前回のお話
薬の由来について話をしていた、マメクスリカフェのスタッフたち。
薬というのは霊妙で不思議という意味の“奇(く)すしき力”という言葉からきているという説があるという。
ねこさんが苦手なパゴロウさんが帰宅したので、ひょっこりと顔を出したにゃこさん。
「にゃこちゃん、何してたの?」
にゃこさんはブツブツと、ひとり言を言っていました。
「ふしぎなちからって、何してくれるんにゃろか?」
「不思議な力の話?
確かに薬は不思議かもね。
人工的に化学合成されている西洋薬を見ているとあんまり感じないですけど…」
「そうですね。
漢方薬はちょっと呪術っぽいかもしれないですね」
「魔女は干からびた蛇とか入れてるけど、だいたいがホントに薬として使われているし…」
悪い魔女。
何だか雰囲気を出すために、わざと気持ち悪いものを入れているっぽいですが…
マムシ・ヤモリ・タツノオトシゴ・牛の胆石・サンゴの化石・ゴキブリの仲間のシャ虫など実際薬として使用しています。
「マムシとかヤモリとか、もう絶対魔女が作ってる毒薬ですよね」
「薬を英語ていうmedicineには、魔法とかおまじないという意味も含まれていますからね」
【medicine】
1:医学
2:薬、薬物
3:魔法、まじない
「典薬寮があった時代は病気を治すため、当たり前のように祈祷や神頼みをしていましたから」
「今はけっこう科学も発達してきているのに、それでも非科学的なことを信じている人って多くないですか?」
「稀な例だと思いますが、未だに丑の刻参りをしている人もいると聞きます」
「えっ?マジですか?
やば~」
「にゃば~」
「その方たちは、どのような思いでいらっしゃるのでしょう…」
「でも温かな親心の話をすると、子どもの合格祈願の為に神社にお参りするなんてのは、普通にある話ですよね」
「厄をはらったり健康祈願したりも、普通の事ですし。
現在の医学ではまだ無力な病に関しては、やはり神様に頼る方はたくさんいると思います」
「実際不治の病で対症療法くらいしか出来なかったのに、病が治ったなんて話もありますものね」
「そうですね。
ご本人の生きる力なのか、神様のお力なのか…」
「しっかし日本人って神社で神頼みする時だけ、急に信仰心が厚くなりますよね。
普段は神様にも仏様にも、関心無い人が多いのに。
てんまちゃんはよく、薬師如来さまにお祈りしているけどさ」
「かみだのみ?
にゃこは今、お星さまにお願い事してるにゃ」
ぼんやりとお話を聞いていたにゃこさん、何となく分かる言葉が出て来たので、嬉しそうに話に加わります。
「お星さまに?」
「にゃしっ!」
にゃこさんはお星さまにお願いをすれば、いつか叶うと信じています。
でもお願いがお星さまにちゃんと、聞こえていないかもしれない。
ホントは直接、お星さまとお話をしたいと思っているにゃこさんです。
「にゃこさんには、叶えて欲しいお願い事があるのにゃっ」
「そうなの?
ひとのお願い事って聞きたくなる」
「ないしょにゃ」
にゃこさんにも、秘密にしたいことくらいありますから…
「あたしもねー。
おまじないって言うか、運気があがるように縁起が良いものを携帯の待ち受けにしてるの」
「にゃ?なんにゃろか、それ」
「おや?
だるま…ですか?」
「可愛くないですか?」
「可愛らしいです。とっても」
「あたしテイラースウィフトと、アリアナグランデのライブチケットが欲しいんです。
いつか行けるようになったらですけど」
「素敵なお願い事です」
「お願い事叶うといいにゃ」
「うん。そうだ。
前から思っていたんですけど、プラセボってちょっとおまじないっぽくないですか?」
「プラセボですか?」
「そう、プラセボです」
“患者さんの症状がよくなりますように”
薬として効果のある成分は入っていないプラセボ。
それでも暗示がかかるのか、病気の症状が改善することがあります。
それは患者さんが薬を服用するだけで安心し、回復を期待しているため自然と改善していったのかもしれない。
本来持っている免疫力のおかげで、治癒していったのかもしれない。
でも処方する際に周囲の人の“回復して欲しい。元気になって欲しい”という願いや祈りが神様に届いているから、薬のような効果を発揮しているようにも感じます。
院外処方は認められていないので、マメクスリカフェでプラセボを処方することはありません。
けれど……
“マメチュー先生のおくすりのおかげで、すっかり良くなったわ”
マメチュー先生の笑顔に見えない魔法のようなチカラが働いて、よりおくすりが効果を発揮している。
そんな風に思ったことはあります。
医学プラス魔法の力。
非科学的で笑われちゃうかもしれないけれど、その両方の力でマメクスリカフェの患者さんは、治癒しているのかもしれない。
あたしはけっこう本気で、それを信じています。