コソコソと薬局内を覗き込む者がいます。
一体何者でしょう。
「にゃこちゃん、何しとる?
お水まだあるよ」
「飲むにゃ、飲むにゃ。
おばあにゃん、ちょっとだけ待っててにゃ」
「なんだい、そんなに一生懸命見つめちゃって。
パゴロウちゃんが好きなのかえ?」
患者さんに、キャットセラピーを行うはずのにゃこさん。
それにも関わらず患者さんを放置し、薬局を覗き込んでパゴロウさんを観察しています。
それはまるで患者さんの本心を読み取るため、さりげなく観察する薬剤師のようです。
にゃこさんは最近パゴロウさんが、穏やかにお仕事をしているように見えていました。
おそらくパゴロウさんが一緒に暮らすようになった、シフォンさんの存在が大きく影響をしているのでしょう。
でもにゃこさんは、その事を知りません。
(いままではとってもお疲れのようにゃった。
にゃこはなにもしてあげられにゃかったけど。
でも今は元気そうにゃ。
そんな今にゃら、にゃこのことを見ても怖くないかもしれないにゃ…)
ねこさんはたまに、こうやってヒトのことをジッと観察していることがあります。
「なに?どしたの?」
まゆさんはにゃこさんが見つめると、にこやかに対応してくれます。
そして優しい声で話しかけてくれます。
(にゃふふっまゆちゃんっ)
にゃこさんは患者さんをほったらかしたまま、ひとりでクスクスと思い出し笑いをしていました。
しかしすぐに真顔に戻り、再びパゴロウさんの様子を覗き込む。
でもにゃこさん聞いてた。
にゃこさん知ってる。
USAさんとパゴロウさんが話していたこと。
二人の会話を聞いてしまったというにゃこさん。
「パゴちゃんって、ホントにねこちゃんが苦手なのね。
可愛いのに…
誰にでも苦手なものはあるけどさぁ」
「でもねこさんのことを少し分かってきたので、怖いという感情は薄れてきましたよ」
「苦手なものを理解しようとするって凄いよね。
真面目なパゴちゃんっぽい。
知り合いにもねこちゃんを嫌いな人いて…
それで嫌いな理由を聞いみたのね」
「目…とかですか?」
「あ、それ言ってた。他にも…
匂いが嫌。
物を壊す、汚すのが嫌。
毛が付くのが嫌。
ノミもダニも付くのが嫌」
「………」
「あとはね、すぐキレる。
何してくるか分からない。
何考えてるか分からない…とか」
その話を聞いてしまっていたにゃこさん。
(なんにゃか、ショボンしちゃうにゃ…)
にゃこさんはしょんぼりしながら、テンテンとその場を去って行きました。
「ボクは、匂いとか毛が付くとかは平気ですよ?
人間も動物も匂いはありますし、そばにいれば毛が付くこともあります」
「そうよね。
あたしも何にも気にならない。
限度はあるけどね。
香水キツい人とか」
「ふふ。確かに」
にゃこさんはねこさんを嫌いな理由を聞いてしまって、落ちこんでいます。
(にゃこさん、臭うにゃの?)
にゃこさんはまだ上の空で、薬局内を見つめていました。
(なんにゃかショボンすること、思い出しちゃったにゃ)
「にゃこちゃーん」
「おばあにゃん、もうちょっと待ってて」
(怖いにゃかな?
にゃこのことやっぱり怖いにゃかな?)
にゃこさんはパゴロウさんに背を向け、ついに座り込んでしまいます。
(にゃこさん、臭いにゃかな?)
座り込んでしまったねこさんというものは、自動で眠くなってしまいます。
(にゃこさん…にがて?)
「にゃこちゃん、何しとる?」
「にゃむ…?」
「こっちで寝ときなしゃれ」
「にゃ…」
「こっちでお昼寝しなしゃれ」
「あれ?」
パゴロウさんは薬局の外で、患者さんと寝ているにゃこさんに気付きました。
「のん気何だなぁ。
ねこさんって」
パゴロウさんには、改めて気付いた事がありました。
ねこさんに対し“怖い・苦手”というイメージを持っていましたが“のん気・ボンヤリ”という印象に上書きされつつある…
にゃこさんと一緒にいる患者さんも、リラックスしてるなぁ。
こうして見ているとにゃこさんは本当に、セラピーキャットになりつつあるんだ。
凄いなあ!!
パゴロウさんも薬剤師として見習いたい所です。