空気が澄み星がよく見える、そんな年の瀬せまる冬の夜。
ポ村には小さな屋台が一つ、ポツリと出ていました。
屋台からはごま油のいい香りが漂っています。
冬にピッタリ、アツアツの豚汁を出す屋台のようです。
豚肉、ネギ、大根、ごぼう、にんじん、こんにゃくなど王道の具材が入っている豚汁。
具材は王道なのですが、お野菜類は少し大きめに切ってあります。
小さな屋台から漏れ出る小さな灯り。
よく見ると、一人のお客らしい中年男性の背中が見えました。
屋台のご主人に向かって、色々と語りかけている様子。
その屋台のご主人、小さな屋台から頭がはみ出ています。
どうやら主人はポ村一大きな男性、ヤマオのようです。
「ああ、あったまる。それにしても具がでっかいなぁ。俺はこれくらいの方が歯ごたえ合って好きだけどさ」
客の男性は七味が好きなのか、豚汁にガシガシかけています。
「今日寒いよね。そうだ、ポン酒はない?」
「ポンシュ、だすか?」
「そう、ポン酒。ないよなぁ。まぁいいか。いい加減、酔い覚ました方がいいもんな」
「それはそうだすね」
この男性客は仕事帰り、一杯ひっかけたあと、酔っ払ってバスの中で居眠りし、乗り過ごしてしまったようです。
その結果、ここ”ポ村”に辿り着いたとのこと。
そして最終のバスも逃してしまい、辺りをさまよっていたら、ヤマオの屋台を見つけたらしい。
「バスの終点なんて、来た事ないからさ。ポ村っていうんだっけ?」
「そうだす。ポ村だす」
男性客はずっと顔を上に向けて、主人に話しかけている。
小さな灯りしかない小さな屋台。
そこから大きくはみ出た主人の顔は、暗くてよく見えない。
「こんな深夜にまで営業していてくれて、助かった」
「よかっただすね」
「まぁさ、すぐには家に帰りたくなかったしさ」
「なんでだすか?」
「ご主人はさ、嫁さんいる?」
「およめさん?そんな、いないだすよ!」
「独身か。結婚なんてしない方がいいよ」
「そうなのですか?」
「そう!よく言うだろ。女は結婚したら変わるって」
「聞いたことないだす」
「変わるんだよ、女は。突然切れるしさ。無視するし。挙句の果てには離婚だとわめき散らす」
「リコン…」
「文句があるなら、我慢せずにその場で言えばいいのにさ。だいぶ経ってから昨日のことのように言い出すから、こっちもいつの何のことなのか、ワケ分かんねえんだよ」
「大変なのだすね?」
「いつも何が悪かったのか、何に怒っているのかさっぱり分からない」
「分からないのは困るだすね」
「そう困ってんの。嫁の怒りを鎮めるために、こっちも気を使うわけさ。家事を代わりにやってあげるとさ。なのにそれがまた余計に怒る」
「そうなのだすか?」
「家事をやってあげるがむかつくんだとさ。当たり前にやれよと言うわけだ」
「むつかしいお話だす」
「こっちもストレスたまるんだよ」
「すとれす?」
「子供にもほとんど無視されてるし、世の中の亭主連中は何をして癒されてるんだろう」
「いやし、だすか」
「よくさ、犬猫なんかに癒されるって言うけど癒されるか?ご主人、ペット飼ってる?」
続きます