マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

患者さんとの関係 その3

www.mamechu.com前回のお話

犬からも患者さんからも信頼されていないのではと、不安を感じているオウギさん。



どうすれば信頼してもらえる薬剤師になれるのでしょう。



「そもそもお前さ“どうせ患者は正しく服薬指導をしても聞いてくれない。信用してくれてない“って思ってるところあんだろ。

患者に対してさえも信頼出来ずに、疑ってるよな」



「…」


イチイさんからの厳しいお言葉。



客観的に聞いていてもダメな薬剤師。




(なんで俺は、薬剤師になりたいと思ったんだっけ?)



ああ、そうだ。

なりたいと思ったきっかけは、子どもの頃に読んだ本。

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闘病中の患者さんを薬で支えていた、あの本の中のお医者さんと薬剤師が俺にとっての信頼できる人たちだ。



そう、本を読んだ後に思ったんだ。

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患者さんをしっかりとサポートし、信頼してもらえるような薬剤師になりたいと…



本当にそう思った。



この間、ロクジョウさんやチョウジと話して思い出したばかりなのに…




なんで忘れてんだよ。ダメ人間かよ。



「薬剤師さん」


「…」



「薬剤師さん」


「はいっ」




「今日はあなたが私の担当ね」


「小林さん、こんにちは」



「あなたの説明って、いつもわかりやすいわよね」


「えっ」



「優しい声のトーンだし…
私ね、あなたがいるからここにくるのよ」




“えっ……“

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「小林さん、ありがとうございます」



(優しい声のトーン。それは薬剤師として一応心がけていることだ)



そう、俺だって普段、心がけていることがある。



威圧しない話し方、言葉遣い、そして相手のペースに合わせて話す。



でも…



話を理解しようとしてくれない患者さんに対しては、つい語彙を強めてしまっていたのかもしれない。




「では小林さん、お大事になさってくださいね」



「ええ、ありがとう」



「こちらこそ」


「はい?」



(ちゃんと見てくれていて、ありがとうございます)



大切なのは誰にでも同じような対応。



(ふっ、あなたがいるからここにくるのよだって)



は、もういいとして…

ひょっとしたら、あの犬にいつの間にか見られていたのかもしれないな。

俺が小さい犬に対しては、平気で抱っこしていたのを…


それなのに自分に対してはびびっている、そんなのを悟られていたのかもしれない。



(くく…あなたがいるからここにくるのよ…か)



小林さんの言葉が嬉しすぎて、思わず何度も反芻しているオウギさん。



(“あなたがいるから”は今はもういいから。

次に反芻するのは寝る直前、それまで我慢)




そういえば、あのイチイさんが認めているマメチュー先生。

彼に至っては、もっとたくさん患者から感謝の言葉を、言われているんだろうな。
いいな、どんな人なんだろうな。



オウギさんは、マメチュー先生を想像してみる。


(大人の男…)

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対医療従事者ではなくたって、目線・声色・仕草・喋り方などを見て人を判断している。



犬だってそうやって判断している。




だから薬剤師として仕事が流れ作業にならないよう、対応中の短い間に出来るだけ一人一人の患者さんと、しっかり向き合って仕事をしないと…



権威なんて関係ないんだ。

俺になんの肩書きもないから、信頼してもらえてないわけじゃない。




どれだけ素晴らしい経歴の持ち主でも口先だけで“信用しろ“と言ってきたら、俺なら“はい信用します“とはならないだろう。




そんな信用できないやつに“風邪はウイルスだから抗生物質は効かない“なんて頭ごなしに理屈で説明してもおそらく上手くはいかない。



信頼関係ができていない場合は、信じてもらえないだろう。




しっかり関係築けよ俺、ってことだよな。




小林さんの次に対応したのは、母娘の患者だった。


「聞いてください。
かかりつけの先生がね、ちゃんと話を聞いてくれなかったせいで、うちの子の病気の発見が遅れちゃったんですよ」


「そうなんですか?それは大変でしたね」


ふと、幼い頃を思い出す。




一生懸命話しかけているのに、生返事をし自分をあしらう母。

俺にバレないように聞いているふりをする母。


“ねぇ聞いてる?“


“うんうん、聞いてる“



物心ついて、初めて傷ついたことかもしれない。


初めての愛情を与えてくれる母親はまた、初めての傷を与えてくる存在でもある。


いま思えばたわいもないこと。


この先もっと傷つくことはたくさんある。



でもこの人はどれだけ信用できるのかどうか、判断しなければならないと思ったきっかけでもある。



人は色々な理由で傷ついてきている。

嘘つかれた。約束破られた。無視された。



だから次は傷つかないように、相手がどんな人間なのか判断しようとしてくる。




そんな経験をしてきた人たちに、口先だけの説明を見破られないわけがない。


自分が気づくんだから、患者さんだって気づく。



ちゃんと薬剤師としての仕事をしないと。



母娘の患者さんは、かかりつけの医者を変えたと話している。


「今度のお医者さまは、とってもいい人なんですよ。
会えてほんとよかったです」



俺もほんとによかったと心から思う。

そして俺もそんな風に言われたいと、おこがましくも思ってしまう。




母娘の次は、いつも薬局に顔を見せる安川さんだった。



「やんなっちゃうわ、こんな時期に風邪ひいちゃうなんて。

でも新型コロナじゃなくてよかったけど。

そういえば抗生物質なんだけどね」



「抗生物質…」



「抗生物質って、やたらと服用しちゃいけないんでしょ?」



「え?」


安川さんがいうには、最近テレビで、抗生物質のことについての解説を聞いたのだという。



「つい風邪をひいたら抗生物質って思っちゃってたけど、もうなるべく使わないことにしたわ」


「…」


今までどんなに説明しても聞いてくれなかったのに、テレビの影響力はやっぱりすごい。




テレビやネットのおかげで、薬のことを正しく理解しようとする患者さんが増えてきているようです。


(ありがたい)


けど…


要するにまだまだテレビやネットに、対面で指導する僕は惨敗している…

というわけなのです。



(良いけどさ…

正しい情報ならば、別にテレビもネットも敵じゃないんだから)



でも。。。
もうちょっと自分で頑張るとするかな。