前回のお話
トウキさんの個展を見にポ村にきた、観光客の女性二人組。
個展を開催する場所をみつばちさんと散歩中のてんまさんに尋ねようとしたら、そこへカラスケくんがやってきました。
しかし観光客の女性たちはカラスケくんを見て、とても気味悪く思っているようでした。
「大丈夫だすよ。ワタスこういうのは慣れっこなのだす」
カラスケくんは、てんまちゃんにそう伝えている。
でもアタシ、さっきあなたがしょぼんとしているところ…見たよ。
何をされてもカラスケくんはニコニコと許してあげ、さらには悲しそうな顔をしているてんまちゃんを慰めるように、笑顔を作って言っている。
「カラスケくん、なんでそんなに優しくなれるの?私はだめ。そんな風に優しい人にはなれないみたい。だからいつもまゆちゃんに鬼っこ扱いされてんの。やんなっちゃう」
「ええ?てんまちゃんがだすか?」
てんまちゃんはカラスケくんとアタシだけを見るようにし、心をどんどん固くしていっているように見えた。
「あの人、質問無視して自分の世界に入っちゃってない?」
「なんでなの?この村の人の特性?」
女性たちはてんまちゃんを、軽蔑したような目で見ている。
やだな。
あ、人の気配。
まゆさんだ!
きてくれた。
「みつばち。まだ起きてんだ」
(現在初冬です)
アタシを見てまゆさんは、ニッと笑う。
まゆさんは困っている女性たちの存在と、てんまちゃんの様子に気づく。
そしてまゆさんはまず、観光客の女性たちの方に向かって行った。
「どうかされました?」
穏やかに声をかけたまゆさんは、女性たちに個展の場所を教えているようだった。
「ありがとうございます」
そう言い残した女性たちは、そそくさとその場を去っていこうとしていた。
“よかったね。まともな村人がいて“
“うん。とにかく早く行こう“
聞こえているけれど、女性たちは小声で言っているつもりみたい。
そんな彼女たちは去り際、ふと気になったのかてんまちゃんの方を振り返る。
振り返った先にはてんまちゃんがカラスケくんを、とてもとても大切なもののように抱きしめていた。
その姿がやたらと気になるのか、女性たちは交互に振り返る。
さっきまではカラスケくんを見て、不快感をあらわにした表情をしていたけれど…
てんまちゃんがあまりにもカラスケくんを大事そうにしているのを見て、少し見る目が変わってきているようだった。
誰かがとても大切にしているもの。
それってひょっとしたら、すっごくいいものなのかもしれない。
不思議なもので、そんな風に思えてくることがある。
「カラスケにゃ」
「カカッ」
まゆさんの後をついてきたらしい、にゃこちゃんがやってきた。
てんまちゃんの元を離れたカラスケくんと、じゃれるように遊んでいる。
「あれ?にゃこちゃん?まゆちゃんも!」
ようやく存在に気がついたてんまちゃん。
にゃこちゃんとカラスケくんが楽しそうに遊んでいるのを見て、安心した顔をしている。
まゆさんは女性たちがまだこちらを見ている中、てんまちゃんの長くて綺麗な髪の毛を思いっきり引っ張っていた。
女性たちが、慌てて立ち去って行くのを感じる。
一方てんまちゃんはまゆさんに乱暴にされているのに、先ほどまでの頑なな心は、みるみると解けていっていた。
「だらだら長い髪だな。最近ボブやショートが流行っているから切れば?」
「えー」
「しょうまに似るかもな」
「しょうまに?まぁ…一応姉妹だからね」
「今も十分似とるよ。けどもっと似るってこと」
「…まゆちゃんと、にゃこちゃんだけがいる世界になればいいのにな…」
「にゃ?」
「何それ、気持ち悪い。本気で言ってんの?」
「ううん。本気じゃないよ。あとカラスケくんと、もちろんマメチュー先生とUSAちゃん。それからポ村の人たち全員と…」
話を聞いていて不安になったアタシは、思わずてんまちゃんに寄り添いにいく。
そしたらてんまちゃんも顔を擦り寄せてくれた。
「もちろんあなたたちも」
「うふふ」
てんまちゃんが誰にでも優しいわけじゃないところ、アタシはなんだか嬉しくなってしまっている。
他の人には冷たい人と思われていればいい。
アタシたちだけに優しければ、それでいい。
自分のことはやっぱり“特別大事“にされているって確認できるから。
でもまゆさんは微妙な顔をしていた。
小さなこの村にやって来てからは、毎日楽しいんだっていうてんまちゃん。
「学生時代からあんまり変わらないな」
「ん?」
「この村から一緒に出ようって言ったら、出るか?」
「え?」
「いや、なんでもない。散歩するかぁ、散歩。それくらいしかすることない村だけど」
「そのお散歩が私にとっては、すっごく嬉しくなっちゃうことなんだけどな。他の人がこの村のことをどう思っていても」
「あっそ」
「うん」
この後みんなで、しばらくお散歩を楽しんだ。
とっても楽しかった。