マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

校長先生の長いお話

「ねぇ、キンチャくん」



「なに?ジロさん」




「一人喋り出来る人って、凄いと思わない?」

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「例えば先生とか、職場の上司とか。

途中で何を喋ってるか、わけ分からなくなったりせずに、話し続けられるんだもん」




「あぁ、確かにね」



「だけどね。
その一方的な一人喋りって、なんか頭に入ってこないんだよね」



「ええ?ジロさん、ダメじゃない」




「そう。ダメなの。
仕事の話を含め大事な話でも、一方的にダーッと話し続けられると、いつの間にかボーッとしちゃって聞いていなかったりするんだよね」



「聞いてないんだったら、一人喋りが上手に出来てるかも分からないじゃない」



「確かに。言われてみれば」




「でも長い話を、聞いていられなくなるのは分かるなぁ。

授業をずっと聞いてることは、出来てなかったかも…」




「キンチャくんも?」



「うん、校長先生の朝礼のお話とか」



「あっ、それ!

僕、校長先生のお話し中に倒れたことがあるんだ」




校長先生のお話は、申し訳ないけれどちゃんと聞けたことがありません。



“今日は話を、短めにしたいと思います”



校長先生、なぜそんな出来もしない前置きをするのですか?


期待しちゃうじゃないですか。



校長先生のお話し中、つい何度も体育館の時計を見てしまいます。



しかし針はなかなか動かない…



“爪、伸びてきたなぁ”



“あ…制服にホコリついてる”



校長先生のお話し中、そんな自分チェックを始めてしまう。



それが一通り終わると、今度は周囲の様子をうかがいます。



案外みんな身動きせず、聞いている…風に見えます。



同じようにキョロキョロと、辺りの様子をうかがっている人はいません。



“みんな、ちゃんと聞いているのかな?”



体育館で列を作って、ジッと突っ立っているのに飽きて、今度はぼんやりと床を眺めてみる。




そして天井を見上げる。




“バレーボールが引っ掛かってる。

先生の頭に、コロンと落ちないかなぁ”




学生の時。
校長先生の話も聞かずに、そんなことばかり考えていました。





「僕も“今日の給食はなにかな”くらいは考えたことあるかも」




「だよね。
そういうの考えるよね。

僕は朝礼で倒れた日、前日に食べたサヴァランのことを思い出したんだ」




「サヴァラン?
よっぽどおいしかったんだね」



サヴァランは、洋酒をたくさん染みこませてあるスイーツです。



表面はアンズジャムが塗られていて、おいしそうにテカっている。

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「サヴァランを食べて、お酒の味っておいしいんだなぁって思ったんだよね」



「お酒好きだもんね」



「大人になったら、お酒のお風呂に入りたいって思ってたなぁ。

今は日本海が海水じゃなくて、お酒だったらなぁなんて思ってるけど…

ああ…
僕やっぱり長い話し苦手。
話がそれてきちゃった。

それでね、暇すぎてサヴァランのことを考えてた時、フラーッとしてきて…」




“校長先生、まだなんか喋ってる…”



そう思った瞬間ー。



目の前が真っ暗になり、真横に倒れていた。

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「保健室の先生に、脳貧血と言われたんだ」



「貧血なの?」



「ううん、違うみたい」



正式には“起立性低血圧”と言うそうです。



「脳に行く血液量が減っちゃってたらしい。

でね。

あの感覚にちょっと似た症状が、最近あるんだよね。

めまいっぽいっていうか…」




「そうなの?大丈夫?」




「また脳貧血なのかな。

でもあの時とは、違う気もするし。

普通に貧血なのかも」




「貧血?
でも男の人の貧血は普通じゃなくて、珍しいよね」




「ジロさん!
顔、青白いですよ」




「わっ!」


突然、声をかけられて、驚くジロさんとキンチャくん。


振り返ると村長が立っていました。

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「そ、そうですか?」



下腹部の方はいつも色白なジロさん。


でもホホは意外と白いとは、言われたことがありません。




「顔色が青白い場合は、貧血の可能性が高いと聞いたことがありますよ」



「やっぱり…
貧血ですかね」


「男性の貧血…」



「そうですね。
一応くまじろ先生に、電話で確認してみましょう。

珍しいですものね」



「お願いします」



村長、くまじろ先生にお電話。



“くまじろ先生ですか?
村長です。
質問よろしいでしょうか?

ええ。
はい、はいはい。なんと!!”



ジロさんは、不安そうに様子をうかがっています。




【男性の貧血】
十二指腸潰瘍
胃潰瘍
胃がん
大腸がん

等の病気が理由で、貧血を引き起こす事があります。



体内で出血が起きたことにより、貧血を発症。



“やはり女性のように鉄欠乏性貧血になる男性は、少ないのですね?”



「えっと…

僕は何か、病気を患っているんですか?」



「ジロさん…」



「待って下さい。
はいはい。

え?巨赤芽球性貧血?」



【巨赤芽球性貧血】
ビタミンB12、葉酸不足による貧血。

めまいや動悸、息切れなどの症状が現れます。


ビタミンB12、葉酸は体内では作られず、食事などから接種する必要がある。


特にアルコールを大量接種する人は、葉酸不足になりやすいと言われています。




“なるほどです。
くまじろ先生ありがとうございました”



「アルコール」 


「ジロさん、お酒好きだから」



「あのぉ。
それで僕は一体、どうすれば…」



「葉酸の摂取の仕方。

それをマメチュー先生に、聞いてみましょう」



“はいはい、そうですか。
ありがとうございます”




「葉酸を含む野菜や果物、そしてサプリメントから補給すると良いそうです。

葉酸の内服薬もあるとのことでした」



「薬で治るんですか?」



「まぁ、でも一度病院でしっかり診てもらって下さいとのことでしたよ」



「そうですか、なんか色々ありがとうございました」



「いえいえ、お大事に」



村長とお別れしたジロさんとキンチャくん。



「……」





「なんか村長が色々説明してくれたね、ジロさん」



「うん、そうだね」



「っていうかちょっと話し長かったけど、ちゃんと聞いてた?」




「……。

何とか貧血?とか言ってたね。

病気の名前もいっぱい言ってた。


だからあとでキンチャくんになんて言ってたか、聞こうとは思ってた…」



「ジロさん。
とりあえず、病院行こ」



「うん。
そうする」



“人の話を聞ける薬”

  
ちょっと欲しいです。