マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

夢森町 2ねこ目 その2

前回のお話
一緒に住んでいた彼女に出ていかれた俺は、淋しい部屋に帰るのを遅らせようとあてもなく歩いていた。
そして見知らぬ場所に辿り着き、見知らぬ飲食店を目にする。
なんとなくその店に入るのはためらっていたのだが…

「いらっしゃいませにゃ」

なんで俺はこの店に入ってんだろう。


入る気はなかったのに、この店を眺めていたら無性に入りたくなってしまった。
やはり飲食店のようだった。


それよりも気になるのは、店の店員も客も全員ねこだということ。
ねこがちょこちょこと働いている。


店内は”にゃんにゃん”という賑やかな声で満たされていた。

喋って働く…ねこ?

頭の中にいろいろと疑問が浮かぶのに、なぜだかその疑問は次々とかき消されていく。


まぁいいか。
そういうこともあるか、みたいな気持ちになる。

店の店員らしきねこがトコトコと近寄ってきた。



「チキンとマウスはどちらにしますにゃか?」
「マウス?」


「マスター、マウスにゃて」
「いや違う、じゃなくて」
「なんにゃよ、違うにゃの?おすすめにゃよ?」


マウスを選択したわけではなく、聞こうとしただけだったんだけど。


マウス…ねずみ…
食べる人たちが、この世にいるらしいことは知っている。


けどこのねこに聞いても、まともに返事が返ってこなさそうなので質問はやめにした。
チキンということは鶏のことだから、そっちを選ぶのが無難だろう。

「じゃあ、チキンで」
「チキンにゃて!」
「チキンにゃて」
「にゃて」

伝言ゲームのようにねこたちが厨房に向けて伝達している。

にゃて
不必要な仕事が多いようだ。


「ここって?」
いまさらながら、そんな質問をしてみる。

「ここ?夜カフェ夢森町にゃ」
「夢森町…」


この町の名前?
聞いたことのない町だった。


「夜になると開店するお店なのにゃ」

俺、ねことしゃべってるなぁ。
頭のどこかでよぎる思い。


「のど乾いたにゃか?にゃら、これ」
「何?」
「ミルクにゃ」
「ああ、どうも。いただきます」

独特な味のミルク。

「これ牛乳?」
「違うにゃ。ヤギミルクにゃ」
「ヤギ?」
「みんな好きじゃないから、あまりものにゃ」


とても接客に向いていないことを言うねこの店員。

だけどぽっかりとあいた穴に、何かがふわふわと舞い降りて埋まっていくようだった。

店内を改めて見渡してみる。

ねこたちがなぜか俺を心配そうな目で見ていた。

……。
それにしてもねこの香りがするなぁ。


あ、魚がいる。
魚、食べたかったかも。

「ねぇあの魚、種類は?食うんでしょ?」


「なんで食べるんにゃ。あの子はみんなで買っている大事なペットにゃ」
「ペット。生け簀じゃないんだ」
「みんなで大事にしてるんにゃ。見ているだけで癒されるのにゃ」
「へぇ。癒されるんだ」


愛玩動物のねこは人を癒してるんだと思ってたけど、ねこ自身も何かに癒されたいと思うのか。


次回へ続く