イチイさんの調剤薬局で薬剤師として働くチョウジさん宅の近くで、井戸端会議をしている近所の高齢なご婦人たち。
”足元は暖かくしたいんだけど、顔は冷たい方が好きなのよね”
時間を持て余している彼女たちは、会えばいつも長い間立ち話しているようです。
「あら、チョウジくん。大きくなったわね」
「おはようございます」
“大きくなったわね”
会うたびに言われるセリフ。
「薬剤師さんなのよね。ご実家の薬局を継ぐの?そうだ、ちょっと相談してもいい?」
仕事柄、高齢な方たちがいると始まってしまう薬相談。
「今飲んでる薬がね。私には合わないみたいで」
「青木さん。処方箋に記載されている用法用量はきちんと守っていますか」
「ああ、それね。いつも適当に飲んじゃうのよね。毎日飲んでればいいかと思って」
「そうだったの、知らなかったわ。サプリメントや漢方薬でも飲み合わせに注意した方がいいのね」
「はい。場合によっては普段の食事も気を付けた方がいいこともあるんですよ」
「そうなのね。いつも教えてくれてもありがとう。じゃあ、お会計ね」
患者さんの対応をしている声が小さめの薬剤師、ロクジョウさん。
「あら?お財布どこかしら。ないわねぇ」
「あ、あ。ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ごめんなさいね。これかしら?」
患者さんはティッシュを取り出します。
「いやだ。お菓子が出てきたわ」
「アワ。お金じゃありませんでしたね」
「こっちかしら」
患者さんは、再びティッシュを取り出す。
「もう、いやだわ。あたしったら。お菓子ばっかり」
「おやつの時間が楽しみですね」
「さっきの山田ばあちゃん、可愛かったね」
「フフ。はい。いつまでも可愛くお元気でいて欲しいです」
「なんで、ティッシュにお菓子包んでんだろうな。貰いもんかな」
「オウギさん、ロクジョウサン。みなさん、薬剤師ですよね」
「なんだよ、急に」
「親族とかの集まりで薬の相談会とか始まったりしません?」
薬剤師あるある。
高齢の親族や知人がいると、たいてい薬の相談会が始まる。
「あるある。相談される」
「ですよね。なんですけど…」
「なんかあった?」
「聞きたがるのにも関わらず、こっちの言うことを守ってくれないんですよ。と言うか、用法用量はよく読んで守って下さいと言ったんですが、適当に聞き流されちゃって」
「え?」
薬のことを気にするタイプなのに、アドバイスしても聞いてくれない。なぜなのでしょう。
続きます