前回のお話
まゆさんは久しぶりにきのこ狩りで見かけた、不思議な生物のことを思い出していました。
「あれ、何者なんだろう」
そんなことを考えていた直後、話していた不思議生物が突然姿を現しました。
なんとパゴロウさんと一緒に暮らしていたそうです。
「今まで見たことないけど、元々どこで暮らしてたんだ?」
「気づかなかっただけで、私たちのすぐそばにいたのかもしれないよ」
「えぇ?気づかないかな、これ」
「だって前にさ、暖かくなってくる5月ごろに毎年現れるクビキリギスの話をした時、誰も知らなかったじゃない?」
夕暮れになってくると、町のあちこちから電気の変圧器のような「ジーッ」という音が聞こえてきます。
その音の正体は、クビキリギスというバッタ。
「ねぇ聞いて、この音」
「音?」
「ほら、ジーって。
今年もクビキリギスが出て来たみたいだね」
「うん?」
クビキリギスの話をしても、誰もピンと来ていませんでした。
音が聞こえているのに、それなのにその音に気づいていない。
存在をしらない。
「私もクビキリギスと初対面のときは名前の由来を知らなかったんだ。
私が興味津々で近寄りすぎちゃったから怖がらせちゃって。
だから思い切り噛みつかれちゃったんだけど、そのままじっと観察していてよかった。
首がもげても噛んだまま離さないから、クビキリギスって言うんだって。
離そうとしたら、首もげちゃうとこだった。
危ない、危ない」
「……」
「だけどね。毎年あんなに大きな声…セミほどじゃないけど鳴いているのに、なんでみんな気がつかなかったのかな。
だからきっとこの不思議な子も、私たちのそばにいたんだよ。気がつかなかっただけで。
そうだ、夕方になるとパタパタ校庭とかで飛んでいるコウモリの事も気付いて無い人がいたの。
もう、みんな何にも気づいてないの。
季節のお花が咲き出しているのに、全く気づいてない人も多いよね」
「お前、クビキリギスの話したいだけだろ…」
「う…」
「とはいえ確かにアンテナが何に反応するかは、人それぞれだから“気づかなかっただけ説”はなくはないかもな。
とりあえず、マメチュー先生に聞いてみるか、こいつのこと」
マメチュー先生はご先祖代々ポ村に住んでいるので、この村のことは詳しいのです。
「あら?この方は」
「ま!」
「懐かしいですねぇ」
「知ってるんですか?マメチュー先生」
シフォンの一族は昔、人間たちと一緒に暮らしていたそうです。
本当にずっと人間たちのそばにいたということのようです。
彼らと一緒にいるとお互いが癒された。
シフォンの一族は人間が好きで、人間のやることに興味がありました。
人間と同じことをやってみたい、そんな感じでした。
「そうか、きのこ狩りの時のあの妙な行動はあたしたちの真似をしていたのか」

好奇心が旺盛のため、人間から知識を得て学ぶのが楽しいようでした。
人間の方もシフォンの一族と暮らすことで、成長できると考えました。
特に子供の教育になる、と…
ペットというものは寂しがりやで、すぐ拗ねてわがままを言います。
育てるのも容易ではありません。
ご飯代、病院代などお金もかかるし、排泄もすれば匂いもします。
誰かを思いやる心がないと、育てることはできません。
そんな子たちを育て、面倒を見る、それが子どもたちを成長させてくれます。
さらにシフォンの一族は人間が好きだから、寂しがる子どもたちのそばにもいてくれます。
それなのに最近は、ほとんど姿を見せなくなりました。
原因として医療が発達したため、癒しは不要になったとか…
ポ村の住民は犬やねこに癒しを求めるようになったとか、表向きにはそんなふうに言われています。
「表向き?本当はどうなんですか」
「…」
「先生?」
マメチュー先生は重い口を開きました。
「シフォンさんの一族のふわふわとした毛が高く売れると聞きつけた密猟者が、外から入り込んだ…
そんな噂を聞いたことがあります」
シフォンの一族はそれが原因で人間が嫌いになり、姿を現さなくなったのかもしれない。
「シフォン!そうなの?」
「ま?」
「ほんとだったら…許せないよね」
密猟者が入り込んでいるのなら、人間を嫌いなままの方がいい。
無邪気に人間に近寄って、捕まってしまうこともないでしょうから…
先代の村長が密猟者を必死で探したのですが、結局見つけることは出来なかったそうです。
だから真実はわかりません。
「シフォンは、密猟者にバレてはいけない存在?」
「じゃあパゴちゃが、このこを守ってあげないとね」
「確かにな」
「はい!」
不安症でどこか頼りなげな面があるパゴロウさん。
そんな彼にも守るべきものができたため、これから強く逞しくなっていきそうな予感がします。