前回のお話
ある冬の日。
朝から謎のダンボールの存在や、店内を漂う謎の甘い香りの正体が気になっていた薬剤師のオウギさん。
そんな中、スタッフ同士で薬の有効期限や、食品の賞味期限について話し合っています。
オウギさんの後輩、チョウジさんがちょっと前に“居酒屋で鍋に入っている白菜から、大量の虫が出た問題“のことについて話し始めました。
「ありましたよね。少し前に話題になった」
「ああ、そうだっけ」
「僕、子供の頃、良く田舎に遊びに行ってたので、向こうの食事や向こうの遊びを当たり前のように、一緒になってやってたんですね。だからか都会の人は、あの程度の虫で食べないんだって逆に驚いたんですよ」
農家さんから直接いただく、新鮮なお野菜。
「“今日は虫が多いね“なんて言いながら、気にせず食べていましたよ。別に害もないらしいですし」
「虫を気にするどころか、人によってはティッシュやトイレットペーパーの劣化を気にする人もいるらしいよ」
「え?僕そんなこと、考えたこともなかったです。なるほど、ティッシュの劣化ね」
災害に備えて買い置きをしておきたくても、劣化したら…と迷っている人もいるとのこと。
実際は、よほど保管状態が悪くない限りは、劣化はしないそうです。
その時、虫の話から逃げようとしていたロクジョウさんが、謎のダンボールに突っかかって、つまづいていました。
“大丈夫?“
と声をかけようとしていたオウギさんより前に、イチイさんからの叱責が飛ぶ。
「そこ!注意して歩け。体調の悪い患者さんが、その辺りにもし座り込んでいたとしたらどうするんだ?」
「あ、あ、すいません」
「それよりも、あんなところにダンボールを置くのもどうかと…」
店内の隅には置いてあるけれど、動線でもある場所。
隅っこを歩くのが好きなロクジョウさんは、つまづいてしまったようです。
「あの、朝から気になっていたんですけど、あのダンボールなんですか?」
ダンボールについて尋ねるタイミングがきたので、ついにオウギさんは皆に聞いてみる。
甘い香りに混ざって感じる腐った匂い。
何が入っているのだろう。
「開けてもいいやつですか?」
オウギさんの問いに、チョウジさんが周囲をキョロキョロしていますが、イチイさんは何も言いません。
“ただの薬品かもしれない。いや危険な薬品かも?“
「答えないなら開けますよ?いいですね?」
気になっていたダンボールの中身を覗き込んでみる。
「は?」
“何これ?“
中にはみかんが入っていました。
購入してから時間が経過しているのか、かなり熟していて甘い香りが漂っています。
“誰の?“
熟した果物。
“薬の有効期限は?“
“食品の賞味期限…“
ついさっき、誰かさんが言っていた言葉を思い出します。
「イチイさん、置きました?」
続きます。