マメチュー先生の調剤薬局

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ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

ポ村のクリスマス その2

前回のお話

ポ村では村長がサンタさんに扮して、毎年プレゼントを配ってくれています。


でも本物のサンタさんが、来てくれている事もあるかもしれない。


大人たちはそれを知っていて、内緒にしているだけかもしれない。



「眠っちゃってても絶対気付くように、サンタさんがプレゼントを入れるという、靴下の中で待つってのはどう?」




その話を聞いてもあまりよく理解出来なかった、幼いココアちゃんは、とりあえず靴下型の巾着袋の中に入り込んで、スヤスヤと眠っていました。


「あらあらこの子は…」


赤ちゃんの頃、ママの袋の中で安心して眠っていた事を、思い出しているのでしょうか?


サンタさんを待つことなくココアちゃん、おねんねです。



そんなイブの夜。


ココアちゃんより少しだけお兄ちゃんのトビーくんは、村長の元を訪れていました。


村長はちょうどコソコソと、サンタさん役の準備をしています。


「村長~!!」


「!!どっどうしたんだい?

トビーくん」



「ぼくも村長と一緒にサンタさんになって、みんなにプレゼントを配ってあげたい!」


「何のことかな?」


「ほら、村長いつもサンタさんしてくれてるでしょう?

だから今年はぼくも、みんなにプレゼント配りに行きたいの」



「なっなな…何故、私の正体を…」


サンタさんの正体が、村長自身であることがバレていたことに衝撃の村長。


一方トビーくんは、貧しい人以外にも…

イブを楽しみにしている子どもたちのために、村長と直接プレゼントを配ってあげたいと思っていたのです。


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村長、トビーくんを乗せて低空飛行。


「もうちょっと高く飛ばないと、サンタさんっぽくならないよ?」


「ちょっと待ってね」


村長は小さな子どもには、とても優しいのです。


若くはない村長ですが、トビーくんの夢を叶えてあげるために頑張ります。


バッサバサ…バッサバサ


「何だか夢みたい」


「ほう、そうかい?」


「うん。たまに夢の中でね、空を飛んでいる夢を見るの」


「ほうほう」


「でもね、その夢の中ではいつも地面すれすれを飛んでいるの。

もっと高く飛びたくて頑張るんだけど、全然飛べない…そんな夢なの」


「………」


村長、もっと頑張ります。

バッサバサ…バッサバサ



運良く気流乗って上手く上昇。


冬の夜空をトビーくんを乗せて、飛んでいる村長。


「E.Tみたいだねぇ」


「なにそれ?」


「昔の映画だよ」


バッサバサ…バッサバサ


村長はいつもプレゼントを、静かには配れないタイプです。


バッサバサと、翼の音が周囲に聞こえてしまうからです。



ポ村ではイブの夜は、サンタ村長のために静まり返ります。


そうやって静かにすればするほど、村長の翼の音はより聞こえてしまうのです。


そして村長としてはそっと窓を開けているつもりでも、実際はプレゼントを持ちながらぎこちなく開けるので、翼の音がバサバサとしてしまいます。


しかし今日はとても静かです。


気流に上手くのった村長は、翼をバサバサする事なくムササビのように空を舞っていました。



ポ村の子どもたちは今年も、村長の翼の音を眠った振りをしながら、耳を澄ませて聞いている。


すると翼の音ではなく、鈴の音がシャンシャンと聞こえてきました。



今まで聞いたことの無い音です。

 


“もしかしたら本物のサンタさん!?”


ポ村の子どもたちの心はザワザワし始めました。


“どっどうしよう…

本物かも!!いよいよサンタさんが来たのかも!”



ドキドキしてサンタさんを待っている子どもの一人…

ペンネくんの部屋の窓の前で、鈴の音が止まりました。


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ペタペタペタ…


カラララ…


眠っている子どもを起こさないようにしているのか、とても静かに窓が開きました。


いつも大変そうにバサバサと、窓を開ける村長とは違います。



“やっぱりサンタさんなの?”


ずっと見てみたかったサンタさん。


夜中、子どもがひとりで眠っている、寒くて静かな暗い部屋。


好奇心と共にムクリと顔を出した恐怖。


いざとなるとベッドから起き上がって確認する勇気が、なかなか出てきません。



靴下の中に入り込んでいるペンネくんは、何となく視線を感じていました。



その後ペンネくんが入っている靴下の中は覗かれず、プレゼントらしきものをどこかにコトリと置いた音だけが聞こえました。


そして静かに窓が閉められ、再び鈴をシャンシャン鳴らして去って行く。



シャンシャン……シャンシャン……



鈴の音が遠ざかって行くのを聞いてから、ペンネくんはそっと起き上がりちゃんとプレゼントが置かれている事を確認。




恐る恐る窓を開けて、辺りを確認してみる。


「やっぱり……

サンタさんだったのかな?」



ペンネくんたちは気付いていませんでしたが、鈴の音はトビーくんなりのサンタ演出です。


みんながサンタさんに会いたがっていたので、今年はトビーくんがよりサンタさん風を演出したのです。



「みんな今年は、村長サンタと違うことに気付いてくれたかな?

鈴の音も鳴らしてみたんだけど…

サンタさんが来たって喜んでくれたかな?」


ココアちゃんはクークー眠っていて気付きませんでしたが、他の子どもたちは今年のサンタさんの様子が例年と違うことに、きっちり気付いていたようでした。


バッサバサ…バッサバサ…


バサバサ~…トトン。 


夜明け前、ようやくサンタさんのお仕事が終了しました。


「トビーくん、ご苦労さま」


「あ~疲れた。

サンタさんのお仕事って、大変だったんだね~」


トナカイのソリに乗って、子どもたちにプレゼントを配るという、素敵なお仕事。


しかし白ヒゲのおじいさんが寒空の下、しかも真夜中に無数の子どもたちに向けて、プレゼントを配るのは大変だと思います。


「おうちまで送るから、トビーくんも早く寝なさい」


「はーい。

村長、今日はありがとうございました」


「はい、どういたしまして」


クリスマスの朝、プレゼントのことが気になって目覚め始めた子どもたち。


“プレゼントだぁ”


いつも通り枕元に置いてあるプレゼント。


“置いてくれたのは村長?それとも…”


気になります。


“パパかママに聞いたら分かるかな?”


でもふだん両親の前では、サンタさんを信じているテイで過ごしている子どもたち。


そのため昨夜の違和感をどう聞いて良いのか分からず、結局聞けずにいました。


クリスマスが終わるとそのまま冬休み。


子どもたち同士でその話をする機会も、ないままになってしまいました。


ちょっとだけポ村の子どもたちの心がザワついた、クリスマスイブの夜。


トビーくんは疲れた身体をゆっくりと、ベッドに沈めていました。


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「今日のサンタさん役…

上手くいったかな?

みんなどう思ったかな?」


ふふ…うふふふふふ…


“みんなのおうちを回って聞いてみたい!”


そんな風に思うトビーくんですが、そんなことをしたら怪しまれてしまう。


「でもいいかぁ。

サンタさん役…楽しかったから」


トビーくんも今日のクリスマスは、パパママとゆっくり過ごして下さいね。