あるところに飼いたくても住宅事情により、ねこを飼えない青年がいました。
「ねこねこねこ!
ねこ欲しい~!」
ねこさんを切望するあまり、ついペットショップを眺めてしまう。
更には地元に住む“町ねこ”さんの居場所も、さりげなくチェック。
世の中にねこ好きというのはやはり多いらしく、どの“町ねこさん”にもファンがついていて、皆がねこさんを見守っています。
“ねこを一人占めしたい”
そんな風に思ってしまうことも多少はありますが、概ねファンたちを好意的に見ています。
見守ってくれる方々がいると安心します。
そんなある日。
だいぶ高齢になっているであろう町ねこが、いなくなっていました。
そのねこの正確な年齢は分かりません。
でも物心ついた時から見かけていたねこ。
「えっ…うそ…毎日必ずここにいるのに…
ひょっとして?」
思わず最悪の事態が、頭をよぎりました。
いやでも…
老猫が具合悪そうにしてたんなら、ファンの人たちが、病院につれていってくれてるのかもしれない…
とはいえ少し辺りを探してみる。
「おーいっ!あれ?なんだ、いるじゃん」
老いているせいで若干ヨボヨボはしていますが、元気そうです。
よかった…
まだまだいらぬ心配でした。
「あれ…?」
でも…
「しっぽが…」
いつもの老ねこのしっぽが、裂けて2本になっているように見えます。
「どうしたんだ?お前それ…
しっぽ割れてる、大丈夫か?」
青年の心配をよそに、老ねこは2つに裂けたしっぽをパタパタと動かしています。
「あれ?これってひょっとして夢なのかな?」
長生きしたねこが妖怪・猫又になったという夢?
幼い頃から見てきたねこのしっぽが、2本になっているのは不思議ですが、今のところ恐怖はありません。
だって夢だし…
「それよりそのしっぽ、触ってみたい」
むしろ好奇心が勝っているようです。
その猫又がこちらをチラチラ見ながら、細い路地の中を入っていきます。
青年が路地を覗き込むと、猫又が奥の方へ進んで行くのが見える。
そして猫又はチラッとこちらを振り返り、再び進んでいく。
「おれ…どうしよう…」
戸惑いつつ再び好奇心の方が勝っている事に気付いた青年は、猫又のあとをついて行くことにしました。
アリスに出て来る白ウサギのような猫又。
どんな世界に連れて行かれるのだろう…
しかし行けども行けども、狭い道が続く。
ねこって奴らはホントに、こんな道ばかり歩いてんだなぁ。
そんなことを思っていたら猫又は“ヒョイ”と年寄りの割には、身軽に塀の上に飛び乗っていく。
「えっ、ちょっちょっと待って」
猫又に置いて行かれないように青年は、塀をなんとかよじ登って行きます。
「待ってって!」
ようやく塀をよじ登ったと思ったら、その塀より更に高い塀が目の前に立ちはだかってきました。
「何これ?」
何だかいつの間にか塀というより、キャットタワーのようなものに登っていた青年。
そのキャットタワーを、ヒョイヒョイと猫又は登って行きます。
「どこ行くんだろう。
このままついて行っても大丈夫かな?」
アリスとは違い、上へ上へとどこまでも登って行く。
風が強めに吹いてきます。
少しずつ不安になり猫又がいるであろう方向を見上げても、光が眩しくて何も見えません。
「変な夢…」
夢でもさすがに、怖くなってきました。
青年は来た道を引き返したいと思う一方、ここまで来て今更…
という感情も湧いてきている。
仕方なく光の中を上へ上へと登って行く青年は、なぜだか強烈な眠気を感じていました。
「夢の中なのに…」
睡魔に勝てなかった青年はキャットタワーの途中で、座り込みウトウトと眠り込んでしまいました。
どのくらい時間が過ぎたのでしょう。
青年が目を覚ますと、先ほどのキャットタワーとは違う場所に来ていました。
「え?何ここ?」
辺りを見回しても猫又はいません。
遠くの方に水平線が見えます。
「ここ…湖?」
波のない静かな湖のようです。
青年はその湖に浮かぶ浮島?とはちょっと違うようですが、そんなような場所に来ていました。
次回へ続く