マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

薬師如来さま その2

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前回のお話

お仕事前、ポ村を見守る薬師如来さまに手を合わせに来た、マメチュー先生とてんまさん。

”薬剤師としてミスは許されない”そう思っているてんまさんは、ヒューマンエラーが起きないよう薬師如来さまに祈りを捧げます。

 

「最後は神頼みだなんて子どもっぽいかな。もう大人なのにな…」

「あっ、マメ先生見て下さい」

真っ白な蛾の子どもさん。無毒。

「こんな季節に、シロヒトリの赤ちゃんですよ」

夢中で見つめるてんまさん。

 

「一生懸命歩いちゃって、可愛い」

「ふわふわしていますね」

「そんなに全速力でどこいくの、ばぶちゃん。ママのところ?」

 

てんまさんは患者さん以外の人間には人見知りですが、動植物にはそれがないようです。

精神的、肉体的に弱っている患者さんには、優しくしてあげられる。

でもそれ以外の人とは少し…接するのが怖いのかもしれません。

“もすもすもす”

「あ!こら」

よそ見してたらバブちゃん、猛スピードで車道の方へ

鳩やねこや子どもも車道へ飛び出しがちですが、昆虫たちもこうして無鉄砲に飛び出して行きます。

いちいち心配をさせる子たちです。

 

「この子はもう…あぶないでしょ」

てんまさんはシロヒトリを手で囲って、車道へ行かせないようにする。

「やめてー。こわいんだから」

 

 

「あのね、マメチュー先生。シロヒトリの子どもを初めて見た時もね。すっごいスピードで車道に向かってたんですよ。毛虫なのにめちゃくちゃ早くて、びっくりしちゃいました」

「そうなんですか。それは印象的な出会いで…」

「初対面の時はその毛虫の名前が分からなくて、ネットで調べたんです。“黒 毛虫   速い”で検索したらすぐヒット。色々見てみたら、この子たちってみんな、車道に向かって走っていっちゃうみたい。困ったちゃんなんですよ」

「不思議な習性ですね」

 

 

とおせんぼされてしまったシロヒトリ。

ガッカリしたように車道にいくのは諦め、好みの食草の上に登っていきました。

 

ママを探していたわけじゃなく、食料を探していたようです。

 

「まだばぶちゃんなのに、一人で生きてるんですね」

てんまさんはジッと俯いています。

 

「てんまさん?」

「…私は」

 

てんまさんは俯きながら、シロヒトリを見つめています。

長いまつげがてんまさんの頬に、影をおとしている。

 

「今、大人になれているのかなぁ。ただ生きてるだけじゃ大人になんてなれない、ですよね?そうですよね…」

「あの…これから一緒に薬局に行きませんか?朝食の用意がしてあるんです」

「え?」

「サラダと目玉焼きとソーセージ。それからマフィンとコーンスープなんですが、いかがです?」

「はいありがとうございます。へへ、頂きます」

 

マメチュー先生に優しくしてもらったてんまさんは、お礼に肩たたき券を渡したとのことです。

 

まだちょっと子どもっぽい所があるてんまさんですが、人と関わっている限り、ただ生きているなんてことはない。

着実に成長はしているはず…そう思います。