マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

冬の屋台 その2

前回のお話

冬の夜、ポ村には豚汁を出してくれる小さな屋台が出ていました。

そこにはバスの中で居眠りし、最終のバスで終点ポ村まで来てしまった中年の男性がひとり、お客として訪れているようです。

「犬猫なんかに癒されるっていうけどさ、ほんとに癒されるか?ご主人はペット飼ってる?」


「ペット、だすか?」


「飼ってない?飼わないよなぁ、ペットなんて。金もかかるし、育てる手間の方がストレスになると思うんだよな」

「そうなのだすか」


「そう、嫁も子供もペットもいらない。一人がいい」


「ひとり、さみしくないだすか?」



「そうだな。そう思ったり思わなかったりするだろうな」


「むずかしいお話だす…」


男性客は相変わらず、暗くてよく見えない上の方を見上げて話している。


「しゃべり方もね、変だよね」


「そうなのだすね?一生懸命みなさんの真似してしゃべっているのだすが」


「へぇぇ?」

ズズ、ズズズ…

男性客は残りの少し冷めかけた豚汁を、一気に口に流し込みました。


「ああ、うまかった。うん。こういううまいもん食うと癒されるかもしれない。それにさ。うん。なんかしゃべったら、ストレスやもやもやがすっきりした気がする」


「それは良かっただす」



”問題は、何にも解決していないけど、話を聞いてもらえただけで、もやもやがどっか行った。
不思議な話だ。
話を聞いてやる…思っていたよりも大事なことなんだな“


こうやって、お嫁さんの話を聞いてあげていればよかったんだと、そう実感しているようです。


「タクシーで帰るか。ここタクシー来るかい?」


「たくしー?」


「タクシー会社に連絡すれば来るよな」


「お帰りだすか?」


「色々聞いてもらって楽しかったよ」


「それは嬉しいだす。わたすもそろそろ眠くなっただす」


「え?」

ばさばさと、何かが飛び去る羽音が聞こえます。



男性客に鳥の羽音は聞こえたみたいですが、暗くて姿は見えてはいないようでした。


「鳥って夜も飛ぶんだなぁ。ね?」

「…」

急に返事しなくなった屋台の主人。


「あれ?ほんとに寝てんの?」


主人はそれにこたえるように、水を出してくれました。


「突然の無口?不思議な人だな」


男性客は出してくれた水を一口だけ飲む。


「なにこれ!この水、うまい。ポ村って水がいいんだなぁ」


「…」

「独り言かよ。じゃあ、こちそうさん」



冬の深夜、連絡を受けやってきたタクシーに乗って帰っていく男性客。


”変わったご主人だったなぁ”


そう呟きながらタクシーから窓の外を見つめる。

「暗くてよく分かんねぇや」


”次は昼間にまたポ村に訪れてみよう。断られるかもしれないけど、家族も…誘ってみようかな”


揺れるタクシーの中、ぼんやりとそう思う男性客なのでした。


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