前回の続き
お医者さんに比べて、憧れられない職業・薬剤師。
それなのにオウギさんはなぜ、薬剤師という職業を選んだのでしょう。
その理由を、後輩薬剤師のチョウジさんに尋ねられました。
「オウギさんはなぜ、薬剤師になったんですか?」
「オレが薬剤師になった理由?
それはねぇ。
小さい頃の話なんだけど」
「小さい頃…」
幼い頃、オウギさんは子ども向けの、病気について書かれた本を読みました。
その本を読んだことがきっかけで“病気になって死ぬ”という事への恐怖心が、初めて芽生えたそうです。
幼いオウギさんにとって“死”は都市伝説のようにしか思えませんでしたが、読後は急に死が身近なものになっていました。
すぐそこにあるかもしれないもの…
ーメメントモリー
死を思うようになった後に読んだ本は、ガンで余命宣告をうけた患者の話。
それは鎮痛剤のモルヒネで、痛みを緩和しながらガン患者をサポートするという内容の、ノンフィクションのお話でした。
読んだ後に思ったこと。
“医療って凄いな”
オウギさんが薬剤師になりたいと思ったきっかけの、もの凄い影響を受けた本でした。
“患者さんがやりたいことをサポートするための鎮痛剤”
ガン患者の方の望みは
「本を書いてから死にたい」
というものでした。
だからモルヒネを丁度いい量に、調整しなくてはいけません。
モルヒネの量を決めるのはお医者さまですが、薬剤師も共にサポートをします。
モルヒネの量は多すぎると眠くなってしまいますし、少ないと痛みが出てしまう。
薬の効き方は個人差もあるので、患者さんの痛みの訴えをしっかりヒアリングし、丁寧に対応していかなければいけません。
それには、患者さんとの信頼関係が大切です。
苦痛を感じること無く、集中して本を書けるように…
「私もその本、読んでみたいです。
患者さんために、お医者さんと薬剤師が…
その二人が、より良い人生を送れるためのサポートをなさっていたんですね」
「オウギさん、いいじゃないですか。
不特定多数の人に憧れられなくたって」
「え?」
「目の前にいる患者さん。
その患者さんを救うのが、僕たちの仕事なんですから」
「そうですよ。
目の前の患者さんを救えたら十分です。
私なら大満足です」
「そうそう。
ちゃんと救えてるかは、分からないですけどね。
ただ目の前の患者さんがオウギさんに憧れる…
その可能性はあるじゃないですか」
「薬剤師が…
じゃなくて俺自身が憧れられる?
それは…
プレッシャーになるかも…」
「えぇ?何ですか?それ」
「オウギさん!
イチイさんだったらそんな弱気なこと、絶対言いませんよ?」
「だから憧れてないってば」