マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

ポ村の占い師

「やっべぇっ」


忘れていた何かを思い出したのでしょうか。

まゆさんは自宅の扉を勢い良く開け、慌てながら走って行きました。




一方ポ村の村長は、村役場に大切に飾られている御神木の小枝の前で、ため息をついていました。


実はポ村では年が明けると、村長が占い師にポ村のその年の運勢を、占って貰うという風習があるのです。


村長が持参したポ村の御神木の葉を使用して、占いをしてもらう。



【今年の占い結果】
昨年に引き続き厄災に注意が必要


「はぁ…」


今年のポ村の占い結果があまり良くなかったので、村長のため息が止まりません。


「今月の占いは少しでも、いい結果が出るといいんだけど」


その後は月が変わるごと、村長の代わりに村人が交替で、ポ村の事を占って貰いに行きます。



今月の占い担当はまゆさん。

占いの結果は村役場に行って、村長にしっかり伝えなくてはいけません。



数年前にポ村専属の占い師は、ソヨウさんという若い男性に代替わりをしました。

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その占い師は元々有名だったらしく、ソヨウさんという新しい占い師のお陰で、占って貰うためだけにポ村の外からも、観光客が来るようになりました。


そのためポ村を占うために来て貰ったのにも関わらず、しっかりアポを取らないと、なかなか会うことは出来ません。



本日も予約客の対応をするため、ソヨウさんは準備をすすめていました。


「おや?」


急にソヨウさんの直感が働く…


「今日は誰かがアポ無しで訪ねてくるな」

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「ご予約を頂いていた、アンコさんですね?」


「ええ、今日はよろしくお願いします。
私占いなんて初めてです…

何だか緊張しちゃうわ。

ええと、髪の毛で占うんだっけ?
はい、これでいいかしら?」


「頂戴します。
……。
普段はとてもしっかりなされているのに、たまに抜けてしまうことがおありですね?」


「やだっ、そうなのよ。

そんなことも分かるの?」



「……。
身体の調子なんかはどうでしょう?」



「身体?そうそう。
最近少しだるくて」



「いつも飲まれている、常備薬等ございますよね?」


「あらやだ、そんなことも分かっちゃう?

あるわよ、年だから年々増えちゃって……

血圧も高いし、コレステロール値も高いしね」



「……。
薬をうっかり飲み忘れてしまう…なんて事は?」



「そう言えば、ちょくちょくあるわね。

まぁ!もしかしてだるいのってそれが原因?

やだぁ。
早速あたしの抜けてる所が、悪い方に出ちゃってたってわけね?」


「ご家族の協力を得たりして、しっかりお薬を服用することをオススメします。

そうすれば体調も回復し、より食欲も増してくると思います」


「何だか原因が分かって安心したわ。

やっぱり当たるのね。

わざわざ遠くからここまで来て良かった。

今日はありがとう」



こうしてお客さんの心を軽くしてあげることも、この僕の仕事。



心が重くなり押し潰されそうな人は、相談しにきて欲しい…そう思う。


占いの結果は特に、いい結果を重点的に伝えるようにしている。


例え悪い結果が出ても、回避出来るよう注意を促す。


占いを信じてくれる人は、こうやって救ってあげやすい。


例えば
“自分に死を与えたい”

その思いが執拗に頭から離れない人でさえ、自分の占い結果を信じ込んでくれれば、救ってあげられるような気がする。


それはとても重い責任が伴うこと……


でもこのチカラを使えば、恐らく神に近い存在にさえなれるような気もする…


でもあくまで占い師として、自分を必要としてくれる人たちを救ってやりたい。



ポ村の新しい専属占い師は心理学を使い、心理的カウンセラーみたいな面も担っているようです。



「さて………」


客足が一段落し休憩に入る占い師。



「ふっふふふ…」


先程までの客前での穏やかな様子と違い、突然不気味に笑い出すソヨウさん。


髪の毛の束を大事そうに手のひらに乗せ、優しく撫で回しています。


ソヨウさんにとってこれは至福の時間のようです。


その大切な時間を邪魔するように、外の階段をガサツに駆け上がってくる音がする。


ダンッバタンッ!


