マメチュー先生の調剤薬局

マメチュー先生の調剤薬局

ねずみの薬剤師、マメチュー先生の日常と、調剤薬局でのお仕事を薬の知識も交えながらほのぼのと描いています。猫好き、猫飼いの管理人の飼い猫エピソードも時々登場します。

秋の味覚・銀杏 その5

前回の続き

銀杏拾いをしていたマメチュー先生。

銀杏は栄養価が高く、様々な薬効があります。

「ただし…」 「ただし?」

一方その頃、具合が悪くなり倒れていたもち三さん。

くまじろ先生の問診に対し、何やら歯切れが悪い様子です。

具合が悪くなってしまった原因は、なんなのでしょう…


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「マメチュー先生、ただし…なんですか?」


「ご存知ですか?
銀杏中毒という症状」


「銀杏?銀杏で中毒が?」


「タマニ、メディアデモ紹介サレテイマスヨネ」

【銀杏中毒】

銀杏は食べ過ぎ注意です。


40~300個で中毒を発症。


体調や年齢・栄養状態によって幅はだいぶあります。


「それって…
よっぽど食べなきゃ大丈夫って事ですよね?

だって40個ならともかく、それ以上はとても食い切れない」

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「はい、普通は大丈夫ですよ。

必要以上の心配は無用です」


「なんにゃあ…」


と言いつつ、不安症のケイヒさんは計算をし始めます。


「えっとじゃあ、銀杏ご飯には5個入れて貰って…

茶碗蒸しには2個。

それで串焼きは…
そうだな、程良い量なら身体にいいんだから…」



「ただしねこさんはダメです」


「にゃっ!大人のねこさんでも?」


「ダメです。
子ども…人間の子どもさんも、大人に比べたら少ない量で中毒になる場合があるので、より気を付けた方が良いですね」



「そうなんだ」


「そして大人の場合でも…」



栄養状態に偏りがある人や、健康状態が悪い人…

その他アルコールを長年大量摂取している人などが、大量の銀杏を摂取することにより、銀杏中毒を引き起こしやすくなります。


「少ない量でも体調が悪かったりすると、中毒になっちゃうよって事ですね。

その銀杏中毒ってどんな状態になるんですか?」


「ああ…そうでしたね」


【症状】
銀杏摂取後、1時間から12時間程で発症。


吐き気、下痢などの消化器症状があらわれます。


痙攣などの、神経症状があらわれることもあります。


他にもめまい、発熱、不整脈が出ることもあるといわれています。


約半数が24時間程で症状が回復。


ただし、摂取量や栄養状態によっては、命に関わる場合もあります。



「死っ……!!?」

「はい」


なので早期に病院を受診することを、おすすめします。


「オ客様ニ出ス時ハ、気ヲ付ケナイト」


「ソウダネ。
オ酒ヲ飲ンデ気ガ大キクナッテシマイ、食ベ過ギテシマウカモシレナイカラネ」


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もち三さんは後ろめたくて、言いづらいようなものを食べたのかな?


それってなんだろう…


でも食欲の秋だもの。

食べちゃうよね。

それにしても煮物ってどんな?



てんまさんは医院の外に出ていました。


いつもマメチュー先生とだけ、話しているもち三さん。


もしかしたら女性が苦手で自分があの場にいると、もち三さんは本音を話せないのでは?
そう思い席を外したのです。

 

一応マメチュー先生は、女子力が高い男性の方です。


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***************

銀杏の後処理を終えたマメチュー先生たち。


「あー、疲れた。
臭いし冷えたし風呂入りてぇ」


「銀杏ノ種ガ既ニ取リ出セタモノハ、オ裾分ケシマショウカ」


「そうですね」

***************

「あ…」

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てんまさんは先ほどから辺りを舞っているイチョウの葉に、改めて目を止めました。


「もち三さん…原因…」


仕事で疲れていていたと言っていたもち三さん。


「もち三さんが、食べたもの…」


そこへくまじろ先生に銀杏のお裾分けに来た、マメチュー先生とにゃこさんがやって来ました。


「てんまさん!こんにちは」
 
「にゃす!」


種子が柔らかく水について浸けなくても良いものだけを、先にあげようと思って持ってきたのです。


「マメチュー先生!これっ!」


「てんまさん?」

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「これ、銀杏にゃよ」


「そう、銀杏の季節ですもんね。
やっぱりこれが原因の可能性あるかも…」


「にゃ?」


「てんまさん?」


「くまじろ先生に伝えて、もう一回もち三さんに何を食べたのか聞いてもらおう」




“もち三さんは、ビタミンB製剤を投与され無事回復”


【もち三さんの診断結果】
銀杏中毒


お昼に煮物を食べたとの事でしたが、その中には大量の銀杏が入っていたそうです。


「昨夜の夕食にも食べ、今日の昼もその残りを食べてしまって…」



何個食べたかという具体的な数は、把握出来ないようです。


親族から送られてきたのがおそらく、200個近いのではないかとのお話でした。


もし食べきってしまったのだとしたら昨日と今日、一回のお食事で100個ほどは召し上がられたのではないかと思います。


ケイヒさんが拾った銀杏の量より、はるかに多い数だと思います。


「銀杏大好きなんです。

目の前にあると自然と口に入れてしまうんです。

次から次へと…」


ただ今年は例年とは違い残業が続いていて、昨日も土曜日出勤。


疲れがだいぶ溜まっていました。


その分、週末に好きなだけ銀杏を食べるというのを、いつも以上に楽しみにしていたのだそうです。


「食べ過ぎだと注意されるんじゃないかと思って…」



銀杏の…というよりは、単に食べ過ぎを注意され生活習慣を改善するようにと、叱責されてしまうのでは?と思ってしまっていたらしいです。


さすがに銀杏が直接の原因とは考えてはおらず、説明しておくべき事とは考えもしなかったそうです。


医院の外ではてんまさんが、何やらむくれていました。

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マメ先生ばっかりずるいんだ…


色々相談されてさ…

人の性別なんて気にしなくてもいいのに。


あたしだって、誰にでも話しかけられる訳じゃないけど…

またほっぺたを膨らましているてんまさん。


にゃこさんはそれを見るとマネをしたくなるらしく、一緒になってほっぺたを膨らましていました。



もち三さんは女性が苦手というか、女性に嫌われていると思い込んでいる節があります。


いい年して食べ過ぎで倒れるなんて…
そう軽蔑されるかもしれない。
そんな事が頭をよぎったそうです。

だからだらしない身体なのだと…

女性はそういう中年男性は嫌いなのではと…



やはり相手が医療関係者でも、気にしてしまうみたいです。



しかし銀杏中毒というのは、問診により銀杏を摂取した状況を確認し初めて疑う事が出来ます。



銀杏をどのくらい、そしていつ摂取したのかといった内容を確認する。


原因を血液にて測定することも出来るのですが、結果はすぐには分かりません。


そのため手遅れにならないよう、問診は重要なのです。


問診の結果、患者さんの状態によっては、確定診断の前に直ちに治療を開始する必要もあります。


【治療】
銀杏中毒はビタミンB6の欠乏により、引き起こされます。


そのためビタミンB6製剤の投与が行われる。


症状・病状の悪化がないかどうかを確認しながら、経過観察しながらの治療が必要となります。


銀杏をお好きな方は一応、お気を付け下さいね。