マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

内臓脂肪減少薬 その10

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前回のお話 (内臓脂肪減少薬 その1はこちら)
体型を気にし始めたあかりさん。内臓脂肪減少薬の存在を知り、手に入れたいと思い始める。夢の中で、ねこさんたちにダイエットを反対されるが、あかりさんは何を言われても納得しなかった。

あかり家宅

「あー、今日もあんまりダイエットできなかったなぁ」
そういえば、変な夢見た気がする。

もうちょっとで痩せた自分が手に入りそうな夢…

ーーー

ーーー。

「ちょっともー、はなしてよー」
「それはにゃこのにゃ。にゃこのっ、にゃこのっ!」

「違うよ、あたしのだよ。きれいになって見返したいんだよ。痩せる薬って本当は色々あるんでしょ?調べたんだから。知ってるんだから。薬局で処方してもらえないなら、美容クリニックでも何でも行ってやるんだからー」

「だめにゃ!絶対だめにゃ!そのやる気を利用してがんばればいいにゃにゃい!」


「なんで薬を使ったらだめなの?あなたにこそ必要ないでしょ?ちょっとぽちゃぽちゃしてるくらい、かわいいじゃない」
「そんなのお前だけの意見にゃ!」

「違うよそんなことないって!」
ねこはぷんっとして、あたしの話を全然聞いてくれない。

「少しはあたしの話をきいてよ」
「それはお前も同じにゃ」

薬局


「ふぅ。今月もまたオゼンピックがたりない…」

「オゼンピックは糖尿病治療薬なのにね。ダイエットのために美容クリニックの方で使われちゃってるのかな」

「そうなの?てんまちゃん」
「うん…」

「とにかく数量がカツカツでさ。卸やメーカーからも一か月一本とかって制限されてんの」
「ええー?そんなことあるの?」


実は医療用の糖尿病の治療薬を、痩せたい人のために一部の美容クリニックが自費で出しまくっているそうです。そのため本来使わなきゃいけない糖尿病の人に薬が行きわたらない事態が発生。そのため同じ成分の肥満症の薬、ウゴービが発売されることになったのですが…


「それでも、うちの薬局にはなかなか入ってこないんだよね」


数年前、美容クリニックによるオンライン診療等でダイエット薬として処方されていた糖尿病治療薬。しかし副作用で苦しむ人が多く、問題となっていたようです。国民生活センターへの相談も多かったとのこと。


「アライの登場でそういう問題も少なくなるといいんだけど。そんでオゼンピックの制限もなくなるといい」
「アライって誰のこと?誰が登場したの?」

「ドラッグストアでも手に入る肥満症治療薬さま」
「商品名なのね。でもすごい。ドラッグストアで買えるなんて画期的ね」


オゼンピックはアライとは別の作用機序ですが、肥満症治療薬です。元々は糖尿病治療薬だったのですが、使用者の体重が減少したため、肥満症治療薬としての開発が始まったのです。

”肥満症”は肥満に伴い合併症がある、または合併症になる危険性が高いため、治療が必要。”肥満”というのは、病気ではなくぽっちゃりさんを指す言葉です。アライは“肥満症”の方ではなく“肥満”の方向けのお薬となります。

「だから肥満症や糖尿病の患者さんは迷惑してるし、こっちも手配するのが正直大変」

「ルッキズムがどうとか、容姿いじりはよくないとか言われているのにね」
「痩せたい願望を増幅させてビジネスをやっている所がさ、一部はあるみたいだから」
「痩せてないといけないという社会的風潮を助長しちゃってるのかもね」

「そうねぇ、全然太ってない人も、さらに痩せたがるものね」
「そういう人たちがいると、病気で必要だっていう人たちに薬が行きわたらなくなっちゃうという…」


「そこで新商品アライの登場ってわけね」


「アライの購入資格があるなら、是非そっちを買ってもらいたいね。とは言え、痩せたいと望む本人の努力はやっぱり必要。製薬会社の人も”簡単に痩せられる夢の薬登場”なんて言ってないし」

「アライを購入する場合は、生活改善が必要だから健康を見直すきっかけになる。だからセルフメディケーションの助けになる薬ではあるかな」


「ダイエット目的の人はオゼンピックじゃなくてアライを服用。そんでそこまで太ってない人は、無理に痩せる必要はないからアライもいらないってことよね」

小林家宅


「柚月」
「…」

「もうその薬やめなよ。本当はお前の体型では飲んじゃいけないんだよね?」
「うるさいなぁ」

だって、インフルエンサーやモデルさん、韓国美女たちはみんなウエストがほっそりしてるんだもん。

「芸能人とかを見て憧れているのかもしれないけれど、あれはちゃんと努力しているんだよ。運動して筋肉で引き締まってるんだ」

そう、でしょうね。おしりもきゅっと上がっている。きっときちんと鍛えてるからなんだろうな。

「食事と運動。バランスよく取り入れているからスタイルがよく見えるんだ。薬飲んで、食事を我慢してだと、細いというより骨ばったガリガリ体型になっちゃうよ?」
「…」

「最近の柚月は血色も悪いし、不健康に見える。それじゃあ、人に心配されるよ?いい意味で注目をされているわけじゃないと思う」

そんなことない、分かってないなぁ。あたしが可愛いからだよ。あたしはもっと承認欲求を満たしたいの!

「太れなくて気にしている人だっているんだよ。そんな生活してたら免疫力落ちて病気になりやすくなると思うけど。もちろん風邪だってひきやすくなると思う」

こいつなに急に…あたしに説教?でも風邪ひくのはいやだな。人前で鼻水垂らすなんてサイアク。

「せっかく稼いで手に入れたお金はさ、もっと健康的になるために使いなよ」

ほんとうるさい。なんできれいになるのを邪魔するの?

「兄ちゃん…お前が心配なんだよ」
「…」


続きます