前回のお話
ビビりで悩む小学六年生のヨモギくん。
ポ村小で開催される肝試しが嫌でたまらない。
でも女子に馬鹿にされたくないため、まずはビビり克服にチャレンジ。
トビーくんに特訓に付き合ってもらっていた途中、てんまさんに遭遇。
彼女は最近、恐怖心が無くなってきたとヨモギくんに伝えます。
「なんでですか?」
「トキソプラズマに感染しているのかもしれない」
「ときそぷらずま?それ、なんですか?」
【トキソプラズマ症】
トキソプラズマという、寄生虫に感染することで発症する病気。
猫などの動物から人にうつる可能性がある”人獣共通感染症”
人から人に感染することはなく、感染した動物の糞や、それが混ざった土などと接触した場合に感染する。
「妊婦さんとか以外は感染しても、無症状の場合が多いんだけどね」
「はぁ」
じゃあトキソプラズマに感染したって、なんでわかるんだろう。
「トキソプラズマはねずみにも感染するんだよ」
「ねずみですか?」
「そう、それでね。トキソプラズマはねずみから恐怖心をなくさせるの」
「え??怖い話ですか?」
”中間宿主”であるねずみに感染したトキソプラズマは、”終宿主”であるネコ科の動物の体内に戻るため、ネズミの脳をコントロールすると言われている。
ねこに対する恐怖心・不安感をなくさせる神経伝達物質を作り、ねこに食べられやすい行動をさせる。
トキソプラズマに感染したねずみは、猫の尿や臭いに誘われるように辺りを徘徊。
「そうして危険に対し、鈍感になっていったねずみは…」
「あわわわーわ」
その後、ねずみはどーなったの?
「トキソプラズマってね、ドーパミンを増加させるんだって。 ドーパミンは快楽、探索心、冒険心などをアップさせる脳内物質のことね。生きる意欲を作るホルモンって言われてる」
「そのドーパミンが出てきたねずみたちは、恐怖心がなくなって冒険心をもって行動してしまう、ということですね」
「このトキソプラズマって、人間にも同じような影響を与えるらしいよ」
「ドーパミンか。なんだか漫画に出てくるようなヒーローになれそうですよね。おびえることなく危険なことに挑戦し、世界を冒険する」
「そうだねぇ。人の企業志向を強めるとも言われてて、起業家にトキソプラズマ感染者が多いと噂されてるよ」
「なるほど」
「だけどね。トキソプラズマに感染した人は、交通事故に遭う確率も高まるみたい」
「…」
「私ね、ジェットコースターをはじめ、子どもの頃は怖いものがたくさんあったの。妹がね、塀から塀にぴょんぴょんと飛んでいるのを見て、私もやってみたかった。けれど踏み外したらどうしよう…すりむいちゃうかも、頭を強く打っちゃうかもって悪いことを想像して、いつも躊躇してた。 だから結局、妹のように塀の上で遊ぶことはできなかったんだ。なのに今はね」
“ひょっとしたらこのまま落ちて、足に刺さってしまうかもしれない。でも、今火を使って炒め物をしているし、いちいち包丁を動かすのは面倒くさいな“
落ちないかもしれないしな。
落ちない方にかけようかな。
「悪い想像はするんだけど、大丈夫な方に賭けている自分がいるの。いつのまにこんな危ない橋を渡ることに対して、恐怖を抱かなくなったんだろう」
「包丁、大丈夫だったんですか?」
続きます