前回のお話
“自分は犬からも患者さんからも、信頼されていないのでは“
という不安を感じ始めたオウギさん。
確かに医療従事者である薬剤師にとって、信頼は大事だ。
信頼されていない場合。
服薬指導を行なっても、きちんと話を聞いてくれなかったりする。
そう、例えばさっきの抗生物質。
“風邪を引いた“
という知人から、抗生物質をもらったという話を聞いたことがあった。
そのとき“抗生物質は必要ない”とその知人に説明しても、全く信じてもらえず、苦労したことがあった。
“私はいつも、抗生物質を飲めばすぐ治るんだ“と…
抗生物質のことは頑なに信じているのに、なんで俺の話は信じてくれなかったんだろう。
人によっては肩書きだけで、簡単に信用する人がいる。
“権威ある医学賞をとった医者。テレビで活躍している有名な医者。名門大学の医学部の教授“
そんな肩書きに弱い人。
もちろん俺にはそんなご立派な肩書きはない。
薬局長なわけでもないし…
だけど、そんな肩書きで人を判断してたら、詐欺に簡単に引っかかるぞ…と思う。
「はぁ、信頼される人かぁ。どんな人のことだろう」
「それ独り言か?心の声が出ちゃってんのか?」
「あぁ、イチイさん」
「俺の存在、きれいさっぱり忘れてんじゃねえよ」
「すいませーん」
「…信頼できる人間が、どんなやつかわからないってことはさ。
お前も他人を信頼してないってことだろ。
お前が信頼している人っていんの?」
「信頼している人?」
思わずオウギさんは考え込んでしまいます。
(イチイさんにはいるんだろうか。そんな人)
そんなふうに思っていていたら、すぐに答えを聞くことができました。
「一度マメチュー先生に会いに行ってみれば?」
「マメチュー先生?」
「ポ村で薬局を経営している薬剤師。
信頼出来る立派な大人の男だ」
同業者に厳しい目を持つ、イチイさんが認めている人…
「ポ村って…どこにあるんでしたっけ?」
「駅前のバスから乗っていけるよ」
「駅前のバス?
この近くからそんな簡単に“村“って名の付く場所に着きます?」
「そのポ村にさ。
マメチュー先生を見習う、ちびっこい新人の薬剤師がいてな。
マメチュー先生みたいに信頼される薬剤師とやらになるために、ずいぶんと頑張っているようだったよ」
信頼される人になるには、まず自分が信頼できる人を見つけて、その人を見習う。
「どんな方なんですか?そのマメチューさんって」
「どんな?普段から患者とコミュニケーションをとっていて、患者から何でも話して貰える人」
「…ああ〜。
そりゃ、そういうのは理想ですけど。
うちのグループの中でも、イチニを争うほど忙しいこの薬局じゃ無理ですよ。
長々、患者さんとお話するのは」
「それは決めつけ、思い込み。
可能性を自分で閉ざしているだけ。
調剤薬局の薬剤師のドラマをやるんだったら、主人公はお前じゃなくて、ポ村の新人薬剤師の方だな」
(…それは確かにそうかもしれない)
ふと、思い出す。
面接の時の自己PR。
“どんな薬剤師を目指していますか?“
「患者さんをサポートし、信頼される薬剤師を目指しています」
あれは決して、口先だけで言ったんじゃないのに…
続きます。