マメチュー先生の調剤薬局

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ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

怖がり屋さん その10

前回のお話

ビビりで悩む小学六年生のヨモギくん。
ポ村小で開催される肝試しが嫌でたまらない。
でも女子に馬鹿にされたくないため、まずはビビり克服にチャレンジ。
トビーくんに特訓に付き合ってもらっていた途中、てんまさんに遭遇。
彼女は最近、恐怖心が無くなってきたとヨモギくんに伝えます。


「なんでですか?」
「トキソプラズマに感染しているのかもしれない」
「ときそぷらずま?それ、なんですか?」


【トキソプラズマ症】
トキソプラズマという、寄生虫に感染することで発症する病気。
猫などの動物から人にうつる可能性がある”人獣共通感染症”
人から人に感染することはなく、感染した動物の糞や、それが混ざった土などと接触した場合に感染する。


「妊婦さんとか以外は感染しても、無症状の場合が多いんだけどね」
「はぁ」

じゃあトキソプラズマに感染したって、なんでわかるんだろう。

「トキソプラズマはねずみにも感染するんだよ」
「ねずみですか?」

「そう、それでね。トキソプラズマはねずみから恐怖心をなくさせるの」
「え??怖い話ですか?」


”中間宿主”であるねずみに感染したトキソプラズマは、”終宿主”であるネコ科の動物の体内に戻るため、ネズミの脳をコントロールすると言われている。

ねこに対する恐怖心・不安感をなくさせる神経伝達物質を作り、ねこに食べられやすい行動をさせる。
トキソプラズマに感染したねずみは、猫の尿や臭いに誘われるように辺りを徘徊。


「そうして危険に対し、鈍感になっていったねずみは…」


恐れ知らず
「あわわわーわ」
その後、ねずみはどーなったの?

「トキソプラズマってね、ドーパミンを増加させるんだって。 ドーパミンは快楽、探索心、冒険心などをアップさせる脳内物質のことね。生きる意欲を作るホルモンって言われてる」
「そのドーパミンが出てきたねずみたちは、恐怖心がなくなって冒険心をもって行動してしまう、ということですね」

「このトキソプラズマって、人間にも同じような影響を与えるらしいよ」
「ドーパミンか。なんだか漫画に出てくるようなヒーローになれそうですよね。おびえることなく危険なことに挑戦し、世界を冒険する」

「そうだねぇ。人の企業志向を強めるとも言われてて、起業家にトキソプラズマ感染者が多いと噂されてるよ」
「なるほど」

「だけどね。トキソプラズマに感染した人は、交通事故に遭う確率も高まるみたい」
「…」

「私ね、ジェットコースターをはじめ、子どもの頃は怖いものがたくさんあったの。妹がね、塀から塀にぴょんぴょんと飛んでいるのを見て、私もやってみたかった。けれど踏み外したらどうしよう…すりむいちゃうかも、頭を強く打っちゃうかもって悪いことを想像して、いつも躊躇してた。 だから結局、妹のように塀の上で遊ぶことはできなかったんだ。なのに今はね」

危ない

“ひょっとしたらこのまま落ちて、足に刺さってしまうかもしれない。でも、今火を使って炒め物をしているし、いちいち包丁を動かすのは面倒くさいな“


落ちないかもしれないしな。
落ちない方にかけようかな。


「悪い想像はするんだけど、大丈夫な方に賭けている自分がいるの。いつのまにこんな危ない橋を渡ることに対して、恐怖を抱かなくなったんだろう」


「包丁、大丈夫だったんですか?」

続きます