マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

ねこさんにはちょっとビビリな面がある

都会で働く薬剤師のイチイさんは、ポ村の村長に頼まれて、マメチュー先生と共にポ村の住民…

主に、高齢者やお子様への“薬の説明会“などに参加することがあります。


本日イチイさんはその“薬の説明会“を終え、帰宅中。

手には村長からのお土産を持って、村を散策するようにのんびり歩いています。




「うんめぇ…」


村長からのお土産“ポ村の名物青梅の甘露煮“(蜂蜜入り)は、職場のスタッフに好評でいつも楽しみにされるのですが、イチイさんは早速食べてしまっているようです。

小さなミツバチ宅が並ぶハニカムロード

「これすげえ甘いけど、甘露煮にも梅に含まれている成分、クエン酸の効果はあんのかな?」



イチイさんは実家の庭にあった、梅の木のことを思い出していました。



特に熟した梅の実は甘く、良い香りがするものです。



そのため、幼いイチイさんは梅の実にかじりついてやろうと、木登りをして手に入れようとしたことがありました。

そんなイチイさんを彼の母は、ひっ捕まえて言いました。



“そんなもの食べたら死ぬわよ“




「今考えたら熟した梅の実を食っても、死なねぇだろうな」



青梅は生で食すと中毒症状を起こすことがありますが、それでも死に至る可能性は限りなく低いです。



しかし親が語る“死ぬよ“シリーズはなぜだかいくつか存在。



梅の実の話もイチイさんの母は、昔近所の子が口にして死んだのだと語っていた。


だから決して食べてはならないと…



さらにイチイさん宅にある屋上へ続く外にある螺旋階段も、使ってはいけないときつく言われていました。



“昔あの階段から落ちて、死んだ人がいるのよ“



「よう死ぬな。不吉かよ。俺の実家」




危険行動を起こしがちな息子を制するための子供騙し的な嘘だったのでしょうが、恐らく本気でイチイさんを制するのであれば、もっとたくさんの死者を色んな場面で、生み出さなければいけなかったのでは無いかと思います。



にゃほにゃほ…




「ん?」



にゃふ、にゃふん!




にゃこさんの声がします。



イチイさんがにゃこさんの声がする方を見てみると、にゃこさんが木に登り何かを狙っていました。



よく見るとどうやらティッシュのようなものが、木に引っかかっているようです。



しかし、そのティッシュがなんなのかよく分かっていない様子のにゃこさんは、敵対視しているみたい。



“なんにゃか敵がいるにゃ“



「あいつ、あんなほっそい木の枝に乗っかって」

一生懸命な顔をしているにゃこさんの邪魔をしないように、声をかけずにいるイチイさんですが、ちょっと心配なようです。



“落ちる、落ちる“



ちょっとの風でぴらぴらと揺らぐティッシュに、腰がひけているにゃこさん。


“落ちるって…“


後ずさりして、つい自分で自分のしっぽを踏みつけてしまう。


その直後…



「にゃきゃあっ!」



何者かにしっぽを踏まれたと勘違いしたねこさんは、パニック状態。



足を踏み外したねこさんと、風に吹かれたティッシュが木から落ちてきました。



「にゃきゃきゃきゃぁ〜」



落ちるであろうことを見越し、待ち構えていたイチイさんは落下ねこさんを受け止めます。

ティッシュはイチイさんの頭に着地


「にゃっにゃにゃ?にゃこさんどしたんにゃ?」



「大丈夫か?お前」



「にゃむむ?お前は?」



「怪我はなさそうだな」



「なにのん気なこと言ってるにゃ。今こわいやつがいたんにゃ。とっても危険なやつにゃ」



「マジかよ」



イチイさんは気付かれないように、頭上に乗っているティッシュを、ポケットにしまいます。



「木の後ろに隠れていたのにゃけど、きっとすっごくでっかいやつにゃと思うんにゃ」




「すげぇ観察力じゃん。きっと今日はお前にビビって退散したんだろうな」



「そうにゃろか?」


「どうだろか?」


にゃこさんはイチイさんにしがみついたまま、たずねています。



「う〜ん、まぁでもあの枝の細い木にはもう登らない方がいいと思うぞ」



「なんでにゃ?」



「なんで…」



もちろん細い木に登り、枝が折れたりしたら、再び落下する危険があるからですが、にゃこさんは理解してくれるでしょうか。



ねこさん、ビビリはしたけれど、敵に対する好奇心も窺える態度をしています。



「俺さ、実はあの敵のこと知ってんだ」



「そうにゃの?」



「あの敵はな、刃向かおうとするとお前の大事なものを、持っていってしまうやつなんだ」



「にゃこさんの…大事にゃ…?」



「あるだろ?お前にもとられたくない大事なもの」




大事なおもちゃ、大事な安心ハウス、大事な…まゆちゃん。


「あるっ!あるにゃ。絶対渡さないにゃ」



「そうだろ?だからあの木の上には乗るな」



「わかったにゃ。そうするにゃ」



「嘘も方便だ」




「にゃ?」



「いや、別に」



薬剤師が病院で扱うプラセボ(偽薬)も実際薬の効果はないので、言わば嘘をついて患者さんに服用してもらいます。



ときには“嘘”がその人に、有効に働くことがある。



「でも嘘つくなら、すぐにバレちゃ意味ないよな」



「にゃ?」



「ひとり言」



「にゃふぅん」




十分大人なにゃこさんですが、今のところ子供騙しな嘘でも気づくことは無さそうです。



素直で可愛いねこさんです。