前回のお話
都会の調剤薬局に立ち寄ったナメ江さん。
そこで薬剤師たちが話している謎の言葉を耳にしてしまう。
“虐待?一方か?ナンナノーーー!?“
訳が分からず、ぷくぷくと膨らみ始めたナメ江さん。

彼女に塩をかけて元に戻そうとしてくださる方たちもいらっしゃいますが、やはり他人に迷惑かけてはいけません。
早く自力で元に戻らないとです。

「そういえば川崎さん、ショウシタイするそうですよ」
「そうなんですね。良くなるといいですね」
“ショウシタイ?“
“エ??”

“サッキカラ、川崎さんッテ何?“
そして川崎さんの焼死体が、良くなるとはどういうことなのでしょう。
焼死された方の…亡くなった方の手術?
ナメ江さんは元に戻るどころか、破裂しそうな勢いで膨らんでいきます。

“私、良クナイ話、聞イテシマッテ、イルノカシラ?ドウシタラ、イイノカシラ?“
「ひゃあっ」
ロクジョウさんが、小さな声で叫び声をあげます。
「どうしました!?」
ロクジョウさんは、まんまるに膨らみきっているナメ江さんを指差していました。
「わっ!!」
風船破裂ドッキリ以上の緊張感!!

「ナ、ナ、ナメ江さん!?どうされました?」
“コワイ、コワイワ…焼死体“
パンパンに膨らんだナメ江さんは、そんな風にブツブツと呟いています。
「ショウシタイ?」
【硝子体内注射】(ショウシタイナイチュウシャ)
眼球の器官の一つ、硝子体の中に注射器で薬剤を注入する手術。
硝子体内注射のことを略して“硝子体“と普段から、同業者同士では言っているのです。
たまに患者さんからも“ショウシタイなんて言われて、最初びっくりしちゃった“などと言われることがあります。
「嫌ダワ、ソウナノネ。硝子体。私ッタラ、勘違イシチャッテ、恥ズカシイ」
先ほどの、チョウジさんとロクジョウさんが語っていた謎の言葉。
“ヤクタイ“は薬袋。
漢字で見ると説明不要ですが、音で聞くと分からないようです。
そのため分かりやすいよう患者さんには“薬を入れる袋“と説明します。
“イッポウカ“は一包化。
朝・昼・夕など服用するタイミングが同じ場合や、一回に複数の錠剤を服用する場合、一袋ずつパッケージにすること。
高齢者の方など、説明ではピンと来ない場合は実物を見せながら説明します。
このような専門用語は、分からない患者さんもいらっしゃるので本来言わないようにするのですが、つい癖で患者さんの前でも口にしてしまうことがあるのです。
「ロクジョウさんは硝子体内注射をしてきたおじさんに“ラブ注入、なんてな“とか言われてましたよね」

ロクジョウさんは数年前に流行していたギャグを、自分の父親がヨソで言っていたらと、想像してはゾッとしたものです。
「ラブ注入?ナンダカ、トッテモ平和デ、暖カクシテクレル、素敵ナ言葉ネ」
「え?」
内心引いていたロクジョウさんですが、新たな考え方を患者さんから教えてもらいました。
今後も患者さんに分かりやすい説明を心がける、それから勘違いさせないように気をつけねばと改めて思った、チョウジさんとロクジョウさんでした。