「お餅と言ったらやっぱりお醤油を垂らして、お海苔を巻いて食べるのが一番好きなんですよねー」
ポ村の村長がそんなことを言っています。
小料理屋三すくみ。
鏡開きの日にポ村にある、この小さなお店に集まった村長とマメチュー先生は、お餅を楽しんでいます。
「甘いので言ったら、きなこですかね?」
「お汁粉にお餅を入れて、食べるのもいいですよね」
「お汁粉美味しいですよね。でも最近お汁粉を食べちゃうと、それだけでお腹がいっぱいになってしまうんですよ」
話を聞いていた店員のナメ江さんも、お話に参加。
「私ハ、オ餅ヲ、カリカリ二焼イテ、御煎餅ミタイニ、ナッテイル所ガ好キデス」
「通ですね。美味しいですよね」
だけど最近ナメ江さんは、お餅による糊としてのポテンシャルの高さを感じていました。
お餅を食べるとなんだか、喉に貼り付いて離れてくれません。
製造元はお餅の付着性を年々高めるために、頑張って作っている気がしてならない。
なので、もちもちなのは赤ちゃんの肌だけでいいのではないかと、思い始めています。
ナメ江さんはお餅もチーズも、伸びに伸びるのはあまり好きではありません。
びよーんとした所が顔に当たって、熱いだけです。
喉に詰まったりしないようゆっくり食べたいのですが、お餅は早く食べないと冷めて硬くなってしまいます。
「デモ、早ク食ベルト、熱々モチモチノ、オ餅ガ、喉ヲ塞イデシマウノ」
「ナメ江さんは、嚥下障害を起こしているのかもしれませんね」
「マメチュー先生、嚥下障害ッテ?」
お餅のせいだけではなく、ナメ江さんにも原因があるようです。
嚥下障害
加齢により唾液量が減少、さらに咀嚼や嚥下に必要な筋力も低下してしまいます。
筋力が衰えると、硬いものを飲み込めなくなったり、むせやすくなります。
もちもちとして粘り気があり、付着性が高いお餅は、特に喉に詰まらせやすい食品です。
「飲み込む力が低下したことにより、唾液や食べ物が気管に入ってしまうこともあるんです」
「聞いたことがあります。気管に入ってしまうことにより誤嚥性肺炎を発症してしまうんですよね」
「その通りです、村長。食べ物などに含まれる細菌が肺に送り込まれると、中で炎症を起こし高熱が出てしまう、これが誤嚥性肺炎です。肺炎は日本人の死因第5位と言われています」
「怖イワ」
マメチュー先生の話を聞いていても、臆することなくお餅を丸呑みにしているスネ文さん。
スネ文さんは体質的に息が長く続くので、お餅を喉に詰まらせて窒息することはまずないそうです。
そしてナメ江さんと違って楽観的な所があるので、スネ文さんは話を聞いても陽気にお餅を一気に口の中に放り込んでいきます。
しかしナメ江さんは、心配そうに眺めています。
「ソノ食ベ方ヤメテ。怖イワ」
「コノ食ベ方、美味シイノニ」
「あの…私の子供の頃の話なんですけど」
「マメチュー先生?」
「母が喉に食べ物を詰まらせて顔を青くし、苦しそうにしていたことがありました。
ヒューヒューと言いながらとても苦しそうに。
その様子を見た父は慌てて119番に連絡をし、救急車を呼ぼうとしていました。
幼い私は何もできずに…
その時はとにかく母の背中をさすることくらいしかできなくて。さすりながら、今から救急車を呼んで間に合うのだろうかと思っていました。
母は今にも窒息して、息が止まってしまいそうでしたから。幸い電話で救急隊員の方と話をしている最中に、喉に詰まっていたものが取れたのか、母は普通に息をし始めてくれました。
それを見てとても、安心したのを覚えています。
父子ともに慌てていて頭が真っ白になっていたので、救急隊員の方が冷静に対応してくれたのはありがたかったです。
そうでなければ、本当にパニックを起こしていたと思います。
ただ、その時は本当にパニックになりかけるほど、母のことが心配だったんです。
突然…
本当に思いもかけず、突然に死が近くに迫っているのを感じたものですから」
「マメチュー先生、お母様ご無事でよかったですね」
「はい。村長、ありがとうございます」
「ホラ、聞イタ?スネ文サン。危険ナノヨ。本当ニ」
「そうですよ、何が起こるのかわからないのですから、スネ文さんも注意して食べてくださいね」
「分カリマシタ、村長。ソシテマメチュー先生モ」
「はい、食べ方には注意するようお願いします」
「皆サン、良イ物ヲ、作リマシタヨ」
静かにしていたフロ次さんが、いい匂いのする食べ物を持ってきてくれました。
「これは、大根餅ですか?」
「ソウデス」
大根・長ネギ・干しエビ・ベーコン・片栗粉を混ぜたものを、ごま油で焼いて作った大根餅。
大根餅という料理名ですが、実際にはお餅は入っていません。
大人たちが喉を詰まらせないよう、作ってくれたみたいです。
詰まらないよう適量を口に入れ、ゆっくり食べても大丈夫。
「美味しそうです」
「ごま油の香りが、食欲をそそりますね」
「私モ頂イテ良イ?カリカリシテ、本当に美味シイワ」
みんなで大根餅を楽しむ大人たち。
一方、ほとんど残ってしまった鏡餅。
鏡開きの日ですが、残りのお餅は結局、若い人たちに食べてもらうことにしたようです。
加齢を気にしすぎず、華麗に楽しく生きる、そんなポ村の大人たちです。