“今日はてんまちゃんとお散歩♪“
てんまさんと暮らしているみつばちさんが、とても楽しそうにしています。
“アタシの家族はこの時期はもう、お家の中で身体を温め合って過ごしている“
このお話は、初冬になりかけくらいの時季のお話です。
でもアタシがまだその気分にならないって言ったら、てんまちゃんが“じゃあ気分転換にお散歩に行こうか“と言ってくれた。
嬉しかったな。
でもこれからてんまちゃんは、まゆさんと待ち合わせ。
だからちょっとだけだけど、今はてんまちゃんを独り占め。
あ、前方に女性がいる。
まゆさんかな?
ちがう。
見知らぬ女性、二人組だった。
「ポ村ってさ、空気はいいし自然も多いけど、それだけの村だねぇ」
「ほんと。自然を満喫したいんだったら、北海道とか沖縄の方がいいかもね」
そんな風に言っているのが聞こえる。
でも観光客が、ポ村でそういうセリフを言っているのはいつものこと。
“北海道とかにはさすがに勝てないよ“
前にてんまちゃんはそう言って笑っていた。
「じゃあ早くトウキの個展見にいこう」
「そうだね。ところで場所どこだったっけ?」
“トウキ“という人はこの村の有名な画家さんらしい。
姿は謎の有名人。
絵を描くのが好きなてんまちゃんもファンだから“個展“をやっている場所は知っていると思う。
きっとてんまちゃんなら優しく教えてあげられる。
“この村なんかいいな。また来たいな“
そう思ってもらえるくらい。
みつばちさんは、てんまさんの顔を見上げました。
「ねぇ、あっち行かない?あの木のところ」
「木?てんまちゃん、どうして?」
てんまちゃんは向こうにある木の方に行こうと、アタシを誘ってきた。
なんで?
もしかして…隠れようとしている?
「この村ってさ、目印になるような建物もないよね」
「村人に聞かないと辿り着けなさそうじゃない?」
「でもさ、さっきからほとんど村人見かけないじゃん」
そんなことないよ。いるよ、ここに。
「あれ、ねぇあの人この村の人じゃない?」
てんまちゃんは、木のカゲでビクッとしていた。
そして女性たちに見つかって話しかけられている。
話しかけられたてんまちゃんは、なんだかどぎまぎ。
「えっと…」
苦笑い気味の愛想笑いを返していた。
どうしたんだろう。
いつもはみんなに優しくはなしかけてあげているのに、今はなんだかいつもと違う感じ。
職場の人や患者さんたちにも優しくて、素敵な笑顔を見せてくれるてんまちゃんだけど、見たことのない人は苦手…なのかな?
「カカァ」
「カカカァ」
あら?カラスケくんだ。
てんまちゃんに挨拶しにきたみたい。
「うわ!カラスだっ」
「こわっ、気持ち悪っ」
「あたしカラスとか鳩とか、気味悪くて嫌いなんだけど」
女性たちは、カラスケくんの姿を見ただけで何故かすごく嫌がっていた。
てんまちゃんを見つけて、挨拶しにきただけのカラスケくん。
彼は女性たちから離れたところに座って、しょぼんとしている。
“ガッシャン“
てんまちゃんの心のシャッターが閉じる音が、聞こえた気がした。
女性たちはカラスケくんに怯えながら
「それで…トウキさんの個展を開催している場所なんですけど」
と心を閉じているてんまちゃんに質問している。
苦笑いしなくなったてんまちゃんは、質問に答えることなく女性たちを避けるように、カラスケくんのところに向かう。
「え?あの…」
「ちょっと、あの人の近く見て。蜂、いない?」
「ええ?ホントだ。こわ…」
てんまちゃんがカラスケくんのそばにいるからか、女性たちは近寄ってこない。
アタシも近くにいるからかもしれない。
そして多分…てんまちゃんは今、冷たい人だと思われている。
続きます。