⚫︎本物語を最初からご覧になりたい方はこちら
⚫︎物語の概要をご覧になりたい方はこちら
「ねぇ、いつ死ぬの?」
「何よぉ、いきなり。相変わらずひどいわねー。死ぬってなんなの?」
ペラペラとよくしゃべる独身のペリコ伯母さんが、まゆさん宅に遊びに来ていました。
「だって、何年も前から自分の身体の違和感について言ってくるじゃん」
「あたしの心臓の話?」
「そう。あの会うたび会うたび、しつこく言うやつ」
「しつこくなんて言ってるかしら?心臓が変だって、ちょっと言っただけじゃない。せっかくおいしいチョコレート持ってきてあげたのに」
「それはどうも」
「これねぇー。デパ地下で2500円もしたんだから」
心臓に違和感を感じているらしいペリコ伯母さんは、恩着せがましい所があります。
「そうそう、その日はお洋服を買いに行ったんだけど、店員さんによく似合うって褒められてねぇ」
ペリコ伯母さんは自慢王でもあります。
「また自慢?」
「何よ。自慢じゃないわよ。ほんとのことだもの」
「あのねぇ。ほんとのことじゃなかったら、ただの嘘つきっていうんだよ。ことあるごとに自慢話挟み込んできて、友だちに鬱陶しいって言われない?」
「言われないわよ、そんなこと」
「…ふうん」
「ところでまゆちゃん、たまにはどこか遊びにいきましょうよ」
「心臓が悪いのに?」
「大丈夫な時もあるもの。どこ行く?」
「ペリコが行きたいんなら、自分で決めなよ」
「だめよ。私おばさんだから、どこがいいとかあんまり分からないもの。こういうのって若い人の方が分かるでしょ?」
「じゃあ”昔話の国”は?かぐや姫と一寸法師に会いたい。パレード見たい」
「遊園地?いやよ。疲れるもの」
「疲れる?なら草津温泉は?」
「いやよ。遠いいもの」
ペリコ伯母さんは自慢王だけではなく、文句王でもあります。
あとは海賊王の名を取りに行くだけです。
「でね、心臓のことなんだけどね」
「その話まだ終わってなかったの?」
「なによ、もう。誰も心配してくれないんだから。あんたのお母さん(隣家に住む妹)なんてひどいのよ。相談したら”あっそ”だって。こっちを見向きもしないで言うんだもの。冷たいったらないわ」
まゆさんの対応も周囲の皆さんと、あまり変わらないと思うのですが…
「あたしね、テレビで見たことあるのよ。身体に違和感があるのに、放っておいた結果、大変な病だったって話」
「でもペリコは病院で診て貰ったんでしょ?」
「そうよ。なんともないって言われたわ」
「ああ」
「”ああ”じゃないのよ。気のない返事ね。なんかね、あたしの心臓がね、こうドキドキしちゃって」
「それは自分で気にしちゃってるからでしょ?」
「ちがうの!ちがうのよ、もう!バックバクするの!心臓が!!」
「絶対おかしいわよ。いつもこのまま死んじゃうんじゃないかって思うんだから!」
「一人暮らしで家の中は静かだから、自分の出す音もよく聞こえるんだよ。ペリコはさぁ、心臓の音より、自分のくしゃみの音を気にした方がいいと思うよ」
まゆさんが実家で暮らしていた時、お隣のペリコ伯母さん宅から、大音量のくしゃみがよく聞こえていたのです
「医療従事者なんだったら、もう少し親身になって話を聞くもんじゃないの?」
「聞いた聞いた、って言うか会うたび聞いてる。ほんとに何でもないと思うよ。先生の言う通り!」
「気のせいだって言いたいの?全く!あたしのこと誰も分かってくれないんだから!」
「人ってさ、そういうものだよ。自分のことも分からないんだから、人のことなんて尚更わからないよ」
「そういうことを言って欲しいんじゃないのよ」
ようするに心配して欲しいのです。
続きます