マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

冬の屋台 その1

空気が澄み星がよく見える、そんな年の瀬せまる冬の夜。


ポ村には小さな屋台が一つ、ポツリと出ていました。

屋台からはごま油のいい香りが漂っています。


冬にピッタリ、アツアツの豚汁を出す屋台のようです。


豚肉、ネギ、大根、ごぼう、にんじん、こんにゃくなど王道の具材が入っている豚汁。

具材は王道なのですが、お野菜類は少し大きめに切ってあります。


小さな屋台から漏れ出る小さな灯り。


よく見ると、一人のお客らしい中年男性の背中が見えました。


屋台のご主人に向かって、色々と語りかけている様子。


その屋台のご主人、小さな屋台から頭がはみ出ています。

どうやら主人はポ村一大きな男性、ヤマオのようです。


「ああ、あったまる。それにしても具がでっかいなぁ。俺はこれくらいの方が歯ごたえ合って好きだけどさ」


客の男性は七味が好きなのか、豚汁にガシガシかけています。


「今日寒いよね。そうだ、ポン酒はない?」


「ポンシュ、だすか?」

「そう、ポン酒。ないよなぁ。まぁいいか。いい加減、酔い覚ました方がいいもんな」


「それはそうだすね」


この男性客は仕事帰り、一杯ひっかけたあと、酔っ払ってバスの中で居眠りし、乗り過ごしてしまったようです。


その結果、ここ”ポ村”に辿り着いたとのこと。


そして最終のバスも逃してしまい、辺りをさまよっていたら、ヤマオの屋台を見つけたらしい。


「バスの終点なんて、来た事ないからさ。ポ村っていうんだっけ?」

「そうだす。ポ村だす」

男性客はずっと顔を上に向けて、主人に話しかけている。


小さな灯りしかない小さな屋台。


そこから大きくはみ出た主人の顔は、暗くてよく見えない。


「こんな深夜にまで営業していてくれて、助かった」


「よかっただすね」

「まぁさ、すぐには家に帰りたくなかったしさ」


「なんでだすか?」


「ご主人はさ、嫁さんいる?」

「およめさん?そんな、いないだすよ!」


「独身か。結婚なんてしない方がいいよ」



「そうなのですか?」


「そう!よく言うだろ。女は結婚したら変わるって」


「聞いたことないだす」


「変わるんだよ、女は。突然切れるしさ。無視するし。挙句の果てには離婚だとわめき散らす」


「リコン…」

「文句があるなら、我慢せずにその場で言えばいいのにさ。だいぶ経ってから昨日のことのように言い出すから、こっちもいつの何のことなのか、ワケ分かんねえんだよ」


「大変なのだすね?」


「いつも何が悪かったのか、何に怒っているのかさっぱり分からない」


「分からないのは困るだすね」


「そう困ってんの。嫁の怒りを鎮めるために、こっちも気を使うわけさ。家事を代わりにやってあげるとさ。なのにそれがまた余計に怒る」


「そうなのだすか?」


「家事をやってあげるがむかつくんだとさ。当たり前にやれよと言うわけだ」


「むつかしいお話だす」

「こっちもストレスたまるんだよ」


「すとれす?」

「子供にもほとんど無視されてるし、世の中の亭主連中は何をして癒されてるんだろう」


「いやし、だすか」


「よくさ、犬猫なんかに癒されるって言うけど癒されるか?ご主人、ペット飼ってる?」

続きます