「時折、思い出さない?」
まゆさんはお仕事の休憩中、唐突にてんまさんに質問をしました。
「なにを?」
「シャンプーとか洗顔している時とか、夜寝る前とかふとした時にさ」
「?だからなにを?」
「あっ、あの子ね。分かるー。確かに、隙あらば頭の中に出てくる時ある」
前にきのこ狩りに行った時に出会っていた、謎の生物。
それ以来一度も見かけることはありませんでしたが、なんだか正体が気になる存在。
「あれって結局何者?」
「この村に来てからは、不思議なことは起こるものだと思って暮らしてたんだけど…
やっぱり気になるよね、あの子。
また、会いたくなっちゃったな」
「あのきのこの山に行けば、いんのかな?」
まゆさんはその時、てんまさんが何かを凝視していることに気がつきました。
何を見ているのか気になって、まゆさんもてんまさんが見ている方向を振り向いてみる。
「さっそくいるし。こっち見てるし!」
「え?何?なんで?」
「あれぇ?シフォン!!」
「シフォン!?」
同じく休憩中だったパゴロウさんがやってきて、不思議生物に向かって、何やら“シフォン“と叫んでいます。
「シフォンったら、ボクについてきちゃったの?」
「ま!」
「どういうこと?パゴちゃん知り合い?」
「こいつ何?そもそもお前の何?」
パゴロウさんは目を白黒させている、まゆさんとてんまさんにシフォンのことを説明します。
「今ボク、このシフォンと一緒に暮らしているんです」
「同棲中!?」
ある日、気がついたら家の中にいたというシフォン。
そして気がついたらシフォンに癒され、さらに一緒に暮らすことになっていたという。
「何その話…なんでそういう展開になるの?
あんたよくそんなわけの分からない生物と、一緒に暮らそうって発想になったよね。
日本昔ばなしじゃないんだからさ」
「日本昔ばなし?」
「だってあれさ、桃とか竹とかから出てきた赤子と平気で暮らしてるじゃん」
シフォンさんは竹ではなく、笹の植木鉢からひっそりと出てきました。
パゴロウさんは心配性で気にしいのように見えるのに、なかなかの度胸があるようです。
そして初めてペットと暮らす毎日が充実しているみたい。
今までパゴロウさんはねこさん等は怖くて、近寄ることも出来なかったのです。
「こっちからしたら、ねこの方がよっぽど怖くないけどね」
「でも…癒されませんか?」
「うん。愛嬌あるよね。
でも癒されるというよりも、今はなんか不思議な気持ち…」
「あんたが癒されてんなら、それでいいよ。
うん。この時代、癒しは大事だ」
「そうだね。
みんな癒しを、求めてるものね。
運命の出会いがあったんだね。
みんなにその…シフォンちゃん?
みたいな出会いがあるといいよね」」
「まぁ、癒しはいいんだけど。
この生物見たことがない。
普段はどこにいるんだ?」
「でもさ、まゆちゃん。
今までもすぐそばにいたのに、私たちが気がついていないだけだったのかもしれないよ」
次回へ続きます。