前回のお話
まゆさんが実家へ帰省中の為、ひとりお留守番をするにゃこさん。そうこうするうちに、まゆさんが帰ると言っていた夕方に。
そこへ人影が…
“にゃ、まゆちゃん?”
まゆさんからにゃこさんのことを頼まれていたてんまさんは、用事がすんでから様子を見に来たようです。
「遅くなっちゃった。にゃこちゃん、大丈夫?」
「にゃんだぁ。まゆちゃんじゃなくて、てんまちゃんにゃわ」
「この子ったら、まゆちゃん以外には冷たいんだから。まゆちゃんまだ?」
「まゆちゃんはまだにゃわ。てんまちゃん、まゆちゃんに会えなくて、寂しくなったのにゃか?」
「え?」
てんまさんは、にゃこさんの方が寂しくて泣いていると思っていたのですが、そんな様子もなさそうです。
にゃこさんはまゆさんを待つため玄関に出てきちゃってはいますが、凛々しく仁王立ちで待っているようです。
でも遊び歩いていたからか、あちこち汚れが目立ちます。
「にゃこちゃん、手」
「にゃ?」
「そうにゃ、かっこいい大人のねこさんにゃもの。だからお留守番も出来るんにゃ」
「そうなんだね。そうだよね」
「そうにゃ」
「もう日が暮れるし、まゆちゃんそろそろ帰ってくるかな?」
「にゃこのとこ、帰ってくる?」
にゃこさんは、よじよじと家の屋根の上を登っていきます。
今度は高い所からいち早く、まゆさんを見つけようと思ったのです。
「にゃこちゃん。何してるのー。あぶないよっ」
てんまさんが注意する間もなくにゃこさんは、屋根の上に登って行ってしまいました。
「ねー、にゃこちゃん。もうすぐ帰って来ると思うからおうちで待ってようよ」
「…」
「ねぇってばぁ」
「あ!」
「え?」
「あー!!見つけた!まゆちゃんにゃ!」
そんなまゆさんの方からも、にゃこさんが見えているようです。
まゆさんはにゃこさんがもう少し幼かったころ、ともに実家で住んでいた時のことを思い出していました。
“みゃー、みゃー”
部屋でまゆさんが寛いでいたときのこと。
唐突に、外からにゃこさんの泣き声が聞こえて来る。
「ん?」
「にゃーにゃー」
「なにしてんの?」
外を見てみると、にゃこさんは、庇の上に乗っかっていました。じっとまゆさんを見ながら”みゃーみゃー“とないています。
「なに?ひょっとして降りられないの?」
ねこさんは怖くて降りられなくなるくせに、高い所に行きたがる習性があります。
「全くもう」
まゆさんは縁側の横にある塀を伝い、庇の方に上がっていきます。
あの時あたしも若かったから助けられたけど、あれから少しばばあになった今は、屋根にのぼれるかなぁ。
「まゆちゃん、お帰りっ」
「おう、てんま」
「まゆちゃーん」
にゃこさんが、屋根の上からまゆさんを呼んでいます。
「はいはい、わかったわかった。今行くから、そこで大人しく待って…」
にゃこさんは言い終わる前に、待ちきれないという様子で、屋根の上から身軽な動作でまゆさんの元に降りてきました。
まゆさんは内心ちょっとびっくりして、にゃこさんを見つめます。
「まゆちゃん、にゃこね。ちゃんとお留守番してたのにゃよ」
「そうなんだ。偉かったじゃん」
「にゃぁ!」
「大きくなった。ほんとに」
「大人にゃもの。にゃこのこと、たよりになる?」
「うん、なる。安心した」
にゃこさんは、ほめられて嬉しそう。
そしてまゆさんもなんだか嬉しそうです。
「大きくなった…なんて親戚のおばちゃんみたいね」
「うるさいな、てんま。なにしてんだ?人ん家で」
「あーひどーいっ」
「うそうそ。ふたりにお土産あるから」
「やったねー、にゃこちゃん!」
「やったにゃー」
にゃこさんの成長を嬉しくも、寂しくも感じる。
お留守番を頼んだまゆさんは、そんな親戚のおばちゃんのような、母親のようなことを思うのでした。