「この患者さん。
ただの風邪なのに、抗生物質が処方されているのか…」
(ホントは服用する意味のない薬は、処方したくないんだけど。抗生物質はウイルスには効かないから…)
しかし患者さん自身が安心を得るため、お医者さまに抗生物質を貰えるよう、お願いするとこうして処方されてしまうことがあります。
そんな望みを叶えてくれるお医者さまは、患者さんにとっていい医者としてうつります。
そのため、一部のお医者さまは望み通りに薬を処方してしまうそうです。
(風邪に似た症状の溶連菌とかに、感染している可能性は否定できないけどさ。
診断されてもいないのに、抗生物質を処方するのもどうかと思う)
抗生物質は細菌に対して、効果を発揮する薬です。
「あ…」
ふとオウギさんが窓の外を見ると患者さんが飼っている犬が、外でいい子で待っていました。
(頭が良さそうな犬)
その犬は飼い主のことだけ、ただその一点だけを見つめていました。
そこにこの薬局のエリアマネージャーである、イチイさんが現れました。
「よう、久しぶり」
「わふっ」
「家で待っているよりはここの方が、ご主人様の姿を見られていいなぁ。
ほらこれ、いい子のお前にご褒美だってさ」
「わふっ」
飼い主である患者さんに頼まれたのか、イチイさんは犬のご飯を手にしていました。
オウギさんは仕事をしながらつい観察。
イチイさんは犬とやりとりしながら、何やら爆笑しています。
「へぇー、あははははっ」
(なんかすげえウケてる)
オウギさんは自分が休憩に入ったタイミングで、外に様子を見に行きました。
「おお!犬でかっ」
間近で見た犬のサイズに驚き、オウギさんは近づくのを少し躊躇してしまいました。
「お前、仕事中に何してんだよ」
「そっちこそ。僕は休憩に入りました」
「ふうん」
「それより地べたに座り込んでいたら、服汚れますよ」
「細かいやつ。こいつだって座ってるじゃん。
な?一緒だよな?」
「わふっ」
イチイさんは患者さんのペットの犬と、まるで親友のように仲良くしていました。
それを見ていたオウギさんも犬の大きさにビビっているのを悟られないよう、恐る恐る犬に近づき撫でてやります。
が…
「うん?なんでそっぽむく?」
犬はオウギさんとは目も合わせず、撫でられても無反応。
そこでオウギさんはイチイさんが手にしている犬用のご飯に目をつける。
「俺にもその犬用のご飯、貸してくださいよ」
「何?腹減ったの?」
「なんでですか?犬にあげたいんです」
「ああ、そう。ほら」
「どうも」
オウギさんは、さっそく犬にご飯を差し出します。
「はい、どうぞ」
ところがなぜか、犬はそっぽを向いています。
「え?なんで?ごはんだよ?」
オウギさんの手からは、ご飯を食べようとしない犬。
「……」
なんだか全く懐いてくれないのが恥ずかしくて、オウギさんは少し強引に口元にご飯を押し付けてしまいます。
「ほら」
「ヴヴ…」
嫌なことをされてしまった犬の方は、唸り声をあげている。
「なんでだよぉ。腹いっぱいなの?
この間、ロクジョウさんとチョウジの手からも食べてたじゃん」
「あのさーしつこいんだよ、お前は。
自分の感情ばっかり押し付けようとして。
だから人間にもなつかれないんだよな」
「!!!嫌だ嫌だ、嘘だぁ」
犬はイチイさんの方に寄っていきます。
「動物に嫌われる要素を兼ね備えているんだろう」
「どんな要素っすかそれって。
イチイさんが人間より犬に近いだけですよ」
「そういえばお前の足はなんで短いの?
こいつと同じくらいじゃね?」
「わふっ」
「そんなわけないでしょ。
急に関係ない話ー!」
「っていうかさお前はさ、こいつにまだ信頼されてないんだよ」
「へ?」
「信頼できないやつの手からは、物を食べたくない。
普通そうだろ?
大事じゃない?信頼って。対患者に対してもそうだけどさ」
“信頼されていない“
犬からも患者さんからも?
続きます。