不法侵入しただけで、殺されることがある存在。
それが僕たち。
場合によっては、僕たちを殺す薬をかけられることもあるという。
そういう噂話は、赤ちゃんの頃に聞いた。
子供の頃は、みんなで大人になってからの話を仕切りにしていた。
“殺す薬“
なんでそんなものが存在するんだろう。
なんで作るんだろう。
しばらく子供たちの間でその話題が、持ちきりだったことがあった。
“にんげんという奴の中には、背後からひっそりと忍び寄って、殺そうとしてくる奴もいるらしい“
“そうなんだ。気をつけなきゃね“
“僕たちコガネムシは『害虫』なんだって。だから注意して暮らさなきゃならないんだって“
病気になっても、怪我をしても、治療してくれる人もいなければ、治療薬もないんだから…
あるのは殺す専門の薬ー
でも自分が不幸だとは、思っていなかった。
大抵の生物は、生涯で多くの子どもを産むって聞いた。
それなのに、その子たちが無事成長することは、稀なんだってことも…
だから簡単に命が消えてしまうのが、当たり前の世の中なんだってことは知っている。
いつ死ぬかなんて分からない。
そういうものなんだ。
それは、本能で知っている。
短い命だから自由に動き続けられるように、僕たちは痛みもそんなに感じないように出来ているんだと思う。
死を恐れ、ずっと隠れたままでいたら、子孫を作ることなんてできないもの。
大人になって空を飛べるようになったら、自由に飛び回って、思いっきり満喫しようって夢みてたんだ。
僕たちを殺す危険な薬があるって聞いても僕を含め、みんなが大人になるのを楽しみにしていた。
多少危険でも、色々見てみたいし、色んなところに行ってみたい。
だって寿命は長くないんだもの。
生きているうちは、出来るだけ楽しみたい。
それでも一応安全のため、僕を殺そうとしてこない家を見つけて、侵入してみた。
やっぱり不法侵入して殺されるのは嫌だもの。
なんでだろう。
なんかさ、人の家って入りたくなるんだよね。
この家は、どんな悪さをしても僕のことを殺そうとはしてこない。
でもいつも…
ティッシュにくるまれて“コロン”と、外に放り出されてしまう。
だから懲りずに、また入る。
そしてあの明るく光っているやつに、カンカンぶつかりたいんだ。
カンッカカカカンッ!
“あ、やば“
この家にいる、ねこという生物が僕に気づいて、つかまえてこようとする。
今やばいと思ったけれど、やっぱり余裕だった。
この家にいるねこという生物には、ちっともつかまる気がしないんだ。
次回へ続きます。