マメチュー先生の調剤薬局

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ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

ねこ森町へ迷い込む その2

前回のお話

ねこ好きなのに住宅事情により、ねこが飼えない青年。


彼はある日幼い頃から見守っていた町ねこが、猫又に変身した姿を目撃しました。


“これは夢なの?”  
 


思わず猫又の後をついて行くと、見知らぬ場所にたどり着いてしまう。

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とても静かな湖。


下を覗き込むと透き通った水が、広がっています。



静かすぎて、たまに魚が飛び跳ねる音しか、聞こえません。


「魚はいるんだ」


でも陸地は見えない。


どうやって元いた場所に帰るのでしょう。


「ここはどこ?

白ウサギに連れられて、アリスが辿り着いてしまった…

あんな感じの異世界?

ここで一生暮らすことになるの?

猫又はどこ?  

夢ならいつ覚めるの?」


どこかで夢だと思っているので、パニックにはなりきれませんが、不安がシミのように広がっていく感覚はあります。


「のど…渇いたなぁ」


キャットタワーを登ってきたせいか、不安を感じる一方で、のどの渇きも感じます。 


「水はたくさんあるけれど」


島から飛び降りないと、湖の水は飲めそうにありません。  


でも飛び降りてしまうと、今いる浮島のような場所には二度と戻れそうにない。


「どうしよう…」



のどを潤せないと思えば思うほど、水分を欲してしまいます。


湖を観察して見ると、あちこちに花が浮かんでいました。


「この花とってみようかな…

花にしみこんだ水分なら、飲めるかもしれない」


もちろん手を目一杯伸ばしても、花には届きません。

 
そこで靴を脱ぎ足を伸ばして、足の指で花をつかむことにしました。


「あっ、ギリ届きそう」


足がつりそうになりながらも、思い切り足を伸ばし花をつかもうとします。



「くそっ、もうちょっと…

ああ、イライラすんなあ。 

とれたっ」

 
青年は水分への執着が勝り、器用に足の指で、花をつかむことに成功しました。



さっそく花から滴る水を口に含みます。


大した水分を得ることは出来ませんでしたが、これを何度か繰り返せば、十分のどを潤す事は出来そうです。


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「…この花、食えるかな?」


青年は食べられる花があると聞いたことがありますが、実際に食べたことはありません。
 

「花びらから食ってみようかな…」


その花の花びらは薄紫色で、中心部分は大きく隆起した黄色をしています。



「…花びら、ちょっと酸っぱい…」


食べれなくはありませんがドレッシングをかけて、サラダのようにして食べるともっと美味しいと思います。


「あっ、ここは美味い」


花びらよりは、花の中心部分の方が美味しいようです。



それはたっぷり水分を含んだ、ライチのような味わいです。



その花をもっと食べたくて、足が届く範囲にあった花は、足で摘まんで拾い上げ、全部食べてしまいました。

 

「これホントうめぇ。

夢なのに味って感じるんだなぁ」


そうこうしていたら、結構時間が経過してしまったのでしょうか…



辺りが薄暗くなり始めました。


思い出したように、恐怖が青年の心を支配し始めます。



こんな何もないところで、真っ暗になったらどうしよう…


空を見上げても星も月も無さそうです。


カチカチカチッ



恐怖で泣きそうになっていたら、浮島にあった電灯が灯り、柔らかい光が辺りを照らしました。



「この電灯つくんだ…

電気が通ってるんだ」



ということは、魚以外の生物もどこか近くにいるはずです。


その時、改めて気になった少し遠くにある、ここと同じような浮島。


そしてそこには、小さな家が建っています。 


その家の窓からも灯りが漏れ出している。


「誰か住んでんのかな?」

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ひょっとして猫又の家? 


しばらく目をこらして、その家を観察して見ることにしました。


しかしいつまでたっても、窓も扉も開くことはない。



窓の中に人影もなさそう…


目を酷使していたせいでしょうか。 


夢の中で青年は、再び眠くなってしまいます。


「ああ…すげえ眠い…

目が覚めたら元の世界に戻っていたらいいのに…」


青年は再び、死んだように眠ってしまいました。


浮島の電灯は眠りこける青年だけを、暖かく見守るように照らしています。


静かな湖の夜。


魚の跳ねる音すら聞こえません。


一体どのくらい時間がたったのでしょう。



電灯の仕事は終わったのか、青年を照らすのをやめてしまいました。


その代わり辺りが徐々に、明るくなってきています。


キコキコキコ

「…?」

さっきまでの静けさを打ち破るように、どこからから謎の音が響いてきました。


キコキコキコ

なんの音でしょう。
 

「…?!」


青年は音に反応して、目を覚まします。


キコキコキコ


「なにこの音。

ってかここ、まだ夢の中?」 


青年は寝ぼけまなこで、音が聞こえる方角を目を凝らして見つめる。


小さな船がこちらに向かってきていました。


でも人影はなく船だけが、こちらに向かってきているようです。



「なんだよ…

小型の幽霊船?」


隠れたくても隠れられない。



確実に自分の方に船が向かってきています。



「あああああああ!

あっ?…ねこ…」



突然呟いた青年。



誰も乗っていないと思っていた船には、ねこが乗っかっていました。


猫又ではありません。


キコキコキコ


遂にねこの乗った船は、青年の目の前で止まります。


「こんにちは、ダイです」

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「こっこんにちは?」


青年は戸惑いながらも、目の前に現れたねこと挨拶をする。


「このお船に乗ったらいいと思うの」


「乗って、いいの?」


「うん、いいの」


とても不思議な光景なのに、青年は躊躇せずそのねこさんにこたえていました。


とりあえず船に乗らず、一人ここに残るという選択はありえません。


キコキコキコ


青年は“ダイ”と名乗るねこさんと一緒に、船に乗り込みます。


その船で昨日青年がジッと見つめていた、小さな家の前を通り過ぎる。


「あの家って誰か住んでいるんですか?」



「あれは空き家なのです」


「はぁ…」


勝手に灯りがともる空き家?



ふたりは静かな湖を、小船でキコキコ渡っていきます。



そしてダイちゃんが小船で迷子の青年を連れていった先は、もちろんねこ森町です。


この湖もねこ森町なのでしょうか?


ひょっとしてポツン湖?

でもポツン湖にいるキンピカ魚はいないみたい…



青年とダイちゃんは、ねこさんたちが沢山いるねこ森町へ到着。


「わっ、わっ♪ねこねこっねこの町!」 

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ねこが大好きで飼いたくて仕方がなかった青年は、ねこ森町のねこさんたちに夢中です。


デレデレしています。


どこかのねこさんに“O様にご挨拶するよう”促されています。


こうしてダイちゃんは、猫又に連れられて迷い込んだ人を、ねこ森町の中心部へ案内しています。


長く留守にしておうちの人に心配をかけてまで、案内してくれます。


でもダイちゃん…
人の心配ばかりしていないで、そろそろおうちに顔を出した方がいいかもだよ?


さて迷子の青年の方はねこさんたちにわちゃわちゃされて、まるで竜宮城にいるように過ごしています。


でもまだ青年は家に帰れた訳でも、何でもありません。


ダイちゃんが案内してくれるのは、あくまでねこ森町までです。


帰るのはこれからなのです。

 


ねことの暮らしに終わりを告げ、ねこの飼えない自宅へと帰るのです。



彼の夢はいずれ目覚めてしまうのです。



いや…


夢では無くねこ森町が本当どこかにあるのであれば…


無理に帰らなくても、良いかもしれませんけどね。