マメチュー先生の調剤薬局

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ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

誰にでもあるよね、こんな日は その1

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ボンヤリと虚空を見つめるてんまさん。

“忘れちゃったの?おねえちゃん”

 

てんまさんは記憶、事実があやふやにならないように、経験した出来事や出会った人物をスケッチして覚えます。

 

こないだまゆちゃんにラムネ貰ったんだっけ。久しぶりに食べたなぁ。甘くてほっこりした。

 

 

大量にカゲが、ポ村を通過。

そういう日はとても心が、ざわつきます。

人によっては、食欲不振・睡眠障害等の症状が、あらわれる。他にも不安な思いが心をしめたり、全てのやる気が失われたりする事があります。

 

 

「深呼吸、深呼吸」

 

カゲの通過によって突然湧き上がる、孤独感や消失感に押し潰されないように、深く息を吐き出します。心に巣食おうとする、モヤモヤを吐き出すように。

 

皆さんはそういう時、どうしているのでしょう。

 

大量にカゲが通過していった時は、集団で知らない人に、心の中を土足で上がり込まれた気がします。

わたし…

普段は考えないのに、カゲが通るといつも妹のしょうまのことを考えてしまう。つい自分と比べてしまう。

 

記憶。

 

忘れたいと思う経験をすることはあるけれど、妹の記憶力の良さは羨ましかった。

彼女は生まれてすぐのことも覚えていた。

 

普通記憶が定着するのは3~4歳だと言われている。それなのに、記憶力が未発達のはずの乳幼児時代のことも覚えているみたいだった。

 

一体いつから覚えているんだろう。

生まれたその瞬間のことも覚えているのかな?お腹にいた時のことも?最初、幼い頃の話を聞いた時は、彼女の記憶違いじゃないかと思った。

 

人間の記憶力は曖昧で思い違いをしていることは多々ある。言った言わないの争いごとは日常的にあること。だけど覚えていることを自慢している風ではない妹。

 

そして生まれてすぐの話はそんなに語りたがらなかったので、色々聞いてはみたかったけれど結局詳しく聞くことは出来ずにいる。

 


「三回目に会ったとき?」

「え?あれ?覚えてない?11月の文化の日」

 

ある日、しょうまに昔の話題を振られたことがあった。

 

「お休みの日なのにそんなに公園に人がいなくてさ。なのに、広い公園でうんちされちゃってて。ハトじゃなくてちっちゃな雀のうんち。しかも2,3回連続で。てんまあの時、ペットボトルでレモンティー飲んでたよ。350mlの」

「レモンティー…」

 

「でね。きのう一人でリビングにいた時に、テレビで懐かしのファミコン特集みたいなのをやってて。その中で鳥の糞をよけながら歩くっていうゲームがあったのね。糞に当たったら即死なの。鳥の糞が当たっただけで即死。古いのゲームって不思議なの多いよね。それを見て当時のことを思い出しちゃった。ねぇ、てんま。公園でのこと、少しは思い出した?」

 

あんまり覚えていないと言うと、妹はわたしを責めるでもなく、ただとても悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。確かに今言われてみれば、ちょっとインパクトがある話かもしれない。

 

でもあの時はまだ異母妹のしょうまと一緒にいるとすごく緊張していて…公園に行った時のことは覚えている。しょうまのことばかり見ていたから、どんな服を着てどんな髪型をしていたのかも覚えている。わたしをどう思っているんだろう、今何を考えているんだろう。つまらない思いをしていないだろうか。表情、仕草、目線などは見ていた気がするんだけど。

 

昨日通り過ぎて行ったカゲ。

カゲの存在を感じると今起きたことでも、時系列から何から混乱することがある。皆との楽しい思い出すら…忘れてしまいそうになる。

続きます