マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

シンクロニシティ

世の中には色々な病気があります。


稀な病もあるので、全てを把握するのは難しい。


そして病が多い分、薬の種類もたくさんあります。


血圧の薬は処方することがとても多いのですが、しかし…



「この薬はもう、一年くらいここに置いてあんなぁ」


それはこの薬局では、一人の患者さんにしか処方が出ていない薬。



その薬を見つめながら考え事をしていたオウギさんの邪魔をするように、イチイさんがその薬を取り上げる。



「あっ、おでん」


「む?」



突然現れたイチイさんの顔を見て、おでん呼ばわりをするオウギさん。

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「いや、前にもあったんすよ。
頭の中に突然“おでん”って言葉が浮かんだこと。

何でだろうって思いながら帰宅したら、その日の夕飯がおでんだったんです。

だから今日の夕飯もきっと…」



「所でハンバーグ食う?夕飯に。

俺の昼飯の余り」



「余りますかね、メインが」


イチイさんは丸々手を付けていない。ハンバーグのみのお惣菜をオウギさんに差し出しました。



「今日、白飯しか食わなかったんだ。
だから夕飯にでも食え」



「いや多分、今日の夕飯はおでん…」




「え?お前って、おでんで飯を食えるタイプ?」



「食えないんすか?イチイさん」



「俺さぁ、旅先でな」


「え?旅?」



「この薬を服用している人に、出会ったんだよ。

珍しいなって思ってさ」

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旅先で出会った人と話をしていたイチイさんは、その人との間に、いくつかの共通点があることに気付いたのだという。


地元が一緒、名字が一緒。

そしてなんとイチイさんの両親と、その人の両親の誕生日が一緒。


「いわゆるさ、シンクロニシティってやつだ」




「あー、そういうの分かります。

けっこうびっくりする、偶然の一致ってありますよね」




「お前の今日のおでんの話もそうだろうな。

シンクロニシティ。

あったかいもん食って、あったまる日なんだよ。

今日は」




「はぁ」



「要するにこの薬も、もう少しここに置いておけよって話」



「なんの話ですって?」



「その薬、他の店に送るつもりだったんだろ?」



「ええ、まぁ」



しばらく処方が出ていない薬は、期限が切れる前に返品したり他のグループ会社に送ったりします。



「だからこの薬、このまま店に置いておいても…」



「ほら、見て見ろ。

来たぞ、この薬の患者さんが」



「あ…え?えぇっ?」



一年ぶりに唯一この薬を服用している患者さんが、偶然来局する。


「丁度、会話をしていたりすると、シンクロニシティって起こるもんなんだよ。

薬を置いておいてよかったろ?」

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【薬局あるある】
これは薬剤師であれば、実際に何度か経験するであろう“あるある”です。


ほとんど処方されない薬を返品した直後に、何故だか患者さんが来局してくる。


その時にはもう薬がないので、再び新たに発注しなくてはならなくなります。





「偶然一致したからって、だから何なんだって思うことが多いけど…

今日の薬に関しては、手間を防げたからよかったろ?

次はいつシンクロニシティを感じるかは、分かんねぇけど」




「そうですね。助かりました。

でもこのハンバーグはお返ししときます」




「嘘、いらねえの?

和風のおろしハンバーグだぞ?」



「ハンバーグはデミグラス派なんで」



「デミグラスしか食わないやつなんていんの?

へぇ。覚えとくわな」