前回の続き
銀杏拾いをしていたマメチュー先生。
銀杏は栄養価が高く、様々な薬効があります。
「ただし…」 「ただし?」
一方その頃、具合が悪くなり倒れていたもち三さん。
くまじろ先生の問診に対し、何やら歯切れが悪い様子です。
具合が悪くなってしまった原因は、なんなのでしょう…
「マメチュー先生、ただし…なんですか?」
「ご存知ですか?
銀杏中毒という症状」
「銀杏?銀杏で中毒が?」
「タマニ、メディアデモ紹介サレテイマスヨネ」
【銀杏中毒】
銀杏は食べ過ぎ注意です。
40~300個で中毒を発症。
体調や年齢・栄養状態によって幅はだいぶあります。
「それって…
よっぽど食べなきゃ大丈夫って事ですよね?
だって40個ならともかく、それ以上はとても食い切れない」
「はい、普通は大丈夫ですよ。
必要以上の心配は無用です」
「なんにゃあ…」
と言いつつ、不安症のケイヒさんは計算をし始めます。
「えっとじゃあ、銀杏ご飯には5個入れて貰って…
茶碗蒸しには2個。
それで串焼きは…
そうだな、程良い量なら身体にいいんだから…」
「ただしねこさんはダメです」
「にゃっ!大人のねこさんでも?」
「ダメです。
子ども…人間の子どもさんも、大人に比べたら少ない量で中毒になる場合があるので、より気を付けた方が良いですね」
「そうなんだ」
「そして大人の場合でも…」
栄養状態に偏りがある人や、健康状態が悪い人…
その他アルコールを長年大量摂取している人などが、大量の銀杏を摂取することにより、銀杏中毒を引き起こしやすくなります。
「少ない量でも体調が悪かったりすると、中毒になっちゃうよって事ですね。
その銀杏中毒ってどんな状態になるんですか?」
「ああ…そうでしたね」
【症状】
銀杏摂取後、1時間から12時間程で発症。
吐き気、下痢などの消化器症状があらわれます。
痙攣などの、神経症状があらわれることもあります。
他にもめまい、発熱、不整脈が出ることもあるといわれています。
約半数が24時間程で症状が回復。
ただし、摂取量や栄養状態によっては、命に関わる場合もあります。
「死っ……!!?」
「はい」
なので早期に病院を受診することを、おすすめします。
「オ客様ニ出ス時ハ、気ヲ付ケナイト」
「ソウダネ。
オ酒ヲ飲ンデ気ガ大キクナッテシマイ、食ベ過ギテシマウカモシレナイカラネ」
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もち三さんは後ろめたくて、言いづらいようなものを食べたのかな?
それってなんだろう…
でも食欲の秋だもの。
食べちゃうよね。
それにしても煮物ってどんな?
てんまさんは医院の外に出ていました。
いつもマメチュー先生とだけ、話しているもち三さん。
もしかしたら女性が苦手で自分があの場にいると、もち三さんは本音を話せないのでは?
そう思い席を外したのです。
一応マメチュー先生は、女子力が高い男性の方です。
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銀杏の後処理を終えたマメチュー先生たち。
「あー、疲れた。
臭いし冷えたし風呂入りてぇ」
「銀杏ノ種ガ既ニ取リ出セタモノハ、オ裾分ケシマショウカ」
「そうですね」
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「あ…」
てんまさんは先ほどから辺りを舞っているイチョウの葉に、改めて目を止めました。
「もち三さん…原因…」
仕事で疲れていていたと言っていたもち三さん。
「もち三さんが、食べたもの…」
そこへくまじろ先生に銀杏のお裾分けに来た、マメチュー先生とにゃこさんがやって来ました。
「てんまさん!こんにちは」
「にゃす!」
種子が柔らかく水について浸けなくても良いものだけを、先にあげようと思って持ってきたのです。
「マメチュー先生!これっ!」
「てんまさん?」
「これ、銀杏にゃよ」
「そう、銀杏の季節ですもんね。
やっぱりこれが原因の可能性あるかも…」
「にゃ?」
「てんまさん?」
「くまじろ先生に伝えて、もう一回もち三さんに何を食べたのか聞いてもらおう」
“もち三さんは、ビタミンB製剤を投与され無事回復”
【もち三さんの診断結果】
銀杏中毒
お昼に煮物を食べたとの事でしたが、その中には大量の銀杏が入っていたそうです。
「昨夜の夕食にも食べ、今日の昼もその残りを食べてしまって…」
何個食べたかという具体的な数は、把握出来ないようです。
親族から送られてきたのがおそらく、200個近いのではないかとのお話でした。
もし食べきってしまったのだとしたら昨日と今日、一回のお食事で100個ほどは召し上がられたのではないかと思います。
ケイヒさんが拾った銀杏の量より、はるかに多い数だと思います。
「銀杏大好きなんです。
目の前にあると自然と口に入れてしまうんです。
次から次へと…」
ただ今年は例年とは違い残業が続いていて、昨日も土曜日出勤。
疲れがだいぶ溜まっていました。
その分、週末に好きなだけ銀杏を食べるというのを、いつも以上に楽しみにしていたのだそうです。
「食べ過ぎだと注意されるんじゃないかと思って…」
銀杏の…というよりは、単に食べ過ぎを注意され生活習慣を改善するようにと、叱責されてしまうのでは?と思ってしまっていたらしいです。
さすがに銀杏が直接の原因とは考えてはおらず、説明しておくべき事とは考えもしなかったそうです。
医院の外ではてんまさんが、何やらむくれていました。
マメ先生ばっかりずるいんだ…
色々相談されてさ…
人の性別なんて気にしなくてもいいのに。
あたしだって、誰にでも話しかけられる訳じゃないけど…
またほっぺたを膨らましているてんまさん。
にゃこさんはそれを見るとマネをしたくなるらしく、一緒になってほっぺたを膨らましていました。
もち三さんは女性が苦手というか、女性に嫌われていると思い込んでいる節があります。
いい年して食べ過ぎで倒れるなんて…
そう軽蔑されるかもしれない。
そんな事が頭をよぎったそうです。
だからだらしない身体なのだと…
女性はそういう中年男性は嫌いなのではと…
やはり相手が医療関係者でも、気にしてしまうみたいです。
しかし銀杏中毒というのは、問診により銀杏を摂取した状況を確認し初めて疑う事が出来ます。
銀杏をどのくらい、そしていつ摂取したのかといった内容を確認する。
原因を血液にて測定することも出来るのですが、結果はすぐには分かりません。
そのため手遅れにならないよう、問診は重要なのです。
問診の結果、患者さんの状態によっては、確定診断の前に直ちに治療を開始する必要もあります。
【治療】
銀杏中毒はビタミンB6の欠乏により、引き起こされます。
そのためビタミンB6製剤の投与が行われる。
症状・病状の悪化がないかどうかを確認しながら、経過観察しながらの治療が必要となります。
銀杏をお好きな方は一応、お気を付け下さいね。