ポ村の中心部には、まるで村を守るように大きな御神木があります。
いよいよ年の瀬が迫って来た頃。
子どもたちが御神木のまわりに、集まっていました。
それは何故かというと、御神木に向かってお願い事をするためです。
これはポ村の冬の風物詩。
クリスマスが近付いて来た頃、サンタさんへのプレゼントのリクエストを、子どもたちはここでするのです。
「今年のプレゼントは何をお願いしたの?」
「…そっちは?」
もじもじする子どもたち。
お願い事って人に言うのは、何となく恥ずかしいですよね。
なので子どもたちはみな、小さな声でこっそりお願いします。
こうやってポ村では、子どもたちにサンタさんがいる風を演出しています。
ポ村のサンタさんの正体は村長です。
子どもたちのお願いは、村長がこっそり聞いています。
地獄耳です。
そしてクリスマスイブになると村長がサンタさんに扮して、子どもたちの家にプレゼントを配っていくのです。
実は子どもたちもそれは暗黙の了解で、サンタさんの正体が村長であることは気付いています。
演出までしてプレゼントをくれる両親・村長へのお礼をこめて、サンタさんを純粋に信じる子どもを演じるのです。
“やった~、サンタさんが来てくれたぁ”
子どもたちだって、大人に気を使って色々大変なのです。
だけど大人たちの喜ばせようとする努力は、子どもたちにとっても嬉しいものです。
本物のサンタさんじゃなくたって、嬉しいのです。
だからイブの夜は村長の為、両親の為、子どもたちは早くベッドに入り静かに眠ります。
そしてサンタさんが家の中に入りやすいよう、窓の鍵を開けておくのです。
ただ全ての子供が、サンタさんの存在を信じていない訳ではないようです。
「ポ村には本物のサンタさんは、来てくれないのかなぁ?
毎年バッサバサと村長が、プレゼントを届けに来てくれた音は聞こえてるけど…」
「やっぱりさ…
サンタさんはいないのかもしれないよ」
「そんなことないよ。
ポ村って分かりにくい場所にあるから、いつも迷って来れないだけだよ」
「そうなのかなぁ」
クリスマスイブにだけトナカイのソリに乗って、空を飛んでくるという白ヒゲのサンタさん。
ホントはその姿を見てみたい。
赤いお鼻のトナカイも一目見てみたい。
ひょっとしたらプレゼントを届けてくれた人が、村長ではなくサンタさんだった事が一回位はあったかもしれない。
寝ていて気付かなかっただけかもしれない。
「今年は見てみたいなぁ」
「どうやって見るの?」
「起きてる子の所には、来てくれないんじゃない?」
「サンタさんと会う方法を、教えてくれる大人なんていないよね」
サンタクロースがいようがいまいが、大人たちは幼い子どもには、本当のことをあまり言わないものです。
「靴下の中に入って、眠っている振りをして待つのは?
靴下の中で眠っちゃってても、絶対起きるよ!」
「でも靴下の中に入るなんて無理だよ」
「だけどどうしてサンタさんは、小さな靴下にプレゼントを無理やりねじ込むんだろう…」
「てんまちゃんが言ってたよ。
元々は貧しい人に金貨をあげるため、煙突から投げ入れてたのが始まりなんだって」
その投げ入れた金貨が、暖炉の上に干してあった靴下の中に、偶然入ってしまったのだそうです。
「ふうん、だから靴下なんだ」
「それが本当なら子どもの元にはサンタさん、来てくれないかもしれない」
「え?」
「だって貧しい人を助けるために、サンタさんはいるんでしょ?」
「……」
クリスマスイブ当日。
やっぱり子どもたちは、靴下の中に入ってサンタさんを待っていました。
続きます