まゆさんお目覚め。
起き抜けのためボンヤリしてます。
西洋の薬草“フェンネル”をマメチュー先生に届けるんだっけ?
何に使うのかな?
魚料理するんかな?
それともスープ?サラダ?
そういえばマメチュー先生に電話したら、なんか変なのが電話口に出てたっけ…
あれが前にマメチュー先生が言ってた“新人薬剤師”……
“控え目で真面目な方です。
そしてとても繊細でいらっしゃいます。
冗談でも、からかったりするのは控えてあげて下さいね”
まゆさんはそんな風に、マメチュー先生から念押しされていました。
自信ねぇなぁ…………
初めてお会いする方にはやはり、緊張しちゃいます。
今日は村に“カゲ”も出てきている。
イヤな事が起こるかもしれません…
しかしパゴロウさんはあまり“カゲ”に影響は受けません。
主にパゴロウさんは、自分が迷惑をかけてしまう可能性がある相手に、緊張してしまうのです。
カゲの存在なんて、どうでもいい。
気にしません。
研修中に出会った“ベテラン女薬剤師”みたいな人だったらどうしよう…
(何も仕事をせず、部屋の奥に閉じこもっていただけの人)
一方その頃、昨晩夜更かしした為、まだベッドの上でボンヤリ中のまゆさん。
まゆさんは、うつらうつらしながら
“なぜ人は1時間寝ただけでは睡眠が充分にならないのか”
を考えていました。
いつまでも頭がスッキリしないのは、もしかしたら“カゲ”の影響を受けているからかもしれません。
“新人のボクが遅れちゃダメだ”
現在その事で、頭がいっぱいのパゴロウさんとは、違う事で頭がいっぱいみたいです。
緊張が原因で、パゴロウさんは本日朝ご飯抜き。
職場に向かう為、必死で歩いていたら顔が赤くなり、足元がフラついてきているのを感じるパゴロウさん。
体調が少しずつ悪くなってきてしまったようです。
はぁ…ふぅ…ひぃ…
ぼ~っとしながら空を見上げると、何かが舞っているのが見えました。
(何だろうあれ…
なにか声も聞こえるような…)
歌声…
天使の歌だ。
「ばいばい、ポポさん
ありがと、ちょっと元気出た」
鳩にお別れの言葉を告げた、てんまさん。
てんまさんは“カゲ”に心を支配されないように、元気を出すため歌を歌っていたみたいです。
パゴロウさんは歌声の主であるてんまさんに、見つめられていることに気付かず、飛び去った鳩を見つめていた。
鳩の羽根が舞い落ちる中、パゴロウさんは目を閉じる。
そしてそのまま、倒れ込みそうになってしまう。
(ああ、困ったな。
倒れている訳にはいかないのにな)
その時、首筋がヒンヤリする。
「?」
「大丈夫ですか?」
パゴロウさんが目を開けると、見知らぬ女性が心配そうにこちらを見ていた。
(どなた?
…っていうかくまじろ?
叔父さん!怒られるっ!)
「だ、大丈夫です。
いつもの事なんです」
「…お水」
「え?」
「どうぞ。あそこの木の下。
少し休みましょう」
お水を飲んで少し休むと、徐々に体調が戻ってきました。
その間もずっと側にいてくれた見知らぬ女性。
「パゴロウさん?」
「?!」
パゴロウさんはその女性に突然名前を呼ばれ、驚いてしまいました。
「は、はいっ」
「やっぱり。
私てんまと言います。
マメクスリカフェでお仕事させて貰っています」
「あ!」
(今日出勤する非常勤の)
「パゴロウと申します。」
「同僚になりますね」
てんまさんの優しげな笑顔に安心し、パゴロウさんは熱がすーっと下がっていくのを感じる。
「ご迷惑かけることも多々あると思いますが、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
マメチュー先生はパゴロウさんとてんまさんが、一緒に出勤したことに驚きながらも、にこやかに迎えてくれました。
朝の開店前は、皆で一緒にお掃除です。
朝の穏やかな時間。
その場にいる皆の雰囲気が、より柔らかな空気を醸し出しています。
まだ開店前ですが、お店の前に何かの気配が…
(患者さん?)
まゆさんの所のにゃこさんでした。
二度寝をしてしまったまゆさんの代わりに、フェンネルを届けに来てくれたみたいです。
(!!!)
にゃこさんを見たパゴロウさんは、掃除道具を投げ出し、血相を変えてその場を離れていきました。
「ね、ねこ…」
震えるパゴロウさん。
まゆさんの伯母同様、パゴロウさんも猫さんが苦手みたいです。
(ああ…こっちを見ている。
あの目が怖い…………)
幽霊も、雷も、高所も平気なパゴロウさんですが、猫さんは怖いんだそうです。
にゃこさんは、何だか分からないまましょんぼり帰って行きました。
パゴロウさんは猫さんを見たショックと、猫さんを傷つけたショックで落ち込んでしまいました。
それでもピッキングをしたり、得意の電話を受けたりと、パゴロウさんは懸命にお仕事。
しかしカゲが出現した日は、患者さんはすこし減少します。
しかも今日は土曜日なのでお店はお昼まで。
「皆さん、今日はランチの後、音楽会をやりませんか?」
「音楽会?」
マメチュー先生が楽しそうな提案をしてくれました。
みんなでマメチュー先生お手製の、フェンネルを使った魚料理をご馳走になった後、音楽会を開催。
てんまさんの透き通った歌声。
マメチュー先生のほっこりとするピアノ演奏。
(こんなに心が落ち着く時間があるんだ)
楽しいな…
気が付くと、村の中を彷徨っていたカゲがいなくなっていました。