前回のお話
ある冬の日。
朝から薬局内に置いてあった、見知らぬ段ボールのことが気になっていたオウギさん。
しかしそんなオウギさんにイチイさんは“薬の有効期限“について尋ねます。
「薬の有効期限?」
「残薬問題もあるしな」
「ただほとんどの薬は多少、有効期限が切れたところで健康に害がないことが多いですけどね」
「ほうほう、そうだな。ちょっと期限が切れたくらいじゃな」
イチイさんはオウギさんの話を聞いて、相槌を打っています。
「とはいえ患者さんに有効期限を聞かれた場合は、やっぱりチョウジの話じゃないけど、開封済みかそうじゃないかを聞きますね。あとは薬によっても違うので薬の種類をたずねます」
「種類によるか」
【開封してしまった薬の有効期限】
瓶などに入っている錠剤やカプセルなら1年以内。
軟膏も開封後の使用期限は3ヶ月程度ですが、分離してしまっている場合は処分して頂く。
目薬などの液体の薬は腐敗しやすいので、開封後1ヶ月以内に使用してもらう。
「有効期限って気にする人は、とても気にしますからね」
「食品も薬品も期限が過ぎたものは、絶対口にしない人っているよな。イチイさんは気にしませんよね。チョウジはどっち?」
「今の薬の話からすると、こいつも気にしないだろう」
「そうですね。そんなに気にしませんけど。夕飯の残り物すら嫌って人もいますよね。ってか今日…気になってんたんですけど、薬局内、朝から甘い匂いがしてません?」
「俺も思った」
オウギさんはダンボールの存在に気がついた後、甘い香りが漂っていることにも気が付いていました。
「オウギさんも?」
「やっぱり気のせいじゃないよな」
「掃除とかで使うスプレーの香りか何かかな…ロクジョウさん、何か使った?」
新人薬剤師ロクジョウさんは口数少なく、いつもおどおどしているところがありますが、常に笑顔を絶やさない女性です。
そのロクジョウさんは「いいえ」と首を振っています。
「なんか甘い匂い嗅ぐとお腹減ってきいません?お菓子食べたくなってきた」
「マジかよ。腹減る匂いか?」
匂いを嗅いでお腹を減らすチョウジさんの一方、オウギさんは匂いを嗅ぎながら何か考え事をしているようでした。
“なんかこの匂い、どこか腐った香りが混ざっているような気がする。芳香剤の香りに混ぜてごまかすかのように腐った何かが?“
「お菓子っていえば、期限内でもスナック菓子とか湿気てたりすることありません?がっかりするんですけど」
「腐った食べ物。細菌に感染している食べ物。腹壊さない自信あるでしょ、イチイさん」
「さっきからなんでお前は決めつけてくるんだ?薬剤師として決めつけや思い込みは良くないぞ。ミスにつながる」
「でもあってますでしょ?」
「たまたまな」
次回へ続く。