前回のお話
ねこ森町で深夜開店する“夜カフェ・夢森町“に立ち寄った若い女性。
彼女は自分に似た人と接するのが苦手で、上手く立ち回れないタイプの後輩の扱いに悩んでいるようです。
そんな後輩にちょっとだけ似たタイプの、人見知りらしいのねこさん。
そのねこさんは、いつの間にか彼女の前から、姿を消してしまっていました。
「まぁね。そうだよね。だって、嫌なんだものね。きみも人と関わるのが。仕方ないよね」
わかるよ。
いやだよね。
お互いに…
いやだ、あの娘。
あの目。
でも…
人と接するのが苦手な人間でも、働かなきゃいけないし、働く権利はある。
あたしから見てもおどおどしていて、人をイライラさせるタイプの後輩だって同じだ。
だから、苦手だろうがなんだろうが、これからも共に働かなくちゃならない。
あの後輩と…
とはいえ。
よく言う話がある。
“相手を変えるのではなく、自分が変わる“
たしかにね。
その必要性は感じているよ。
って言ったってさ。
簡単に出来るなら、誰も悩まない。
あたし、ほんとは可愛げのある人間に、実は嫉妬している。
妹や同僚のように、可愛げのある人懐こいタイプを見ていると、あんな性格になりたかったなと、思うことはある。
あたしと違って、周囲にはいつも人がいて…
でも一方で感じる別の思い。
実際、常に人に囲まれる生活はうっとうしいだろうな、と。
そう思うと結局あたしは、あたしのままでいいの…か?
ああ、それにしてもここにいると落ち着くな。
入店直後に比べて、頭の中にあったモヤがなくなっていきそうな気配。
あたしはあたしのままで…
「そこのお前、そろそろ帰らないとにゃよ」
「もう?何で?まだここにいる」
「帰れなくなるにゃよ」
「ふうん。いいよ」
「いいんにゃの?ほんとにいいにゃの?」
「…」
急に思い出す、古い友人である親友の顔。
嫌なことがあると、いつも話を聞いてくれる大親友。
身内より、職場の人より、一番あたしのことをわかってくれている人。
「お前…嫌なことでもあったにゃか?最後にお祓いしたろきゃ?」
「お祓い?」
シャンシャンシャカシャカ…
「なに?」
ねこが突然“ねこ森神社“と書かれたお祓い棒のようなものを、振り回し始めた。
「にゃんにゃか、にゃんにゃきゃー」
「なにこれ?」
よくわかんないけど、お祓いされてる?
ヘンテコなお祓いをされながらも、ふと思う。
自分に合わない、必要以上にヘラヘラした態度は取れないけれど…
でもあの後輩よりは、少しだけ上手く立ち回れる。
めんどくさい人をかわす方法くらいは、教えてあげられるかもしれない…気がした。
あたしレベルでいいのならだけど。
それでその結果、あの子が全然変わらなくても、それは仕方がないと思う。
変わる、変わらないは本人が選ぶことだから。
だけど。
あの後輩に教えるために今度、上司にもうちょっと柔和な態度をとってみようか。
そんな実験をしたくなってみた。
「にゃむ!お祓い終了にゃ。これでフィニッシュにゃ」
…………。
朝。
目が覚めた女性。
そこはいつものベッドの上。
「あれ?うちだ!」
どうやって帰って来たんだ?
ドラマとかでよくある状況。
あたしにも酔って失敗した経験はある。
けど。
「昨日ってお酒飲んだっけ??」
あの猫カフェ…じゃなくて夜カフェで?
ってか昨日のあれが夢だったのか、現実だったのか、もはや判断ができない。
頭がぼんやりしている。
そんな時、ふと時計の針が指している時間が目に入る。
「いやっいやいや、待て待て」
余計なこと考えている場合じゃない。
やばい!
遅刻する。
現実に戻らないと!
そんで仕事をするんだ。
この後に及んで、遅刻なんかしてたら、今日も残業だ!
そう、残業しないために!
あのおどおどした後輩は、上手くあたしの舎弟にしてやろう。
そんでコミュニケーションを取りながら、一緒に効率よく仕事をするんだ。
失敗したっていい。
あたしには話を聞いてくれる、親友がいるんだ。
もしかしたら、あたしのバックには可愛いねこたちもついてくれているかもしれない。
そう思うと、今までより積極的に行動が出来そうな気がした。