⚫︎本物語を最初からご覧になりたい方はこちら
⚫︎物語の概要をご覧になりたい方はこちら
前回のお話 (内臓脂肪減少薬 その1はこちら)
ちょっとだけ太ってきたことを気にしているあかりさん。外見重視の人が多い世の中、体型が気になるようです。
”見た目で判断しないで”って言っていたギャルが「イケメン大好きー、付き合うならイケメン限定」とか平気で言ってる。それを見た目で判断してるって言うんじゃないんだろうか、といつも思う。
錯視とかってのがあるけど、人って見て感じたものを、そのまま受け入れて飲み込んじゃうんだよね。あたしだって人を見た目だけでは判断したくないし、されるのも嫌だけど、見た目の好みってのはやっぱりある。イケメンといわれる部類の人でも、濃すぎる顔の人は苦手とか、マッチョすぎはちょっと怖いとか。
「ちょっぴり出てきた、あたしのおなか」
醜くなりつつあるおなか。ダイエット…ダイエットかぁ。いやだな。
英語は頑張れたよ。興味があったし、おいしいものをご褒美にして頑張れた。でもダイエットって、食べられなくてつらいって思いの方が勝つ。食べるのが好きだから、おいしいものをご褒美にして勉強頑張ったんだもん。
おいしいものを我慢して手に入るのが、少し引っ込んだあたしのおなか。
「うーん、そっかー。ダイエットねー」
「にゃ」
「ねこも嫌だよね。ダイエット。いや、エルトンはロボットか。いいな、ロボットはそういうの気にしなくて。その代わりごはん食べれないけど」
多少見た目を気にするあたしは、外見が劣化するたびに街を歩くのがちょっと恥ずかしくなる。見た目がよくなきゃいけない世の中、堂々と街を歩けなくなる自分がいる。あたしでさえこうなんだから、見た目と若さが取り柄の人ってどうやって生きていくんだろう。
誰だって老い衰えていくのに。
美しさと若さを保つのには、きっと莫大なお金がかかる。それでも世の中”見た目”って思っている人が多いから、老若男女、見た目を磨くために努力しているひとは多い。
だって…
お金を積めば望みの薬をくれる魔女、そんなのはさすがにいやしないから。
”バンバン”
突然エルトンが怒ったようにしっぽをバンバンとたたきつけ始めていた。長く放っておかれると怒ってしまうのだ。
「ごめんごめん、遊ぼうか」
職場
「ねぇ、あかり。今日すっごく気合入ってるよ、小林柚月」
「ほんとだ。いつも気合入っているけど、さらに可愛らしいおべべ着てる。分かりやすい子だね。なんかあんの?デートかな」
うちの会社は男女ともにスーツ着用は義務付けられていない。お客様が来社するときなどはスーツで出迎えるけれど、そうではないときはラフな格好で構わないことになっている。小林柚月のようにひらひらした、かわいらしい洋服を着てきてもOKなのだ。
「今日からって言ってたじゃん、中途採用の人が入社する日」
「ああ。男の人なわけね」
「あたしたちと同い年らしいよ」
「へー」
始業前のおしゃべり。中途採用の人は上の人からもろもろの説明を受けてから、午後にうちの課にやってくるらしい。同じ課とはいえ仕事を教えるわけでもないから、しばらくはそんなにしゃべることもないと思う。
あたしは小林柚月みたいに”お菓子どうぞ”とか、”インクカートリッジどこでしたっけ”とか、無理に用を作ってまで、積極的に人と関わったりはしない。
始業のチャイムが鳴って10分後、小林柚月が席を立つ。トイレに行っているらしい。
最初”トイレが近い子だな”と思っていたけれど、どうやら身だしなみのチェックをしに行っているようだ。
”仕事しろよ”って思う。
小林柚月は分かりやすい。
男性の前だけではなく、上司の前でも声や表情を作っている。女性に対しても身なりをバシッと決めた、きれいな人だと可愛らしい声で近づいている。どうやら自分のためになる人間と、そうではない人間の前で態度を分けているらしい。
彼女は先輩のあたしに対して、小林柚月の同期の女性たちよりは気を使っているっぽいけれど、やはり多少雑に扱っている感がある。
あたしを雑に扱うのは彼女だけではなく、他の男性社員たちも同じだ。もちろん全員じゃなく一部の連中だけだけど、小林柚月との対応の差には嫌でも気が付く。
トイレから戻ってきた小林柚月がちらっとあたしを見たことに気が付いた。
続きます