まだまだ残暑厳しいポ村の夏。
薬局内はクーラーが効いていますが、それでも連日暑さが続くとボーッとしてきて、食欲も落ちてきてしまいます。
今日も一日、穏やかに過ぎて行ったのが幸いです。
夏の夕暮れ…
お夕飯の匂いが、そろそろ何処からともなくしてきそう。
USAさんが伸びをしながら声をかけます。
「ようやくお店落ち着いたね。
気い抜いたらお腹減っちゃったぁ。
パゴちゃんは?」
「いえ、まだ余り…」
二人の話を聞いていたてんまさんは心配そうに
「夏バテかな?」
「パゴちゃんさぁ、しっかり食べてるの?
あたし倦怠感とかはあっても、食欲は落ちないのよね。
夏バテして自然にダイエット出来れば楽なんだけど…
カロリーのあるアイスばっかり食べちゃう。
マメチュー先生~、なんか良い漢方とかないですかぁ?
だるさだけがあるのって、一番サイアク!
せっかくの休日もさぁ、何もする気が起きなくなっちゃう…」
「そうですねぇ」
“夏バテしたい”
なんておっしゃっていたUSAさんですが、夏バテすると抵抗力が低下し病気になりやすくなってしまいます。
他に夏によく見られる症状としては、
喉の渇き・多汗・発熱
更には熱中症のリスクもあります。
そんな症状が出ている時に適している漢方。
“清暑益気湯(セイショエッキトウ)”
“清暑”熱を冷ます
“益気”気を回復する
と言う意味があります
主に暑気あたりに使用されている漢方薬です。
熱を冷ましたり、汗を引かせる生薬が含まれている他、弱った胃腸や体力を回復させてくれる生薬等も含まれています。
この漢方は夏の暑さによる倦怠感、食欲不振時等に服用すると効果的ですよ!
「それ良いっ!まさに夏バテ用の漢方薬じゃないですかぁ」
そこへフラフラと、薬局にやって来たまゆさん。
まゆさんの声が聞こえたにゃこさんは、パッと目覚め出て行こうとしました。
「まゆちゃんにゃ?」
それに気付いたマメチュー先生は、パゴロウさんを気にしながら、にゃこさんをさりげなく隠しました。
そしてまゆさんから注意をそらすため、自分のしっぽで遊ばせます。
「にゃふっ!」
一方パゴロウさんは
“どなただろう?”
と言う顔でまゆさんを見ていました。
「何、まゆちゃん。何しにきたの?」
「おめぇに用はねえよ。
てんま、ほら、借りていた皿」
「あ、ごめんね、わざわざ。
取りに行こうと思ってたんだけど」
「何?何でお皿?
そんで、でかくない?お皿…」
「何でも聞きたがるな、おめぇは」
そのお皿は養蜂業もしているてんまさんが作って持ってきてくれた、はちみつに合うスイーツが入っていたものでした。
はちみつも夏バテや、疲労回復に効果があるそうです。
「やだ、何~!あたしも食べたかったぁ!
はちみつに合うスイーツって何?
パンケーキ?フレンチトースト?」
「ヨーグルト」
「ヨーグルト!?そのお皿に?」
「うん。まゆちゃん、便秘…酷い子だから」
「ったく苦手だっつーのにさ。ヨーグルト」
「でも食べてくれたんだよね」
「そんなだから便秘になっちゃうのよ。
あたしは、ヨーグルト大好きー!
今度はあたしにも届けて。快便だけど」
まゆさんは、ジッと自分を見つめるパゴロウさんと目が合いました。
そしてマメチュー先生の後ろにいるにゃこさんとも。
「ん?にゃこ?」
にゃこさんは久し振りの再開かのごとく、まゆさんに嬉しそうに飛びつきました。
パゴロウさんのみが、そんなにゃこさんの存在に驚愕。
「どっどこから?いつから?」
「パゴちゃん、猫さんが苦手なのね」
「ねえ。紹介してよ。新人さんでしょ?」
「あっ、そだそだ。初対面だよね~?
