マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

本当のてんまさん その1

“今日はてんまちゃんとお散歩♪“



てんまさんと暮らしているみつばちさんが、とても楽しそうにしています。

“アタシの家族はこの時期はもう、お家の中で身体を温め合って過ごしている“

このお話は、初冬になりかけくらいの時季のお話です。

でもアタシがまだその気分にならないって言ったら、てんまちゃんが“じゃあ気分転換にお散歩に行こうか“と言ってくれた。



嬉しかったな。




でもこれからてんまちゃんは、まゆさんと待ち合わせ。


だからちょっとだけだけど、今はてんまちゃんを独り占め。



あ、前方に女性がいる。

まゆさんかな?




ちがう。




見知らぬ女性、二人組だった。


「ポ村ってさ、空気はいいし自然も多いけど、それだけの村だねぇ」


「ほんと。自然を満喫したいんだったら、北海道とか沖縄の方がいいかもね」




そんな風に言っているのが聞こえる。




でも観光客が、ポ村でそういうセリフを言っているのはいつものこと。



“北海道とかにはさすがに勝てないよ“



前にてんまちゃんはそう言って笑っていた。



「じゃあ早くトウキの個展見にいこう」


「そうだね。ところで場所どこだったっけ?」



“トウキ“という人はこの村の有名な画家さんらしい。
姿は謎の有名人。

絵を描くのが好きなてんまちゃんもファンだから“個展“をやっている場所は知っていると思う。



きっとてんまちゃんなら優しく教えてあげられる。


“この村なんかいいな。また来たいな“


そう思ってもらえるくらい。




みつばちさんは、てんまさんの顔を見上げました。



「ねぇ、あっち行かない?あの木のところ」


「木?てんまちゃん、どうして?」




てんまちゃんは向こうにある木の方に行こうと、アタシを誘ってきた。

なんで?



もしかして…隠れようとしている?





「この村ってさ、目印になるような建物もないよね」


「村人に聞かないと辿り着けなさそうじゃない?」


「でもさ、さっきからほとんど村人見かけないじゃん」




そんなことないよ。いるよ、ここに。




「あれ、ねぇあの人この村の人じゃない?」



てんまちゃんは、木のカゲでビクッとしていた。



そして女性たちに見つかって話しかけられている。



話しかけられたてんまちゃんは、なんだかどぎまぎ。




「えっと…」




苦笑い気味の愛想笑いを返していた。




どうしたんだろう。




いつもはみんなに優しくはなしかけてあげているのに、今はなんだかいつもと違う感じ。



職場の人や患者さんたちにも優しくて、素敵な笑顔を見せてくれるてんまちゃんだけど、見たことのない人は苦手…なのかな?





「カカァ」

「カカカァ」



あら?カラスケくんだ。


てんまちゃんに挨拶しにきたみたい。





「うわ!カラスだっ」


「こわっ、気持ち悪っ」

「あたしカラスとか鳩とか、気味悪くて嫌いなんだけど」




女性たちは、カラスケくんの姿を見ただけで何故かすごく嫌がっていた。




てんまちゃんを見つけて、挨拶しにきただけのカラスケくん。



彼は女性たちから離れたところに座って、しょぼんとしている。




“ガッシャン“




てんまちゃんの心のシャッターが閉じる音が、聞こえた気がした。




女性たちはカラスケくんに怯えながら
「それで…トウキさんの個展を開催している場所なんですけど」
と心を閉じているてんまちゃんに質問している。




苦笑いしなくなったてんまちゃんは、質問に答えることなく女性たちを避けるように、カラスケくんのところに向かう。




「え?あの…」


「ちょっと、あの人の近く見て。蜂、いない?」


「ええ?ホントだ。こわ…」


てんまちゃんがカラスケくんのそばにいるからか、女性たちは近寄ってこない。


アタシも近くにいるからかもしれない。



そして多分…てんまちゃんは今、冷たい人だと思われている。

続きます。