なにこれ、違う!
味、違う!明らかに違う”



答えを聞かなくても、確信出来るほど左右の水は味が違いました。




「右の水がウォーターサーバーだね?
クセがなく飲みやすい。


一方左の水は、いつも飲んでる水。
確実に水道水!」



………

拍子抜けするくらい、あっさり正解出来ました。



ウォーターサーバーと水道水が“硬水と軟水”くらいの違いがあるとは思っていなかったので、ちょっと驚き。

 

「じゃ、ポにゃちゃん、お水だよ。

ウォーターサーバーの美味しいお水」



マグネシウムの含有量の多いミネラルウォーターは与えてはいけないそうですが、ウォーターサーバーのお水は与えて大丈夫だそうです。



「ポにゃちゃん、そのお水いらないにゃ」

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「なんで?」



「うまないからにゃ」


せっかくのウォーターサーバー。

ポにゃちゃんのお好みではないようです。



だけどねこさんも、ウォーターサーバーと水道水の味の違いが分かるのですね。

夜盲症 その2

前回のお話

“人を殺す薬”
それを作るためポ村で一人、薬の開発をするカシュウ。


上空に浮かぶ致死性の高い毒草“食虫エアプランツ”を手に入れるため、カラスに指示をしていた。




「頼まれていたのに、持ってこれなくてごめんなさいだす」



人の目に触れないようにするため、闇夜に溶け込むことが出来るカラスに目を付けたカシュウ。

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“なっ、なんだすか?
え、夜?飛べるだすよ”


最初にカラスをとらえたときに、そう言っていた。



“ワタスたちの事を鳥目いうらしいのだすけど、ホントは夜でも見えているのだす”



フクロウや蛾など夜行性の鳥や昆虫がいる一方、雀や蝶など日中にしか見かけないものもいる。


しかし、カラスは夜も飛行が出来るらしい。



夜は周囲が見えていないカシュウのために、毒草を…
カラス自身は毒草だと認識していないが、カシュウの代わりに持ってくる約束をしていた。




アタマは悪そうだが、漆黒の翼を持つカラスなら闇夜に溶け込み、上手く作業を遂行出来るだろうとカシュウは考えたのだ。



「でもお昼に活動する方が好きなのだすけど」



カラス自身は容姿を利用し、闇夜に紛れて活動しようとは思って無いらしい。




「今からまた、挑戦してくるだす。
行って来るだす!」



カラスはカシュウの頼みに懸命にこたえようと、再び毒草を探しにいく。




このカラスは
“人助けをすることは良いことだ”
そう教えてもらっていた。

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「ワタスたちが昼間が好きなのは、人間より色が多く見えるからだと思うと言われたのだす」



カラスはかつて、人に言われたことを思い出していた。



“すごいよね。羨ましいなぁ。
どんな世界が見えてるんだろう”



“そうだすか?羨ましいだすか?”



日中活動するカラスは、紫外線の領域が見えている。



それを利用し、色々な食べ物を見つけている。



実際鳥目と言われている、夜に目が見えていないのは、ニワトリなど鳥の中でも一部のみである。



一方で人間の方はカラスのその習性を利用し、紫外線を吸収するゴミ袋を作り出したりしている。




しばらくして再び戻って来たカラス。



「ごめんなさいだす。
また見つけられなかっただす」




闇夜に溶け込んで飛ぶことは出来ても、紫外線が無いため、やはり夜はあまり見えていないのだろう。



カシュウはすでに、カラスに期待などしていなかった。



「役に立てなくて、ごめんなさいだす」



だがカラスの方は、しょぼんとしている。

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“カシュウを助けることが出来なかった”




人を殺すための薬を、作ろうとしているカシュウを…




でも、カラスは気付いていない。

カシュウを助けられなかったこと。

それが他の人々を助けることには、なっているかもしれないということを…

夜盲症 その1

ポ村で一人。

誰にも気付かれることのない深夜…

“人を殺す薬”を作っている男カシュウ。

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ポ村で作る理由は、致死性が高いと言われている毒草があると聞いたからだ。



噂レベルではあるのだが、ポ村の上空に浮かんでいるという。



空中に浮かび虫を捕食して、栄養を取り入れているため“食虫エアプランツ”と言われているらしい。




外に出ていたカシュウは、羽音に気付いてカラスの足をつかまえる。

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「ああっ!アナタさまは」



「頼んだものは?」



「持っていないのだす」



「なんで?」



「見つけられなかったのだす。
虫が多いところにいると思って、探したの出すけれど…

ついワタスが虫を食べることに、夢中になってしまったのだす」



「……」



「ごめんなさいだす」



上空を見上げるカシュウ。

そこには星空が広がっていた。



「ごめんなさいだす」



鈍くさそうなカラスはまだ謝っている。



「星が落ちてきそうだ」



カシュウは星空から目をそらす。




「星だすか?」


ガラスも空を見上げる。



「きれいだす」

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一方カシュウは見ていられないといったように、星空から目をそらしていた。



“星空恐怖症”



空が落ちてきそうな恐怖を感じる。



カシュウは“星空恐怖症”のうえ夜盲症、いわゆる鳥目である。



本来、夜の活動には向いていない。



カシュウは幼い頃…

日が落ちたため、辺りが見えづらくなり、道に迷った事があった。



その時、助けを求めるように空を見上げた。


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そこにあったのは夜空に浮かぶ星々。



その星々に睨まれているように感じた。




この地球を監視するような無数の目に…



そして今…


自分に向けられるその監視の目が、さらに厳しくなっているように思える。



「どうかしただすか?

次はがんばるので、落ち込まんで下さいだす」



カラスはいつまでも、ピントのずれた事を言い続けていた。



続きます