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ポ村、初冬。
この村では冬、外出が出来なくなるくらい雪が降ることもあるので、年末は冬眠する人が多い。冬眠といっても本当に寝ている人もいれば、食料を備蓄して家の中にずっとこもっている人もいるようです。
早めに冬の準備を始めておかないと、雪が積もってからではそれなりに大変。
ポ村の村人たちは大丈夫でしょうか?
「やっば!」
「しょうがないにゃわ。まゆちゃんも一緒に、にゃこのご飯食べるのにゃ」
「えー、いいの?にゃこ。じゃあカリカリじゃなくて、ウェッティーの方を貰ってもいい?」
「いいにゃよ。まゆちゃんとにゃこは何でも一緒にゃ」
”ぴんぽーんっ”
「まゆ、おとうさんが来たぞ」
「とうちゃん、急にどうしたの?」
「ほら、これ」
「え?何これ?」
「桑の実だよ。ちゃんと冬にむけての準備をしてるか、気になってな。これをジャムにすればいいと思って」
「ジャム?」
クリスマス後からお正月辺りまでの1週間ほど、どっと大雪が降るポ村。
この時期は外界とも遮断され、ポ村の外に住んでいるまゆさんの両親もポ村には容易に来れなくなります。そのためまゆさんのおとうさんは、娘がしっかり食料を備蓄しているのか心配になったみたい。
「クラッカーも持ってきたからな。あとパンも少しあるから、冷凍しておくといい」
「やった、助かった。ありがとう。ほんとは甘酸っぱいジャムに、マスカルポーネや生クリームも合わせたかったな」
なにやらもそもそ贅沢を言っているまゆさん。
ジャムは長期保存できる食材。
桑の実は木こりをしているまゆさんの父が、どこかから持って帰って来たらしい。
庭に植えたら成長し、実をつけたのだそうです。
ビタミン類やカルシウム・カリウムが豊富。女子には嬉しい美容効果がある桑の実。
肌が荒れがちな冬には嬉しいですね。
では早速ジャム作り。
収穫した後に冷凍していた桑の実。持参する前に砂糖をまぶし、水分を出してくれていたみたいで、すぐに調理が開始できました。
「なに?」
まゆさんが調理中に、庭の木にオレンジが突き刺さっている写真を見せてくるおとうさん。
久しぶりに会う娘に、かまって欲しいようです。
「たまに庭にな。小鳥が食べに来るんだよ。でもなオレンジを食べる鳥と、食べない鳥がいてな……」
まゆさんのおとうさんは、動物好きなのです。
「ああ、うん」
「おかあさんには”鳥にオレンジをあげるくらいなら私にちょうだいよ!”って怒られちゃってさ」
「うん、そっか、うん」
「おかあさん、にゃこ以外の動物、きらいだからな」
「…そうだねぇ」
「…」
まゆさんは調理中なので、おとうさんの話に対し、ちょっと上の空みたい。
「とうちゃんにゃにゃい。何してるんにゃ?」
つれないまゆさんの態度に、ちょっと寂しそうにしていたおとうさんの元へ、にゃこさんが登場。
「おおにゃこ、可愛いなぁ。おとうさんな、おまえには桑の実のかわりに、お土産を持ってきたぞ」
おとうさん、にゃこさんにかまってもらえて嬉しそうです。
「とうちゃんからお土産?なんにゃ?なんにゃ?」
おとうさんがにゃこさんに見せていたのは、この時期枯れてしまっているねこじゃらし。
「にゃこ好きだろう?ねこじゃらし」
「…」
「ほら」
桑の実といい、ねこじゃらしといい、父というやつはどこかから何かを拾ってきてしまうようです。
さてジャムの完成にはあと20分程。
「にゃこ?」
「…」
「……」
父の扱いとは、妻からも娘からもねこさんからも、大抵こんなものなのでしょう。
おとうさんが帰った後、美味しく出来た桑の実ジャム。
口にはしなかったものの一応まゆさん、おとうさんに感謝していたようです。
「にゃこ、お空に向かって一緒に言おう」
「にゃ!」
”おとうさん、ありがとう😊“