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前回のお話
お仕事前、ポ村を見守る薬師如来さまに手を合わせに来た、マメチュー先生とてんまさん。
”薬剤師としてミスは許されない”そう思っているてんまさんは、ヒューマンエラーが起きないよう薬師如来さまに祈りを捧げます。
「最後は神頼みだなんて子どもっぽいかな。もう大人なのにな…」
「あっ、マメ先生見て下さい」
「こんな季節に、シロヒトリの赤ちゃんですよ」
夢中で見つめるてんまさん。
「一生懸命歩いちゃって、可愛い」
「ふわふわしていますね」
「そんなに全速力でどこいくの、ばぶちゃん。ママのところ?」
てんまさんは患者さん以外の人間には人見知りですが、動植物にはそれがないようです。
精神的、肉体的に弱っている患者さんには、優しくしてあげられる。
でもそれ以外の人とは少し…接するのが怖いのかもしれません。
“もすもすもす”
「あ!こら」
鳩やねこや子どもも車道へ飛び出しがちですが、昆虫たちもこうして無鉄砲に飛び出して行きます。
いちいち心配をさせる子たちです。
「この子はもう…あぶないでしょ」
てんまさんはシロヒトリを手で囲って、車道へ行かせないようにする。
「やめてー。こわいんだから」
「あのね、マメチュー先生。シロヒトリの子どもを初めて見た時もね。すっごいスピードで車道に向かってたんですよ。毛虫なのにめちゃくちゃ早くて、びっくりしちゃいました」
「そうなんですか。それは印象的な出会いで…」
「初対面の時はその毛虫の名前が分からなくて、ネットで調べたんです。“黒 毛虫 速い”で検索したらすぐヒット。色々見てみたら、この子たちってみんな、車道に向かって走っていっちゃうみたい。困ったちゃんなんですよ」
「不思議な習性ですね」
とおせんぼされてしまったシロヒトリ。
ガッカリしたように車道にいくのは諦め、好みの食草の上に登っていきました。
ママを探していたわけじゃなく、食料を探していたようです。
「まだばぶちゃんなのに、一人で生きてるんですね」
てんまさんはジッと俯いています。
「てんまさん?」
「…私は」
てんまさんは俯きながら、シロヒトリを見つめています。
長いまつげがてんまさんの頬に、影をおとしている。
「今、大人になれているのかなぁ。ただ生きてるだけじゃ大人になんてなれない、ですよね?そうですよね…」
「あの…これから一緒に薬局に行きませんか?朝食の用意がしてあるんです」
「え?」
「サラダと目玉焼きとソーセージ。それからマフィンとコーンスープなんですが、いかがです?」
「はいありがとうございます。へへ、頂きます」
マメチュー先生に優しくしてもらったてんまさんは、お礼に肩たたき券を渡したとのことです。
まだちょっと子どもっぽい所があるてんまさんですが、人と関わっている限り、ただ生きているなんてことはない。
着実に成長はしているはず…そう思います。