グツグツグツ…
小料理屋三すくみの開店前。
ナメ江さんが好きなイカと里芋の煮っころがしを、お夕食用に作っていました。
「オ芋ガ、ホクホクデ、味ガ染ミテテ、美味シイワヨネ」
「ソウダネ」
ナメ江さん、フロ次さん、スネ文さんがお料理を作りながら、おしゃべりをしています。
「アタシ、オ芋ノ中デ、里芋ガ一番好キカモ、シレナイワ。
後ハおかずニ、なめこノ大根おろし和え。ホカホカご飯二、ピッタリヨネ」
「イイネェ」
「ぽのこ(ポ村のきのこ)ノ、おろしポン酢和えモ、イイワヨネ」
「残念。
今日、なめこモ、ぽのこモ、切ラシテルンダ」
「アラア」
「釜茹でしらすナラ、アルヨ」
「良イネ。しらすノおろし和えモ、お酒ノつまみ二、ピッタリ」
「…」
「オヤ?ナメ江サン?」
釜茹でしらすと聞いた瞬間、ナメ江さんは固まってしまいました。
その時のナメ江さんの、頭の中…
“絶賛ナメナメ会議実施中“
固まりながらも、何やら頭の中では、ぐるぐる考え事をしているようです。
“しらす、食ベラレルカシラ?味ハ、美味シイノヨネ。デモ最近、気ニナッチャッテ“
つぶつぶが怖いという“集合体恐怖症“の人の話を聞いたナメ江さん。
その人は数の子が苦手だと、言っていたそうです。
“卵の一つ一つが意識を持って、こちらを見ている気がする“
そんな話を聞いて“確かにそうかも“と、ナメ江さんも思ったようです。
それでその日以来、しらすを薄気味悪く感じるようになってしまいました。
一方フロ次さんとスネ文さんは、無表情で固まっているナメ江さんを見て、顔を見合わせています。
ナメ江さんは心配性で不安症。
何か一つ気にかかることがあると、昔からこうして固まってしまうのです。
無表情ではあるけれど、おそらく頭の中では一人会議が行われているのでしょう。
“苺・蓮の実・蛙の卵・蜂の巣…集合体恐怖症ノ人ハ、コウイウノガ、怖イッテ話ヨネ。
数の子ノ卵、一粒一粒ガ、全テ生命体。本当ヨネ。イズレ魚二、ナルノヨ。しらすミタイニ“
沢山のしらすが、こちらを見ている。
“数の子ヲ食ベルノハ、怖クハナッテ、イナイノダケレド…
しらすハ…ダッテ…本当二、コチラヲ見テイルノダモノ。
アア、ドウシマショウ。
私、しらす無理カモ。ダケド今更、しらすヲ食ベラレナイナンテ、言イヅライワ“
お互いを見るため三すくみの人々は、チラチラと目だけを動かしていました。
続きます。