そして乱暴に扉が開く。



「良かった!客いない??
急で悪いんだけど占って!」


ソヨウさんの目の前に突然現れたのは、まゆさんでした。


月が変更したため今日中に、今月のポ村の運勢について占って貰い、その結果を村長に伝えなければならないのです。



「やはりいらっしゃいましたね」


ソヨウさんはまゆさんを眺めながら、のんびりお茶を飲んでいました。


「………トランプのジョーカーみたいな、不吉な笑い方しながらこっち見んなっての」


「人に頼み事をしている方の、態度ではありませんね。

うちはアポイントをとって頂かないと、対応出来ないと何度も伝えているはずですが…。

貴女が占い担当の月はかなりの確率で、事前予約をとって頂けていない」


「うげっ」


ソヨウさんはお茶を飲みながら、手のひらに乗せていた髪の毛を口に含みなめ回す。



客前以外の姿を知る者にとっては、ポ村一の変わり者扱いをされているソヨウさん。


彼が言うには前世はゴキブリだったという。



ゴキブリだった当時、一緒に暮らしていた少女に彼は恋い焦がれていたそうです。


彼が知る中では一番可憐で、一番愛らしい少女。



いつも陰ながら見つめていました。


その少女は彼にとって生きる糧。


大切な大切な少女。



そんな少女と、彼は初めて目が合う。



突然訪れたとても幸せな時間。


その時間を噛みしめていたら、いつの間にかその大好きな少女に掃除機で吸われてしまっていました。



彼は掃除機で吸われても死ぬことはなく、掃除機の中で少女の髪の毛を食べながらいつまでも生き延びたそうです。


そもそもゴキブリというのは、人毛も好物なのだという。



その後、生まれ変わった彼は髪の毛を使い、占いが出来るようになったのだそうです。


思いを寄せていた少女を笑顔にすることは出来なかったけれど、こんな自分でも誰かの笑顔を取り戻してあげられるなら協力してあげたい。


その思いから占い師を続けているのです。



「いつも思うんだけど、あんたのそのゴキブリの話ってホント?」



ソヨウさんは髪の毛をくわえたまま、ニタリとしている。



「だからマジ気味悪い…」



「さて、まゆさん。
もうすぐ次のお客さんがくる時間です」


「じゃっ、じゃあ早くっ!
御神木の葉っぱは持ってるからさ。
ほらっ!」  


「まだ休憩中のルーティンが残っているんです。

お客さんが来るまでにトイレに行って、ヘアスタイルを整えて、コレクションの髪の毛たちともう少し戯れて、活力を貰って…」

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ソヨウさんが明らかに反応しました。


「ハイエの美容院で貰ってきた」


ソヨウさんは大量の髪の毛の束を、ニンマリしながら眺める。



「どう?占ってくれる?」



「………」



「ねぇっ!!」


「この髪の毛の中にまゆさんのは?」



「うっ…」


ソヨウさんの目の前で髪の毛を抜き、手渡すまゆさん。




【今月の占い結果】
世界的危機の影響でカゲが勢力を増してくる




「カゲをなるべく回避するためには、ポ村の御神木を大切にし、カゲが苦手としている十字架を常に清めておく事が大切です」


「カゲ………
鬱陶しい奴ら…」


「現在世界的危機状態が続き、皆の心が疲れてきています。

疲れた心をそのままにせず、心を癒してくれるものを上手に見つけて欲しい…

そう村長から住民に伝えるよう、お願いして下さい。

カゲ等、必要以上に怖がる必要はありません。

“正しく怖がる”でしたっけ?」   



「不安症や怖がりの人間は、カゲにのまれやすいからね。

所詮は霧のカタマリのような存在なのに。

うちの村の住民を、カゲなんかに喰わしてやるかよ」



「まゆさん。
他に個人的な占いはよろしいですか?」



「あたし?あたしはいいよ、悪いけど。

自分の事は自分で決める」



「ではもしお困りの事が出来た際には、是非ご相談下さい。

その時は事前に予約の方をお願いします」



「そうする。

今日はありがとう、助かった!」



「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


ソヨウさんは目を閉じ、まゆさんが渡した髪の毛の束の匂いを幸せそうに嗅いでいます。


「気持ち悪っ。

人の髪の毛に直接やるなよ。

現場を発見したら即、通報するからな」



「直接?
ふふふ。
素敵な事を教えて頂きました」


「もう通報しとこうかな…」