前回の続き
村長と一緒にポ村の医療機関を、見学しに来ているイチイさん。
都会の薬局で働く“薬剤師”として紹介されたパゴロウさんは、イチイさんの顔を見て驚いてしまいました。
なぜなら前にイチイさんを、見かけた事があったからです。
(この人…※モンスターペイシェントさんだ…)
※文句言いの患者さんのこと
どうやらイチイさんの方は、パゴロウさんと既に会っている事には気付いていないようです。
パゴロウさんだけがイチイさんを覚えているのは、おそらくイチイさんよりパゴロウさんの方が、インパクトのある出来事だったからでしょう。
一年ほど前…
パゴロウさんが研修中の薬局に、患者として来局したイチイさん。
その薬局にいる仕事をしないベテラン女薬剤師が、イチイさんに目を付けられました。
他の薬剤師が忙しそうに仕事をしているのに、店の奥に隠れて何も手伝おうとしなかったベテラン女薬剤師を、突然イチイさんが呼びつけたのです。
確か…
「おばさん、一人暇そうだから薬の事で質問したいんだけど」
的な事を言っていたと思います。
当時学生のパゴロウさんは、大いに戸惑いました。
今も戸惑うと思いますが…
そんなことを平気で言うイチイさんもすごいですが、それを無視し続けたベテラン女薬剤師もなかなかだったと思います。
おそらくベテラン女薬剤師は、薬の質問に答えられる自信が無かったのだと思います。
薬の勉強もせず、仕事はいつも人任せ。
でもプライドは高い。
患者さんに“分からない”なんて屈辱的なセリフは決して言いたくない。
だから無視する。
この研修中に起こったことは、パゴロウさんにとって何も対応出来なかった、心に残る闇めの出来事。
(すごい患者さんだなぁと思っていたけど、この人…
同業の方だったんだ…
しかも村長に信頼されるような…
ホントは一体どんな人?)
パゴロウさんにそんなことを思われているとはつゆ知らず、見学会が終了したイチイさんは村長に別れを告げ、足早に帰宅して行きました。
マメチュー先生に触発されてイチイさんは、勉強したくてたまらなくなっているようです。
スタスタスタスタ、都会行きのバス停を目指す。
(もどかしいな…
早く作ってくれよ。どこでもドア的なもん)
ポ村には猫さん用の“どこでも押し入れ段ボール”はあっても、どこでもドアはありません。
「何にゃこれ、なんにゃ!」
ぺいぺいと何かで遊んでいる、にゃこさんの声が聞こえます。
声の方を見てみると、にゃこさんが小さな公園で遊んでいました。
(ねこ…
前にこのような村で会った、ねこの一味の…)
「そこのにゃんた!」
「にゃ!?にゃんたじゃないにゃ!」
にゃこさんのお名前はにゃこです。
「おまえ…
ニャロウィンの時のやつにゃ」
「手!」
「にゃ?!」
「なんにゃのそれ?」
落ちこんでいた心を和ますアニマルセラピー。
「頑張らにゃあと思ってさ」
「にゃむ?」
「そっちこそ何してんの?」
「ここになんか落ちてるにゃ」
「ん?」
「やばいやつにゃ?」
トローチが1錠落ちています。
「薬だな、トローチ」
「それなんにゃ?」
「これを舐めるとな、喉や粘膜にいる細菌を殺菌してくれるんだ」
「食べれるんにゃ…」
「落とし主は分からんが、これ1錠なくした位じゃ、そんなに困ってはないと思うけど」
「じゃあ、にゃこ貰う」
そのまま口に入れようとするにゃこさん。
「こら!
このトローチは医薬品だから、むやみに食っちゃダメ」
「にゃきゃ?」
「それにシートごと口に入れるのもダメです」
この薬が入れられているシートは、PTP包装シートと言います。
薬を包装する方法の一つ。
錠剤・カプセルをプラスチックとアルミで挟んだ、シート状のもの。
実はにゃこさんだけでは無く、シートごと誤飲してしまう事例は多いのです。
「まさか!」
と思われるかもしれませんが、特にご高齢の方に誤飲がみられるようです。
薬を飲み慣れた方でも、と言うか飲み慣れているからこそ、テレビなどを見ながら無意識に飲んでしまうそうです。
シートごと丸呑みしても、そのまま便と一緒に排出されるので問題にならない事も多い。
ですが、PTPの角が内臓に突き刺さってしまう可能性もあるので、誤飲してしまった事に気付いた場合は、病院を受診するようにして下さい。
誤飲を防ぐためにも、1錠ずつハサミで分解しないようにしましょう!
「おまえ、マメみたいなこと言うにゃにゃい」
「マメチュー先生?知り合い?」
「親友にゃ」
「手」
「にゃ?」
再びイチイさんに肉球を“ぷいっ”とされるにゃこさん。
「だからなんにゃの」
「またな」
「にゃほ」
イチイさんは猛スピードで走り去って行きました。
「いつかうちの薬局の奴らにも、マメチュー先生に会わせよう」
今日はこちらが教育するどころか、教育して欲しいと思ってしまったイチイさんでした。