マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

昆虫たちの季節

前回、虫の事でまゆさんにちょびっとだけ、怒られたてんまさん。

今回は、そのちょっと前のお話です。



ナメ江さんは小料理屋“三すくみ”を営んでいます。


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本日は久しぶりのお出掛け。

都会まで買い出しに行きます。


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“三すくみ”で扱う食材のほとんどは、ポ村産のものですが、調味料は都会で売られている珍しいものを使用しています。


ポ村には売られていない様々な調味料は、見ているだけでも楽しい。

 

その為、お買い物の日にはいつも、ウキウキしてしまうナメ江さんなのですが…


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とっても怯えているようです。

どうしたのでしょう…


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ナメ江さんの近くでくつろいでいた、コガネムシさん。

 

(怖イデス…………)

 

ナメ江さんは、昆虫が苦手のようです。

楽しいはずのお出掛けが、すっかり恐怖の時間に。

 

(ドウシマショウ…
早ク帰リタイデス)

そんなナメ江さんに、声をかける人物が…


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「テンマサン…
ム…ム…」

 

「ム?」

 

恐怖で言葉にならないナメ江さん。

てんまさんは、彼女の視線の先にあるものを見つめる。

 

「あれっ?どしたの?
コガネムシさんだ!
どこ行くの?お出掛け?」

 

「ハアァァア…………」

 

てんまさんはコガネムシさんに対して、ナメ江さんが怯えているのだと気付きました。

 

「ナメ江さん、この子が怖い?」

 

「テンマサンハ、虫ガ、オ好キナノ?」

 

「お友だちです。
でもちょっと怖いなって思う子もいますよ。

皆さんと同じ家ゴキさん。
夜中にどこかから聞こえてくる“ガサッ”って音、怖いです。

 

そこで何してるの?って…
何でだろう?
外で会うのは平気なのに…

 

前にエレベーターの前で扉が開くのを待っている子がいて。
あの子…
乗ろうとしていたのかなぁ」


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ナメ江さんはその話しを聞いて、前に実家で飼っていた猫さんのご飯に、大きなゴキが夜中、張り付いていたのを思い出す。

 

ブルルルッ

ナメ江さん、思い出し震え。

 

ナメ江さんからすると、コガネムシさんとゴキさんは、外見がよく似て見えて怖いのです。


プシュー

電車が駅に停車しました。

てんまさんは、コガネムシさんを指に乗せて、扉の方へ連れて行く。


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ナメ江さんがあまりに怯えるので、降車して貰う事にしました。

 

しかしコガネムシさんは、指をキュッと掴んで離さず、全然飛んで行こうとはしません。

 

「いや?せっかく空を飛べるのに…

やっぱし危険もあるから、飛べても楽しいだけじゃ無いのかな?」


その時、指にしがみついていたコガネムシさんが、モゾモゾ動き出す。


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ちょうどこの駅で待ち合わせだったみたいです。

 

「お友だちが来るの待ってたんだ。
じゃあね、いってらっしゃい。怪我しないようにね」

 

てんまさんはコガネムシさんたちが、去って行くのを見守ります。

 

怪我…………

昆虫たちは、怪我をしたらどうするんだろう。

虫さん用のお薬ってあるのかな?

虫さんの薬剤…


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ようやく座席に座るてんまさん。

 

「召シ上アガリマス?」

 

隣に座るてんまさんに、ナメ江さんは、お漬物を差し出してくれました。

 

「ありがとうございます。頂きます。」

 

二人でお漬物シャクシャク、穏やかな時間が流れます。

ナメ江さんは車内が心地良いのか、スヤスヤと居眠り。

てんまさんは一人、車窓を眺めながらボンヤリ…


エレベーター前にいた、ゴキさんの事を思いだす。

そういえばビルの6階でハサミムシにも会ったっけ?
トイレの中で何回も。

暗くジメジメした所が好きらしいけど。


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何でわざわざ?
おトイレが好きなら1階でも良いのに…

 

ハサミムシもエレベーターに乗ったのかな?

そう思っていたけど…

 

階段で踏み潰されているハサミムシを何匹も見たから、自力で6階まで行ったんだよね。

 

どうしてそんな危険を冒してまで6階を目指したの?

何があったの?

 

昆虫たちの不思議な行動は、なんか気になる。

 

子供の頃-

妹のしょうまに言われた一言。


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姉妹だけど母が違う妹。

私を“虫の子”みたいな扱いをするのは私の親。


昆虫の親は自らも弱い存在なので、子どもを守ってあげることが出来ない。

 

その為、子どもは親に育てて貰うことは無い。

自力で成長する。

 

“子どもに興味が無い親”

弱いからではなく、興味が無いから育てない。

ほったらかし。

私の親はそういう親だった。

 

“子ども”というか自分の親兄弟全てに興味が無い人。

 

両親同士も互いに互いの存在を、忘れているようにすら見えた。

 

父は製薬会社の研究者。

母は音楽家だった。

 


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よく言えば自由な人達で、単純に自分が興味のあるもの以外は、目にうつらない。

 

そんな人たち…

その分、周囲の人間は、そんな彼らに魅力を感じているようだった。

 

一生懸命追いかけようとしたり、自分の方に振り向かせようとしたり…

自分も例にもれず、そんな二人に憧れた。


そもそも親としては、見ていなかったのかもしれない。

 

娘である自分の事を見て欲しいとは思うけれど、それ以上に両親には自分らしく自由でいて欲しかった。

 

なぜなら、そうしていてくれることがやはり、彼らが一番魅力的にうつったから。

 

ハサミムシの母は昆虫としては珍しく、子育てをするのだという。

 

敵が来たら、ハサミをふりかざして卵を守る。

大事な卵にカビが生えないよう、常にキレイにし、自らはご飯も食べず、大切に大切に卵を守り抜く続ける。

 

40日以上もずっと…………

そして命がけで守り育てた愛しい子どもたちが、遂に誕生の時をむかえる。

ようやく生まれた子どもたちとの対面の時…


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「ソウヨ。ママヨ。」

 

ハサミムシの母は子どもたちに、お乳をあげるのでは無い。

自分の柔らかいお腹の部分を子どもたちに差し出し、我が子に食べさせる。


その様子は何だか、山中で弱った老人に、自分の身体を食べさせてあげるために火の中に飛び込んだウサギみたい。

 

ただ、うちの親がハサミムシの母みたいな親じゃ無くて良かったと思う。

 

私は私で、自力で生きて行くから。

シャクシャクシャク

「お漬物おいしい」