パゴちゃん、この人まゆちゃん。
にゃこちゃんの飼い主で、薬剤師さん。
この時期はポ村の貴重な生薬を採取して、薬局に運んでくれるの」
まゆさんはマメチュー先生の視線を感じました。
マメチュー先生からされていた忠告。
“繊細で真面目な方なので、接し方には気を付けてあげて下さいね。まゆさんは先輩なんですから”
(全く人に甘いんだからさぁ)
まゆさんはしがみついているにゃこさんを、てんまさんに預け、ニコリとパゴロウさんに微笑みかける。
「パゴロウさん、ご挨拶が遅れました。
わたくしまゆと申します。
先日お電話では、お話をさせて頂いたんですけど」
「あっ!」
たまに生薬のことでマメチュー先生に電話してくる人?そう言えば“まゆさん”っておっしゃっていたっけ。
「よろしくお願いします!パゴロウです」
マメチュー先生はとても満足そうに、その様子を見守っていました。
USAさんは不審そうに、まゆさんとマメチュー先生を見つめています。
「お二人の挨拶も終わったところで、みなさん!
お夕飯を召し上がっていきませんか?
そろそろお仕事も終了なので」
「やったぁ!マメチュー先生メニューは?」
「農家の方が送って下さった夏野菜が沢山あるので、それを使ったおそうめんにしようかと…」
キュウリ・トマト、長芋・スイカ・村の名物の梅など夏野菜には、火照った身体を冷やしてくれる効果があります。
「良いですね、おそうめん!
するすると食べやすいですし」
「でも鶏肉入りの、山椒と唐辛子をきかせた辛めのおつゆです。
夏冷えしないよう、しっかり汗もかきましょう!
体温調節が出来なくなりますからね」
「辛いの好き!最近丁度ハマってたんです」
「ネギやシソ、ミョウガなどの薬味もたくさんありますよ!
三すくみの皆さんに頂いたんです。
もちろん、キュウリやトマトも!たくさんのっけて頂きましょう」
「“小料理屋三すくみ”メニュー!長芋つかってとろろそうめんも良いですよね~」
お腹が減っていなかったパゴロウさんも、話を聞いていたら少し空腹を感じ始めました。
(でも…)
チラリと薄目でにゃこさんを見るパゴロウさん。
そんなパゴロウさんの様子に、すぐ気付いたてんまさん。
「パゴロウさん、大丈夫?」
「えっ、あっ、えっと…」
「おいで、にゃこ」
「にゃ!」
まゆさんはてんまさんから、にゃこさんを回収。
にゃこさんは嬉しそうにまゆさんに抱っこされる。
「にゃこ、帰る?お腹へってるでしょ?」
「にゃ!まゆちゃんとご飯食べるにゃ」
「まゆちゃん…帰るの?」
「うん。にゃこの奴。
今日一日遊び歩いてて、ご飯食べて無いからさ」
「まゆさん、何かお持ち帰りしますか?」
「ん~、じゃあ、キュウリ。
食べないけどにゃこがキュウリを見て、驚くかどうかの実験をしたい」
猫さんにとってキュウリは、天敵のヘビに見えるそうです。
「ダメです」
「けちんぼ。ねー、にゃこ起きて!
マメチュー先生ったらケチだよ」
「マメ…ケチにゃぁ」
にゃこさんは、色々よく分かっていません。
パゴロウさんの苦手な猫さんに、優しく微笑みかけるまゆさん。
まゆさんが帰宅したあと、パゴロウさんはマメチュー先生に声をかけました。
「まゆさんってお優しい方なんですね」
「ええ。とても優しい方です」
「ええ!!??」
2人目やりとりを怪訝な顔をして聞くUSAさん。
「マメチュー先生、その方向性で大丈夫?
知らないよ?」
世の中には色んな人がいます。
薬剤師も医師も患者さんも…
(確かにパゴちゃんはすぐお熱を出したりして、繊細だけど)
社会に出て、そういう人たちにいちいちひるんで熱出してたら、仕事にならない…そう思うんだけどなぁ。
まゆさんとパゴロウさんのことで、色々気を回してしまうUSAさんでした。