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前回のお話 (内臓脂肪減少薬 その1はこちら)
ぽっこりとおなかが出てきたことを気にしているあかりさん。職場では今日から中途採用の男性が入社。そのため可愛らしい見た目の後輩女子、小林柚月は気合を入れていた。
小林柚月はあたしのことをチラ見した後、他の女性社員のことも眺めていた。特にひかりのことは全身しっかりとチェックしている。髪型、メイク、洋服、足元、爪の先。
”ひかりはけっこうきれいだからね”
小林柚月にとってひかりは、尊敬する先輩というより身近なライバルのような存在らしい。
一方あたしはダボっとしたシャツにパンツルック。おなかが出ていることは多少隠せているけれど、小林柚月のライバルには全くならないみたいだった。
ブブッ。
”メール?おかあさんだ”
”誤変換あり、改行と句読点なし”の母親からの読みづらいメール。昼休憩に会おうってことね。おとうさんと旅行にでも行ったのかな。
近所に住んでいるというのにあまり帰らない実家。
「だっておかあさん、口うるさいんだもん」
一人でいる方がリラックスできる。あたしがそんな娘だからか、たまにこうしてランチの時間に会おうという連絡が入る。帰りは残業の場合があるから、退勤時間が何時になるのか分からない。休日は趣味に夢中のあたしがあまり家から出たがらない。
だから母はあたしに合わせて、平日の昼に連絡してくるんだと思う。
「今日はお昼ご飯買ってあるんだけど…夜に食べればいいか」
昼休憩
「ちょっと見ない間に丸くなった?」
母は出会い頭、にこにこしながら開口一番、気にしていて言われたくなかったセリフを口にする。丸くなったっていうのは性格のわけがない。だからムッとする。この母は娘になら何を言ってもいいと思っているのかな?
「休みの日に家に閉じこもってばかりいないで、たまには帰って来なさいよ」
「…」
「ねぇ、聞いてる?」
「お待たせしました。和風ハンバーグのお客様は…」
「はい」
いいタイミングでやってきた、大好きな和風ハンバーグを無言でほうばる。
「相変わらずおいしそうに食べるわね。だからって食べすぎには注意しなさいよ。一人暮らしだからって暴飲暴食はだめだからね」
このハンバーグ、柔らかくておいしいな。あたしは肉々しくない方が好きなんだよね。
「ねぇ、あかり。若いからって適当に食べたりしないで、健康にはちゃんと気をつけてよ?あ、そうそうお土産」
そう言いつつ母は、一人暮らしの娘にはどう考えても多いであろう量の温泉まんじゅうを、お土産だと言って渡してくる。
”温泉まんじゅう…開封したらすぐに食べなきゃだよね”
「あんたって昔からぐうたらでずぼらだから。十代のころまではよかったかもしれないけれど、これからは適当な生活しているとぶくぶく太っちゃうわよ」
自分の体型見てから言ってほしい。昔の写真を見ると、母は結婚してから丸々と太っていったのが分かる。
”女は結婚して子供を産むことが一番の幸せ”
そう思っているこの母は、娘がちゃんと嫁に行くまでは男性に選ばれるよう体型を保っていて欲しいのだろう。あたしは結婚したいなんて、言ったことはないけどね。
「あたしみたいになっちゃうからね」
…さすがに自覚してたか…
「ところで仕事はどう?頑張ってる?」
むやみやたらと”頑張ってる?”と聞くのが好きな母。
数年前。
そしたら。
「やだあかり、今起きたの?ぐうたらしてるわねぇ、まったく」
いつも一言余計なんだよね。
「あかりって、しょっちゅうぼーっとしてるわよね。ハンバーグ冷めちゃうわよ」
「仕事さぁ」
「え?」
「辞めるかも」
続きます