都会の片隅で暮らす、一匹のねこさん。
そこはあたりを見回しても、他にねこさんはおらず、人間ばかり。
群れないと言われているねこさんも、ずっとひとりはやっぱり寂しい。
でも仕方がない。
生きるので精一杯です。
カツカツカツカツ
人々の足音が、そこかしこから聞こえてきます。
“人間に見つかってはだめよ”
おかあさんの教えです。
人目につかぬようねこさんは、車の影に身を潜めています。
都会に住むねこさんは、今宵もひとり、ひっそりと過ごす。
そしていつも通りひとりぼっちで、真っ白くて冷たそうな月を見上げます。
いつも通りの夜…のはずでしたが、今夜は何処かから聞き慣れない音が聞こえてきました。
ピヒョー
この音はなんなのでしょう。
ピー
ピヒョッ
ピーヒョロ
ピーヒャラ
ピーヒャララッ
なんだかとっても賑やかな音。
つっかえつっかえですが、どうやらお囃子のようです。
身を潜めながら賑やかな音を聞いていると、少しずつウキウキしてきました。
普段なら人に見つかるのは嫌なので、物陰にずっと隠れているのですが、沸き立つ心を抑えきれなくなってきました。
お囃子の音に導かれるようにねこさんは“人に知られぬ隠れ道“を通り、音がする方へと向かいます。
“机の下や棚の上“を通り、たどり着いた場所。
そこはなんと、ねこだけの世界、ねこ森町でした。
もふもふ天国。
いつもひとりで暮らしているねこさんには、信じられない光景です。
“にゃん、にゃん、にゃん♪“
様々なねこさんたちが、ねこ森音頭を舞い踊っています。
どうやらここ、ねこ森町では毎年、盆踊り大会が開催されているみたいです。
この世の全てのねこさんが共に楽しむ、幸せな一日。
「あれ、新しいねこさんがきてるにゃ」
「ほんとんにゃわ」
“福を招くねこさんのお手々“ が、ひとりでねこ森町にやってきた猫さんを、導いてくれます。
「こっち来て一緒に盆踊りするの」
ピーヒョロ
ピーヒャラ
こんな日はひとりで過ごさず、みんなで踊って楽しみましょう。
そして先に逝ってしまった、ご先祖の霊をおもてなししましょう。
誰にでもいるはずのご先祖様。
今夜だけは決して、ひとりぼっちではないのですから。