「あ、初めて来局する患者さんだ」
おどおどしながら入ってくる患者さんを目にして、オウギさんはそう思っていました。
全ての患者さんを初めましてで覚えられるわけではないけれど、特徴的だとさすがに気付きます。
(なんだかとても不安そうだなぁ。すごく様子も伺っているし)
気になるけれど初めて薬局に来た患者さんは、急に話しかけられると緊張し萎縮してしまう場合があります。
薬剤師が行う服薬指導は、患者さんとのコミュニケーションが必須。
心をシャットアウトされてしまうと、大事なことを話してくれなくなってしまうからです。
会話のスタートはまず環境を整えてから…
キョロキョロして、血圧計の元に向かった新規の患者さん。
何やら手間取っているようです。
「こんにちは、初めての方ですか?」
まずは挨拶から始める。
「コ、コンニチハ」
オウギさんは血圧計の前で大変そうにしている、新しい患者さんであるナメ江さんを手伝ってあげました。
「マァ、有難ウ御座イマス」
とってもホッとしたように、ナメ江さんはお礼を言っています。
かかりつけの調剤薬局でも血圧をはかっているので、新しい薬局でもつい、はかってみようとしたようです。
オウギさんが一声かけたことによって、安心してくれているようでした。
“薬剤師の仕事って何?“
人からよく聞かれる薬剤師あるある。
薬を渡す以外、何をしているんだろう?
純粋にそんな風に思われている感を、感じることがあります。
でもさすがにただ、薬を渡して終わりということはありません。
患者さんを観察し性格・症状により一人一人異なった服薬指導なども必要。
カウンセリングスキルも必要だったりします。
せっかく薬効について説明しても、患者さんのことを理解せずに説明を続けていると、こちらの話を十分に理解してもらえないこともあるからです。
患者さんから多くの情報を聞き出し、質問には的確に回答する。
専門用語も避け、わかりやすく説明しないといけない。
患者さんの現在の状態も見極める。
体調がすぐれない、急いでいる、疲れている。
患者さんによって事情は様々です。
都度対応の仕方も、変更していきます。
先ほどの患者さん、ナメ江さんの服薬指導をしているのはオウギさんの後輩薬剤師のロクジョウさんでした。
彼女は少し声が小さめです。
「ナメ江さん、こんにちは。薬剤師のロクジョウと申します」
「えっと、ではお薬手帳はお持ちですか?」
「手帳?コチラノ薬局ハ、初メテデ」
「あ、ええと…お薬手帳は医療機関ごとに使用するのではなく、一冊にまとめて使用するものなのですが」
「ソ、ソウネ。ソウダッタワネ」
ロクジョウさんがお薬手帳を確認すると、最近ナメ江さんは漢方薬を飲んでいるようでした。
以前から服用していた鼻水に効く漢方薬と、別の医療機関で処方されている喉の薬。
心疾患の持病もある女性。
「アノ、聞イテモ、ヨロシイカシラ?」
何やらナメ江さんから質問があるようです。
続きます。