前回のお話
一緒に住んでいた彼女に出ていかれた俺は、淋しい部屋に帰るのを遅らせようとあてもなく歩いていた。
そして見知らぬ場所に辿り着き、見知らぬ飲食店を目にする。
そこは店員がねこだらけの店だった。
「ほら、チキン。出来たにゃよ。おいしそうにゃしょ?」
出てきたのはホントに美味そうな、チキンソテーだった。
付け合わせに、インゲンとニンジンとポテトが添えてあった。
独特味のヤギミルクの後だっただけに少し身構えてたけど、皮はぱりぱりしているし肉はジューシーでなかなか旨かった。
食べ始めて腹がすいていたことに気付いたので、一気に食べ終えてしまった。
「ごちそうさま。すっごく旨かった」
「……」
そういうとねこたちがなぜか、物欲しそうにこちらを見上げている。
なんとなく一匹ずつおでこを撫ででやると、彼らは満足そうににんまりとしていた。
ねこのおでこはふわっとしていて、温もりを感じた。
ねこも俺も、互いに癒されている、そんな風に思った。
腹が満たされたからか、頭がぼんやりしてきた。
「いい食べっぷりにゃった。顔色も良くなったにゃわ」
「ん?」
ねこがにこにこして、そう俺に話しかけた。
そういえばさっきまで心配そうな目で俺を見つめていたねこたちも、嬉しげにこちらを見ている。
「さてと。おまえ、いつまでいるんにゃ?そろそろ閉店にゃよ」
「そんなにいた?ここ夜カフェなんでしょ?まだそこまで夜も更けてないけど」
「閉店時間はこちらで決めてるのにゃ。お前には“ねこねこお祓い”はなしにゃ。今日はもうおしまにするのにゃ」
そういうと、ねこたちにころころ店を転がりだされる。
「うわっ」
なんだよ…
“もうここにはいられないのにゃ”
……。
ーーーーー。
追い出され、何となく店の前でぼーっとしていたと思ったら。
いつの間にか俺は自室にいた。
さらに外は明るく朝だった。
「え、あれ?」
記憶、飛んでる?
なんで?
今さっきの出来事のはず。
なのに急激にだいぶ時間がたったように思えてきた。
いつの間にか帰って、いつの間にか。
寝ていた?
俺は確か、ねこたちの働く店にいて。
夜カフェ?だっけ。
んで、あれは何て名前の町だったっけ?
いろいろ疑問が浮かぶのに、起き抜けだからか考えるのがめんどうで…
とりあえず今はいいやという思いの方が強かった。
だってそれより仕事行く準備、しなくちゃ。
やっぱり一人だから殺風景な自分の部屋。
でもなぜか気持ちは前向きになっていた。
仕事頑張ろうとか思ってた。
そして、ねこを飼おうとかも思っていた。
このさみしい部屋にねこの女の子と一緒に暮らす。
良いかもしれない。
今日の夕飯、またチキンも食いたいけど、魚…食いたいな。
そんなことを考えた直後、彼女を一人にさせたから捨てられたことを思い出した。
そうか。
ねこの女にも出ていかれてしまうかもしれない。
とりあえず今日は刺身用の魚でも買って。
観賞用の魚も飼おう。
「魚は、寂しがらないよな」
いずれこの部屋はきっと。
もっとずっと華やかになるだろう。