にゃこさんはもう、大人のねこさんです。
完全体の大人のねこ。
大人なのですが、とっても甘えっ子。
でも甘えんぼさんのねこは、にゃこさんだけではありません。
人と共に暮らしているねこさんたちは、甘えんぼさんが多いのです。
一方、ひとりで暮らしているどろちゃん。
まんまるのまる。
どろちゃんは、ころんころんしたねこさんです。
大きなまあるい、おむすびのようです。
“ころりん”とよく転がりそうです。
「失礼にゃっ」
どろちゃんは、まゆさんに甘えているにゃこさんをジッと見ています。
「いい大人が恥ずかしいにゃ」
どろちゃんはねこさんの前では特に、つっけんどんです。
母離れして以来、ひとりで自由気ままに暮らしてきました。
好きなところで寝て、好きな時間に起きる。
人と共に暮らしているねこさんたちは案外、人間の生活リズムに合わせているのです。
そして食べたい時にご飯を食べて、気になったものがあったら確認しにいく。
クンクンクン…
きのこさんのピルケース確認。
クンクンクン…
やっぱり漢方薬の匂いが、お気に入りのようです。
クンクンクン…
「にゃっ!またお前きゃっ!
そこで何してるにゃ!」
「めんどくさいやつがてできたにゃ…」
「それっ、そのおくすりっ。
おばあにゃんのにゃしょ。
早く返すにゃよ」
セラピーキャットのにゃこさんは、ご高齢の方がちゃんとお薬を飲めているのかどうか、いつも気にしているのです。
「あら、にゃこちゃん」
「ちょっと、にゃこー。
なにしてんのー」
「まゆちゃん、こいつが…」
「まゆさん、こんにちは」
「きのこさん。
今日も良いお天気ですね」
「ほんとね、気持ちいいわね。
にゃこちゃんとお散歩?」
「まゆちゃん、まゆちゃん!」
「ん?なになに?」
「あいつがにゃね~」
にゃこさんは、まゆさんときのこさんの間に、プンスカしながら割り込んでくる。
「にゃこちゃん、今日も元気ね。
可愛いわね」
「にゃ?」
プンスカしていたにゃこさん。
なのにまゆさんときのこさんに囲まれ、いつの間にか撫で撫でして貰っている。
「にゃふ…
にゃふふふふ」
にゃこさん、すぐご機嫌さんになる所が長所です。
その様子をひとり、見ていたどろちゃん。
どろちゃんはいつもひとりです。
大人になったどろちゃんは、ママと一緒に暮らしていた場所からある日突然、追い出されました。
その日以来、ずっとひとりで暮らしています。
でも大人とは、そういうものです。
(大人はひとりで生きていかなきゃ、ならないんにゃ)
どろちゃんは、にゃこさんの前ではいつも、ツンケンしてしまいます。
なのでにゃこさんも、ついツンケンしてしまう。
概ね、ねこさん同士はそんな所があります。
そもそもねこさんたちは寂しくても、互いに強がってしまうそうです。
気の合うねこさん同士は仲良く出来るけれど、気が合わないねこさん同士は、建前的な態度がとれないので距離をとってしまいます。
再びどろちゃんが、にゃこさんの様子を確認すると、きのこさんに抱っこされて嬉しそうにしていました。
にゃこさんは、とても素直な子なのです。
嬉しいことがあれば、素直に喜びます。
そしてその様子を、チラチラ見つめているどろちゃん。
プイと視線をそらしたかと思ったら、トコトコと木の幹の方へ行き、ポテンと寄りかかる。
「どろちゃんはもう…大人にゃすから…」
「よっ」
「??」
どろちゃんは、誰かに声をかけられました。
そしてその誰かはトスンと、どろちゃんの隣に座る。
(あのにゃこと、一緒に暮らしてるおんなにゃ)
その誰かは、まゆさんでした。
「なんにゃよ」
「いつもうちのにゃこが、迷惑かけてるでしょ?それなのに遊んでくれてるでしょう?
だからお礼を言いに来た」
「にゃ…?」
「ありがと」
(久し振りにママの事を…
思い出したにゃ)
「な、なんにゃよ…
大人のねこさんに失礼にゃ」
地団駄を踏むように、どろちゃんは足をバタつかせています。
「ごめん、ごめん」
そう言いつつも、まゆさんは再びどろちゃんを撫で撫でします。
「……」
「じゃあ、またね」
「…にゃぶ」
ねこさんは、ねこ同士ではお互いに強がるけれど、人の前では素直に甘えられるそうです。
“大人になったってたまには、甘えたい”
そんな時もありますから…
大人のねこさんたち。
甘えたくなったら素直に、人間に甘えんぼさせてくれるよう、お願いしてみましょう。